雇い主と使用人と、ねじ曲がった愛

milly@酒

第1話 出会い

山桜凛(やまざくら りん)は、有名私立大学付属の小学校に通っており、5年生である。

容姿は、うっすらと栗色の髪に、色白の肌。中肉中背である。大きくなれば美人になるだろう。

勉学はバリバリで、武道も申し分ない。

凛は空手と体操を続けている。

空手は身を守る術を。

体操は、柔軟性が身につき、幼い頃からやっていたので恐怖を感じずに身体を動かす事が出来る。


学校帰りのある日の事。

凛は電車を乗り継いで自宅へ帰ると、用事がない限り自転車で頻繁に寄る公園がある。

その公園を児童公園と呼ぶ。

近くには小さな川があり、遊歩道には桑の実がなる。

遊具も多く、遊ぶには問題ない。


ただ…、遊ぶ相手がいない。

電車を乗り継いで学校から離れるからということもあるが、致命的な事に、凛は性格が悪い。学校ではそれを隠していられるが、私生活では難しい。


とある梅雨の長雨の日。

児童公園には誰もおらず、凛は一人で川を眺めていた。体育座りで無表情で。

すると、カッパを着た同い年の女の子に話しかけられた。


「この木の枝にカタツムリがいるよ」


女の子が植物を指差すと、カタツムリは角を交差するように動いていた。


女の子は、黒髪に中肉中背、可愛らしい顔に愛嬌がある。将来は可愛い女性になるだろう。


「あなた、名前は?」


「高橋杏(たかはし あん)」


「私は山桜凛(やまざくら りん)」


「凛ちゃんって呼んでもいい?」


「好きに呼べば」


「私の名前も杏って呼んでね」


ところで…、と杏は言う。


「雨だから、図書館や児童館に行った方が楽しいかもしれないね」


「児童館って何?」


凛は驚きを隠せない。


「えっ?知らないの?放課後や土日に無料で遊ぶ所だよ」


凛はムッとしたように言う。


「児童館を知らなくても、医師や弁護士にはなれるから」


「一緒に行こうよ」


「仕方ないわね」


そのまま遊びにいく二人。



凛は文武両道、才色兼備。

それに対して、杏は特別なものを持っていないが、料理、裁縫に折り紙が得意。家庭的な女の子なのだ。


凛は何だかモヤモヤした。

自分にないものを杏は持っている事だけではない。

凛は、第二次性徴が早かった。

杏に触りたくてたまらなかった。


凛が杏を見る目と、杏が凛を見る目は明らかに違った。


たまに、杏は泣きながら帰って来ることがあった。学校で杏にちょっかいを出す男の子がいたようだ。


「これだから、公立の学校は困るのよ」


杏が泣き顔で公園を通ると、凛は杏を抱きしめて、髪をとかした。

もっと、もっと、と凛の本能のままに動きたかったが、杏を悲しませたくはなかったので、それ以上はしなかった。



これが二人の出会いだった。



再会したときは、二人の関係はねじ曲がってしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る