第9話 文化祭準備、始まる
演劇部の台本を読まされて気がついたが、そろそろ文化祭の準備期間に入るようだ。
この高校の文化祭は大々的に行われる。
私立ということもあってお金がかかっているのか、地域の人も自由に出入りできるし現金を請求するお店も出すことができるのだ。
僕は去年の文化祭には参加しなかったが僕のクラスでもメイド喫茶をやったりと、どのクラスもかなり力を入れて取り組んだと聞いている。
文化祭の日は休むと公言しておいたのだが、本当に行かなかったら文化祭明けに男子から恨み言を言われたのは今でも覚えている。
よっぽど僕のメイド姿が見たかったらしい。
そして今日は、クラスで何を行うかを決める日だ。
「はい、この時間はクラスの出し物を何にするか決めます。まずは一人一人にやりたいことを書いてもらって、そこから実現可能かどうかを判断して、最終的にそこから決めていこうと思う。じゃあこの紙を回していって」
堀場先生がメモサイズの白紙を配っていく。
何かやりたいことと言われても、何もやりたくないんだよなぁ。
取り敢えず何か書かないといけないので最初に思い付いた男装女装カフェと記入しておく。
芦塚さんの男装はちょっと見たいし、もし参加させられても僕はそのままでいけるしね。
そもそも当日は来ないから準備段階から楽しめるものがいいだろう。
芦塚さんが男の格好をしたら格好いいだろうな……。
「みんな書き終わったな? じゃあ後ろから集めてきて」
全員分の用紙を先生が受け取り内容を確認していく。
同じような内容のものは固めているのだろうか、3箇所に別けて積まれていくのが見える。
そうして別けられた3つを先生が黒板に記した。
○男装及び女装喫茶 21票
○たこ焼き等飲食系 4票
○お化け屋敷 5票
なん……だと……?
「すごい結果になったな。お前らそんなに女装したかったんだ。ああ、西河を見てたらやってみたくなったってことか?」
クラスメイトの視線が僕に集まる。
み、見ないでぇ……。
べ、別に好きで女装してるんじゃないんだからね!?
自分に似合った格好が、たまたま女装だっただけなんだから!
勘違いしないでよねっ!
「飲食系は一緒にできるけどお化け屋敷を同時には無理だな。書いてくれた人には申し訳ないが、今年は男装女装の喫茶店でいこうと思う」
『おお〜』という声がクラスから湧き、拍手が起きた。
僕は冗談のつもりだったのに……実現するなんて思わないじゃない!
「さて、出し物を仕切るリーダーも決めてしまおう。誰かやりたい人はいるか?」
暫くザワついた後、ショートカットの女子生徒が一人、手を上げた。
あの人は確かバレー部の……。
「丸山がやってくれるのか。それじゃあ前に来て」
丸山さんが教壇に立ち、挨拶を行う。
「今回の男装女装喫茶は私が是非ともやりたかった企画なので、実現して本当に嬉しいです。私も精一杯やりますので、皆さんも是非力を貸して下さい。よろしくお願いします!」
丸山さんが頭を下げると共に拍手が起きた。
彼女の事はあんまり知らないけど、よっぽど男装したかったんだなぁ。
背も高くて髪も短いし、結構似合いそうな気がする。
「まずは料理を作るキッチン側と、給仕を行うサービス側に分けたいと思います。希望がある人は手を上げて下さい」
人前に立ちたくない、異性の格好をしたくないという人達がチラホラ手を上げてキッチンを希望していき、男装をしたいと張り切る女子生徒はサービスを希望していた。
しかしサービス側を希望する男子生徒は居なかった。
クラスメイトを見回してみると、『べ、別にやりたくないけど、どうしてもって言うなら……』と言いたげな顔が並んでいる。
やりたいなら手を上げればいいのに。
何が好きかで自分を語れよ!!
そうして希望のある生徒の仕分けが終わる。
僕はそもそも文化祭の日は休むつもりなので、分けらた後にそれを伝えるつもりだ。
「じゃあ残りの人は私が決めてもいいかな?」
反論する人は誰もいない。
皆がこの独裁者を崇拝していることがよく分かる。
「じゃあサービス側に男子が少ないから……高御堂君と西河君と、あとは佐藤君にお願いできないかな?」
「俺は構わんぞ」
「え!? 俺かよー! まじかー! まあ、仕方ないなー」
佐藤君はどう見ても嬉しそうにしているが、指摘しないことが優しさだろう。
……ていうかあれ近藤君(仮)じゃん。
近藤君じゃなくて佐藤君だったのね。
五十音的も近いし藤は合っていたからほぼ正解だよもう。
「西河君は? いいよね?」
近藤君改め佐藤君を眺めていると、丸山さんから名指しされてしまう。
あら恥ずかしい。
「僕は文化祭の日は休むつもりだから他の人にしてもらえると助かるなあ。準備はちゃんと手伝うから」
「ダメだよそんなの! それじゃあこの企画自体、やる意味がないじゃない!」
丸山さんは教卓をバン! と叩いて声を上げる。
いや怖いって。
あなたが男装したかったんじゃないの?
「これは西河君の為の企画なの! 西河君が男装する所が見たいのよ! これはクラス全員の意思と言ってもいいくらいなのに!」
「そんなことはないんじゃないかな……?」
丸山さんの勢いに若干引きつつクラスメイトを見ると、頷いている生徒がチラホラいる。
嘘でしょ?
「で、でも僕男なのに、男装って表現はおかしいんじゃないかなって思ったり……」
「細かい事は気にしない! イケメン転校生高御堂君の女装、女子よりかわいい西河君の男装、この2つで我々は天下を取るのだ!」
「えぇ……」
僕が言葉を失っているとクラスメイトもテンションが上がってきたようで『おっしゃやるぞ!』『西河君の男装楽しみだね!』『西河には女装用の衣装も頼む』と口々に言っている。
希望者の話を聞いてくれていた優しい丸山さんはもう何処にも居なかった。
「これは決定なの! 西河君も覚悟の準備をしておいて下さいね!」
攻略サイトに騙されたような事を言っている彼女には、もう言葉は通じないだろう。
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