第九話 喰らえ、サテライトキャノン!

 というわけで、私たちは現在迷宮の最奥に新しい罠を設置している。


 敵を迷宮の内部から先制攻撃するための罠だ。原理は全然わからないけど、『クリエイトダンジョン』に任せておけばなんの問題もない。


 たぶん、これも魔法系のスキルなんだろうな。なんとなく、攻撃系のスキルとは違う感じがする。


「しかしレジーナ、こんな締め切った空間でどうするというんだ? 確かに迷宮内部から攻撃するための罠だが、肝心の敵が見えていなければ話にならないぞ」


 うむ。シャルルの言うとおり、窓も何もなく、ただ巣と集会場を作るだけの最奥の間からでは、敵を視認することはできない。


 当然ながら、蜂になった私でも壁越しに敵を認識することはできない。まして、こんな分厚い世界樹の幹が間にあるのでは、音も聞こえないのだ。しかし……。


「シャルルはもう忘れたの? エイニーちゃん達にはすんごいファミリースキルがあったでしょ」


 『感覚譲渡』。長肢蜂たちが全員持っていたこのファミリースキルは、女王に視覚や聴覚などの五感を譲渡することができる。


 ただし、これはあくまでも一方通行だ。私の感覚を向こうに伝えることはできない。これも、女王と働き蜂の階級を現しているんだろう。


「なるほど『感覚譲渡』か。それならば、この閉鎖空間からでも攻撃ができるな」


「うん、すでに10匹の長肢蜂を使って索敵を行ってるよ。私が攻撃を加えたら、一斉に毒針をぶち込む手はずになってる。Lv30のあの娘たちに攻撃されたら、だいたいの魔物は死んじゃうはずだよ」


 長肢蜂の毒性は、地球でいうアシナガバチに似ている。スズメバチに比べれば少し劣るが、効果は酷似していた。


 長肢蜂の毒で一番強力な部分は、相手の痛覚を刺激するところだ。

 単純に針で刺されただけではない、尋常ならざる痛みが走る。


 地球のアシナガバチも、『痛み』という部分に関してはスズメバチより強力な場合がある。


 仮に大型の魔物でも、10匹の長肢蜂に刺されれば動けなくなるのは確実だ。


 さらに付け加えるのならば、この世界の働き蜂は皆『毒創造』というファミリースキルを持っている。これのおかげで、毒を生産するスピードが尋常じゃなく早いのだ。


 ミツバチなどは一度毒針を刺せばそこまでだが、長肢蜂のように強靭な毒針を持つ種類は、このスキルと相性がいい。


 これこそまさに、蜂系統が最強種と呼ばれる所以なのである!


「伝令用にエイリーンちゃんを呼んでおいたよ。エイニーちゃんの推薦で、一番移動能力が高いんだって。本当はこっちの指示も遠隔で出せればいいんだけどね」


 『感覚譲渡』じゃなくて『感覚共有』なら、私の声も通じるんだけどなぁ。向こうの声は聞こえるけど、やっぱり一方通行なのは面倒だね。


「お任せください、女王レジーナ様。何かあればすぐ伝えに参ります」


「うん、期待してるよ~」


 って言っても、作戦についてはもう伝えてあるから、よほどのことがなければ仕事はないと思うけどね。


「さて、じゃあ始めようかな」


 私はついに、罠へと魔力を込める。といっても、これは私の魔力ではない。世界樹の魔力だ。Lv1の私じゃ、魔法を使ってたらすぐガス欠を起こしちゃうからね。


 世界樹から『クリエイトダンジョン』を経由して、罠に魔力が集まっていくのを感じる。たぶん、『クリエイトダンジョン』がなければ、私にこんな魔法は制御できない。


 最奥の間が青白く輝きだす。それは、世界樹の属性と呼ぶべきなのだろうか。流動的でありながら重厚。そんな雰囲気が、この魔力には宿っている。


「……やっぱ不安だな。エイリーン、ちょっと。ゴニョゴニョ」


「……わかりました、シャルル様の言うことならば。すぐに伝えてきます」


 ふと視線を向けると、シャルルがエイリーンちゃんに何か耳打ちしていた。


「ぬはは! シャルルくん、エイリーンちゃん、何をコソコソ話しているのだね! これが、私の人生初魔法だよ! 興奮する!」


 ああ、わかっているさ。Lv1の私では、きっと魔物をびっくりさせる程度の魔法しか撃てない。けど、それでも、魔法だよ! めっちゃ憧れるし、めっちゃ楽しい!


「さあ、エイニーちゃんの視界を借りて目標を確認! ターゲットはイノシシの魔物! エイニーちゃんは『解析』が使えないけど、推定レベルは28! では行くぞ!」


 目標をしっかりと確認し、エイニーちゃんにはイノシシの真上に待機してもらう。

 ……私の想定よりだいぶ上空に待機してるけど……まあ良いか!


 私はさらに世界樹から魔力を引き出し、攻撃魔法の最終段階に移行する。

 世界樹からあふれ出した魔力は私を通り、『感覚譲渡』のつながりを通してエイニーちゃんへ。そしてエイニーちゃんの視界からイノシシの魔物へと移っていった。


「ヒャッハー! 先制攻撃魔法、『サテライトキャノン』!」


 ……瞬間、エイニーちゃんの感覚を通して私に伝わってきたのは、絶望の光景だった。


 一瞬の青白い閃光。それと同時に来たのは、音ではなく衝撃だった。


 ほんのわずかな、それこそ勘違いとも言えるような短い時間の差。しかし、明確にわかる。音よりも先に衝撃が来た。それをはっきりと感じさせるほど、強烈な威力だった。


 そして光が静まったそこには、多くの木々がなぎ倒されていた。当然ながら、イノシシの魔物など灰も残さず消滅している。


 あまりの高威力。あまりの高熱量。どんな生物にも等しく『死』を与える絶望の魔法が、誕生してしまった。


「……って、呆然と眺めてる場合じゃない! エイニーちゃん、みんなは無事!?」


 こちらから声は届かないとわかっているけど、そう聞かざるを得なかった。私の魔法で、みんなを消し飛ばしてしまったかもしれない。


『ご安心ください、レジーナ様。皆無事です。エイリーンが、もっと距離を置くようにと教えてくれました。おかげで、私たちはケガもありません』


 私の声が届いたわけではない。けど、エイニーちゃんは私が心配しているだろうと思ってそう教えてくれた。


 加えて、周囲を一周見渡し視界に入れてくれる。

 蜂の目はほぼ360度見えているっていうのに、律儀なもんだね。


「ん? エイリーンちゃん? エイリーンちゃんさっきまでそこに……っていない!?」


「……はぁ。この魔法は絶対にヤバい奴だと思って、俺が行かせたんだ。あのままじゃ全員巻き込まれてお陀仏だっただろうからな」


 なんと! シャルルはこうなることを予想して、事前に対策を打っていたのか!

 流石、戦士階級の名は伊達じゃないね!


「レジーナ、不用意に世界樹の力を使わないでくれ。世界樹は膨大な魔力の塊だ。一部でも取り出せば、それこそワイバーンだって一撃で倒せる。これほどの規模になると予想していなかった俺にも過失があるが……」


「ううん、私の見通しが甘かったよ。それに、調子に乗りすぎた。……今度は世界樹の力をちゃんと制御してみせるよ! 今回は失敗したけど、次はイノシシだけを倒せるようにする!」


「いや全然わかってな……! いや、それでいい。この魔法が強力なことは確かだ。もしかしたら、勇者にだって通用するかもしれない。何せ、Lv2000超えの世界樹から放たれた魔法だからな」


 うんうん、今回は二人とも、ちょっと至らないところがあったよね。でも、誰も傷つかなかったからOK! 本来の目的であるイノシシは無事に倒せたわけだし!


「そうだ、せっかくだからステータスを確かめてみるよ。もしかしたらレベル上がってるかもしれないしね!」


【種族:迷宮蜂 Lv12:ランクD 階級:女王蜂 レジーナ】

通常スキル:レベルアップブースト

固有スキル:クリエイトダンジョン

      Queen Bee

      アストラの承認

ファミリースキル:毒創造

         共通言語


「は?」

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