第三十一話 迷宮蜂の迷宮は、こうでなくっちゃ!
あれから二日間、私たちはとにかく迷宮で戦い続けた。
この世界樹の森に潜む魔物たちを片っ端から混乱の魔力で呼び寄せ、ひたすら一方的に嬲る。それこそが私たち迷宮蜂のあるべき姿なのだと、改めて実感することができた。
おかげでみんなもかなりレベルが上がったし、この迷宮での戦い方もだいぶ身についてきた。
第一階層は燕蜂&毒沼・毒槍トラップのエリア。
超機動力を有する燕蜂が敵を翻弄し罠へ導く。それを踏み抜いたが最後、魔物は巨大な世界樹の槍に貫かれ動きを封じられるのだ。
世界樹の槍にはエイニーちゃん制作の超強力な植物系毒が仕込んである。これに貫かれたものは、たとえゾウ並みの巨体であろうと死滅する。
よしんば槍を回避できたとしても、燕蜂は集団戦闘が大得意だ。特に、大立ち回りできない狭い通路ならなおさら。
迷宮内部まで入ってしまえば、小型かつ超機動力を持つ燕蜂の独壇場だ。
彼女たちは一切攻撃を受けることなく、的確に毒針を叩き込み弱らせる。
一度毒を仕込んでしまえば、あとはスルーで大丈夫だ。なぜなら、次の階層で魔物は死ぬことになるのだから。
第二階層は長肢蜂の精鋭&炎・爆発トラップのエリア。
超高温かつ炎系の罠が数多く存在するこのエリアでは、第一階層で受けた毒の巡りが加速する。
さらに嬉しいことに、ランクCに昇格した長肢蜂はみんな『高熱耐性』という通常スキルを獲得した。これも、このエリアで長い時間を過ごした影響だという。
逆に、『高熱耐性』を持っていない魔物に、このエリアは突破できない。
血流は加速し毒が身体を蝕み、思考もまとまらず身体も十分に動かない。
こんなエリアで、超高速で移動できる蜂を相手にするのはさぞかし苦痛だろう。
それもただの蜂ではない。『筋力強化』によって大型の魔物の外皮すら簡単に食い破る。もはや彼女たちは、蜂としての領域を逸脱してしまっていた。
昆虫が最も弱い部分は、その小ささだ。小さい故に、攻撃力が弱い。重量がない故に、決定打を与えられない。
そんな常識を、彼女たちは易々とひっくり返して見せた。10匹単位の連携で、まるで紙でも千切るかのように魔物の首を落とすのだ。異常である。
そして、長肢蜂が『筋力強化』によって克服した弱点を、他の方法で解決した種族が、次のエリアに待ち構えている。
第三階層は
甲碧蜂は現状、私の迷宮における最高戦力だ。ランクCは30人以上。ランクBはデューンとシャノールさんの二人。この階層を突破できた魔物は、未だに現れていない。
それもそのはず。彼女たちは戦闘のエキスパートなのだ。……普段はとんでもないアホだけど。
彼女たちは『毒創造』を持たない代わりに、『巨大化』というファミリースキルを持っている。これこそ、昆虫の弱点を補う最適解だと言わんばかりに。
『変身』とは違い昆虫としての性能をその身に宿したまま、馬くらいのサイズまで大きくなる。それが『巨大化』のスキルだ。
これを使えば、狭い迷宮の通路はほとんど塞ぐことができる。
第一階層・第二階層を突破した魔物は確かに強力だが、毒を筆頭に大きなダメージを受けているのだ。ここで長時間足止めされれば、それだけで死に至ることは火を見るより明らかである。
さらに、甲碧蜂には鉄壁の防御力がある。特に上からの圧迫に関しては無類の強さを発揮するのだ。
だから、天井が下がってくるトラップと抜群の相性を持つ。『巨大化』を解除すれば、ほとんどの魔物は潰されて即死だ。
また、世界樹から枝を生やし拘束するトラップも仕掛けた。当然、枝と言っても『不壊属性』を持っている。私以外に破壊できる者はいない。
この拘束により自由を奪われた魔物は、『巨大化』や『変身』によって凄まじい攻撃力を獲得した甲碧蜂によって滅ぼされる。
彼女たちの望む白熱したバトルとは言えないかもしれないが、彼女たちにとって最も戦いやすい環境を用意した。
それこそ、女王である私の使命だ。彼女たちが存分に、命を賭けることなく戦える舞台を用意する。私にできることは、それ以外にない。
そして第四、第五、第六階層を飛ばして第七階層。ここには私の子どもたちがいた。
まだ歩くことも飛ぶこともできない子どもたち。シャルルとの間に生まれた、大切な子どもたち。絶対に守らなければいけない存在。
結局私は、この子たちをどうするのか悩みに悩んだ。そしてひとつ、結論を出したのだ。
勇者に襲われる前に、燕蜂の作ってくれた巣ごと迷宮から避難させておく。
この迷宮は、最悪勇者を閉じ込めるための牢獄にする。だから、巣をここに置いて置くわけにはいかない。ともすれば、私の力で世界樹を切り倒し勇者を抹殺するかもしれないのだ。
だから私は、少し不安ではあるが、シャノールさんに任せて巣を別の場所に移しておいた。
もちろん『Queen Bee』で急成長させるという手もあった。しかし、生まれたばかりの子どもは知能が低いらしい。もし勇者に挑みでもしたら、私はこの命に代えても戦わなくてはならない。
当然私だって死にたくないし、子どもたちも死なせたくない。だから、断腸の思いではあるがこの方法を取らざるを得なかった。
「大丈夫、ここで死ぬわけじゃない。全部上手くやって、次の迷宮で子どもたちと家族になればいい」
そうだ、私が上手くやればいい。誰も死なずに、私も死なずに、勇者とここで決着を付ける。
会ったこともない。特に恨みもない。もし地球人だというのなら、むしろ話がしたい。
……だけど、私の家族に手を出そうってんなら、私は一切容赦しない。
『レジーナ様。明朝、勇者一行が街を出ました。そちらに到着するとしたら、正午ほどになると思われます』
私が迷宮の再確認に勤しんでいると、クオンさんからの声が脳に響いた。
とても緊張した声音。どこか怯えてもいるな。クオンさんにしては珍しい。
今日、勇者がこの森を訪れる。できれば、世界樹を素通りしてほしい。彼らの目的が私でないことを願う。
だけどもし、彼がここまで来たら……。
「待っているよ、勇者ヒカル。この最奥の間まで来て、私にその顔を見せてほしい」
第七階層よりも上に存在する、迷宮としてではなく私たちの安息の地としての場所。最奥の間。
きっと勇者なら、この場所まで辿り着いて見せるだろう。そして、私を殺すのだろう。
だが、準備は万全だ。普段罠など存在しないこの場所にも、既に無数の罠を仕掛けてある。もはや、蜂さえもこの部屋を移動することは難しい。
……女王である、私でなければ。
「さぁ、今日で心臓に悪い生活は終わりだ。この世界樹を捨てるのはもったいないけど、私はもっと安心にあふれた生活がしたい。君に恨みはないけど、殺させてもらうよ。勇者ヒカルッ!」
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