超ウルトラやべぇ種族『迷宮蜂』に転生した。どうやら私は女王らしい

Agim

第一章 迷宮創造と勇者襲来!?

第一話 私のウルトラプリティボディが!!

 気が付くと私は、とても暗い場所にいた。ひどく身体も怠くて、起き上がるのも面倒なほどだった。


 今何が起きているのか、正直全然良くわかっていない。自分がどこにいるのかも。


 ひとまず私の部屋でないことは疑いようもない。相変わらず足元すら見えないが、木のにおいがすることだけはわかる。それと、私の家周辺よりもずっと静かだ。


 怠くて思考もまとまらないけれど、とりあえずここがどこなのか確認する必要があるだろう。スマホが近くにあれば、最低限の明かりにはなる。


 そう思って、私は少し起き上がり自分の周辺に手を滑らせた。どうやら私が倒れていたのは、柔らかいベッドではなく硬い地面のようだった。


 ……カタ、カタカタ。


 ふと意識を向けると、そんな音が聞こえる。何か硬いものを叩いているような音だ。それも、すごく近い。というか……。


(この音、私から出てる? ……!)


 瞬間、私はとんでもないことに気が付いてしまった。というか、どうして今まで気づかなかったのか、今となっては不思議なくらいだった。


 声が、出ないのだ。私は独り言が大好きで、一人でいるときはたいてい誰でもない自分に話しかけている。だから今も、声に出して今の状況を確認しようとした。


 しかし、どういうわけか声が出せない。口を閉ざされている様子もなく、喉に不調を感じるわけでもない。にもかかわらず、どんなに試みようとも私の口から音が出ることはなかった。


(もしかして、何らかの原因で声を失ってしまったの? 言葉を話せなくなる病気……みたいな?)


 聞いたことがないわけではない。実際知り合いにいるわけではないが、声を失う病気というのは存在する。まさか私がそうなるとは思っていなかったけど。


(とにかく今は、誰か人を探そう。こんな状況で独りぼっちとか、流石に不安すぎる。ここがどこなのかもわからないし、今が何時なのかもわからないけど、これはマズい気がする!)


 そう思って、私は怠い身体を起こし立ち上がった。こんな硬い地面で寝ていて、かつ全身に倦怠感があるにもかかわらず、不思議と身体はとても軽く感じる。移動するのに十分なほど。


(……けどおかしいな。これ、私ちゃんと立ててる? なんか四つん這いみたいな感じじゃない?)


 これまた不思議なことに、自分ではしっかり立っているつもりなのだが、どうにも違和感がある。目の前すら見えないほど真っ暗なのに、なぜか目線がとても低いような気がするのだ。


 というか、腰が全然曲がらない感じもある。腕に力を入れて身体を起こそうとしても、これ以上持ち上がらないのだ。いやそれ以前に、足が尋常じゃなく短い……?


(ん~意味が分からん。寝ている間に私の身体に激変が起きた……? って言っても、そんな足が短くなるような変化が起きるはず……ほぇ?)


 改めて意識して、初めて分かった。いちにさんしごろく……。腕が六本ある。いや、この場合肢と呼ぶべきか? とにかく人間の形状でないことは間違いがない。


(は!? なにこれ! もしかして、何らかの悪の組織的な何かに誘拐され人体実験の道具にされた!? 私の超ウルトラプリティボディに何してくれとんじゃい!!)


 ……いや待て、冷静に自分の身体と向き合ってみたら、おかしい部分はいくつもあった。


 まず、背中にめっちゃ筋肉がある! 四か所に大きい筋肉があって、腕みたいに動かせ……どぅわ!!


 突如、背中の筋肉に意識を集中させた瞬間、私の身体が大きく持ち上がった。驚きのあまり変な声が出そうになったけど、あいにくと私は声を失っている。


 というか、これはあまりにも異常だ。腕が六本あるのは……まあ許そう。いや、本当はそれもありえない。だってフォルムがカイ〇キーみたいになる。


 けど、これに比べればはるかに普通のことだ。だって今、私は空中を飛んでいるのだ。視界が真っ暗だからどのくらいの高さを飛んでいるのかはわからないけど、間違いなく地面からサヨウナラしてしまっている。


(ありえない。本来人間を宙に浮かせるには、相当大きな装置が必要になるはず。それも、こんな感覚的に動かせるものじゃない)


 まさか、この2022年にもうタケ〇プターが完成しているというのか……!


 いや、そんなわけないな。タケコ〇ターは出力が高すぎて、頭に付けたら首が捩じ切れる。私のように背中に付けたとて、背骨ごとゴキッと逝くことは間違いない。これはそう、あれだ。翅かなんかだ。


(と、とにかくこれは異常すぎる。私の身に何が起きたのかも気になるし、早く全体像を確認しないと!)


 もし私が人体実験に巻き込まれたのだとしたら、六本の腕や四本の翅のほかにまだ何かくっついているかもしれない。さっさと光のある場所を探して、鏡か何かで私の身体を確かめる!


(とはいえ、人の身体を勝手に改造するような連中が、このまま私を見逃してくれるかなぁ。私が警察にでも泣きついたらこの組織は……はっ!)


 そこで私はまたも気が付いてしまった。


 そうだ。今の私が警察に泣きついて、どうして話を聞いてくれようものか。超ウルトラプリティボディ(JK)を失った今の私に、警察は協力してくれないだろう。


 いや、それどころか人間とすら認識されないかもしれない。化け物と蔑みを受け、ともすればそのまま拳銃でBang‼ 一瞬で殺されバッドエンドコースだ。そんなのは認めない。


 この場所から逃げ出さなければいけないのは間違いないが、かといって誰かに協力を要請することもできない。……家族にも。私はこれから、孤独の道を歩むしかないのだ。


 そう考えると、私の行動は早かった。私はこう見えても現実主義なのだ。どうしようもないことにいつまでも時間を使うのは好きではない。


 ……というのは嘘で、実感が湧くのがめちゃくちゃ遅いだけだ。たぶん、夜になったら大泣きをする。でも、今はそんなことをしている時間はない。絶望的な状況だなんて、今は気づかなくていい。それは後でたっぷりやればいいのだ。


 私は周囲を埋め尽くす暗闇に向かって飛んだ。何も見えないが、どこかに出口があるかもしれない。


 すると、すぐ近くに壁があるのがわかった。まだ触れてもいないのに、私にはそこに壁があるとわかる。これも、人体改造の結果なのだろうか。


 とにかく私は、壁伝いにこの部屋を一周した。横穴は案外簡単に見つかった。


 そこからは狭い通路だ。先ほどのは大広間だったのだろう。そしてこれは、どこか別の場所につながる通路。


 もしかしたら、私は出口ではなく最奥に向かっているのかもしれない。けれど、そんなことをいちいち考えていては何も行動できないということも、私はよくわかっていた。


 とにかくまっすぐ通路を抜け、さらに大広間に出て、また別の通路に入る。とにかくこれを繰り返した。自分が上に移動しているのか下に移動しているのかもわからず、ただ直感に任せて。そしてついに……。


(出た! やっと出れた! 組織の人間っぽいのには出くわさなかったし、もしかして私、超すっごいかも!)


 真上に輝くのは太陽の光。久方ぶりのその煌めきに、涙さえもあふれ出しそうだった。まあ、どうやら声と同じく涙も出ないみたいだけど。


(にしても、とんでもない田舎ですなぁここは。見渡す限り森と山! ってか、木でっか! 私空を飛んでるんだけど、見上げるほどだなぁ)


 振り返ると、周囲の中でも突出して大きな木があった。見上げすぎて首の骨が折れそうである。


 どうやら、私はあの大木の中から出てきたらしい。木の中に実験施設とか、良いセンスしてる。


(っとと、まずは私の全身を確認しないとねー。私の超ウルトラプリティボディ(JK)がどんなセクシーでエレガントな姿になっているのか、今から楽しみだわ~)


 そう考え、私は周辺の水場に飛んだ。見えていたわけではないが、不思議と水のある場所がわかったのである。


(さてさて~、今の私はどんな姿をしているのかな~?)


 絶句した。声も出せないというのはまさにこのことを言うのだろう。二重の意味で。


(……いや、予想してたけどね。肢が六本で翅が四本。光を見てから妙に視野が広いなぁとか思ってたんだけど、にしてもこれは……)


 蜂だ、まぎれもなく。黒と黄色の警告色に、透明感のある翅。お尻はプリティセクシーではなく、めちゃめちゃ物騒な毒針が付いていた。


 そして察した。あるいは、気付かないふりをしていたものにやっと確信が付いた。


(うん、これあれだ。悪の組織とかそういう次元じゃないわ。つまるところ……)


 私はどうやら、人間から蜂に転生してしまったらしい……。とほほ。

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