第8話 暴風が吹きすさぶ中、握ってるものを手放したらどうなるか

 マギヤがトロイノイとの記憶を取り戻して何日か過ぎた日。

 かつてマギヤに課せられてた、ウリッツァやヴィーシニャと二人きり禁止令が解除されたことを、ウリッツァはマギヤに知らせる。


「……ウリッツァはともかく、私、ヴィーシニャさんに何をしたんですか」

 ヴィーシニャに関する記憶がないマギヤなら聞いて当然の質問である。

「……トロイノイからあのことを聞いたとき、オレ……結構信じられなかったよ。……ごめん、これ以上は、あんま言いたくない」



 翌日、マギヤはトロイノイにも同じようなことを聞いてみる。

 トロイノイは物凄く複雑そうな表情を浮かべながら、マギヤを見たりマギヤ以外を見たり、でも一言も話さないでいる。


「……ヴィーシニャさん本人に聞きましょうか」

「え、ちょっ、待っ――」 


 マギヤは走り出す。マギヤが向かう先は、ただ一つ。

 聖女邸のヴィーシニャの部屋。

 今日は休日だが、ヴィーシニャが警護班かウリッツァと共にどこかへ出かけるという話は無く、朝食の時ぐらいしか部屋を出入りしていない。

 マギヤは道中迷うことなく、ヴィーシニャの部屋に向かい、深呼吸からの冷静なドアノック&ヴィーシニャ本人に入室許可を得た上で部屋に入る。


 ヴィーシニャが「きゃっ!」と小さい悲鳴を上げた後、マギヤはヴィーシニャに、こう尋ねる。

「言いたくないなら言いたくないで結構です。私、貴方に何をしたんですか……?!」


 それに対し、ヴィーシニャは「……質問と今の姿勢に、何も感じないの?」と思わず質問に質問で返す。


 マギヤは、ヴィーシニャの部屋に入るやいなや、ドアを閉めるのも忘れて、ソファーに座ってるヴィーシニャに縮地法で近付き、ヴィーシニャをそこに押さえ込んでいる。

 マギヤが質問する前に出たヴィーシニャの小さい悲鳴は、マギヤに押し倒されて出たものだ。

 さらにヴィーシニャの両手は、それぞれマギヤの手と一方的にギュッと指を絡ませられ繋がれている。


 マギヤはヴィーシニャの言葉を受けて自分の手などを見る。

 それで「……こうでもしないと私、ヴィーシニャさんとちゃんと向き合えなくて――」などとマギヤが答えようとすると、

 「何やってんのコラァ!」と走り出したマギヤを追いかけてたトロイノイが、ヴィーシニャの部屋に瞬間移動テレポートで突撃し、マギヤを風魔法でヴィーシニャから引きはがす。

 マギヤが吹き飛んでる隙に、ヴィーシニャをかばうように、マギヤの予想落下地点とヴィーシニャの間――ローテーブルもいるけど――に立つトロイノイ。


 吹っ飛ばされたマギヤは、窓とベッドの間の床に仰向けに着地し、そこから起き上がってトロイノイに近付き……抱きしめる。

「ちょ……ちょっとマギヤ?!」

 目をつむって抱きしめてるトロイノイを吸い、腰をヘコヘコと、トロイノイに擦り付けるマギヤ。

「マギヤ、ねぇ、ちょっと?」

 ……腰のヘコヘコは止まったが、未だにトロイノイを抱きしめたまま離れないマギヤ。

 トロイノイが何度もマギヤを呼んでると、なぜか「うあぁ!?」とマギヤが飛びのく。

 それからしばらく何か考え込んだあと、「私、ヴィーシニャさんと何があって二人きり禁止になったんですか?」と無神経にヴィーシニャに尋ねるマギヤに対して、トロイノイはこう怒鳴る。

「その前に今ヴィーシニャがこうなってる理由、分かってんのマギヤ?!」

 その声にマギヤは、うっ……! ひぇっ……と目を潤ませ、

「わぁーーーーーん! ごぉーめーんーなーさぁーいー!!」

 年甲斐もなく大泣きし出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る