我が家に本当に未来がやって来た

らんた

我が家に本当に未来がやって来た

「これがFCVだ。水素の力で動く電気自動車だ。納車式を終えて来たぞ」


「すげえええ!」


「でもお父さん、水素ステーションってほとんどないんでしょ?」


「あるんだな」


この車「スカイ」は当初750万円もしたのが一気に250万円まで下がったのだ。


「乗ってみる?」


エンジンをかける。静かだ……。まあ、実際はモーターなのだから、そりゃそうなのだが。


「本当に水と空気しか出ないんだね」


「そう、究極のクリーン自動車だ」


そして、この水素自動車が一気に大衆車になったのは理由があるのだ。


「いいか、見てろよ?」


家族が乗り込む。そしてやってきたのは水素ステーションだ。車を止め、電動パーキングボタンを押す。


「何そのカプセル?」


ノッチ式で開ける。昔はここを「給油口」と言っていたのだ。スカイに刺さったカプセルをひねって取り出し……


「あ!」


「新しい水素カプセルを入れるだけ。高圧ガス資格者も要らない。全部セルフサービスなんだ」


支払いはICカードだ。「チャリーン♪」と音がする。


「すげえ!」


「ちなみに元から満タンに近い水素カプセルは……その前に家に戻ろうか」


満タンに近い水素カプセルはキャップをつけてトランクに置いた。


家に着いて「発電機」にキャップを再び開けて水素カプセルを差し込む。ひねることでカチッと音がする。


「もう出来たの!?」


「太陽光なんかよりも発電能力が大きい。災害時にも威力を発揮する」


そう、なぜFCVはBEVに勝てたのか。水素カプセルはまるでカセットコンロのように汎用性が効くのだ。売電で水素購入代よりもはるかに儲かる。


「スカイって車は『二度と空を汚しません』って意味だ。そしてこの水素も……。決して火力発電所から作られた電気を元にしてるのではない。アンモニアだ」


日本が再び安定成長に載った理由、それは「水素社会」が実現出きたからなのだ。


「-46%のCo2削減にお父さんも貢献したぞ?」


「セクシーじゃん!」


人工光合成機器。このおかげで酸素も作り出せ、かつ水素も作り出せたのだ。


「もう日本は化石賞をもらう機会はない。なお、使い切った水素カプセルは水素ステーションに返すことでICカード経由で容器代を逆にもらう。使い捨てじゃないんだ」


「ええ!? すごい、お父さん」


「でも、これおじいちゃんはもう運転できないよね?」


「出来るよ!?」


「何で?」


おじいちゃんを呼んできた。相も変わらずワイドショーを見ていた。


「おじいちゃん。TV生活卒業しようか?」


「わしゃ、もう運転できんよ」


「いいから来て」


父をスカイに乗せた。


「このスイッチ押すと……」


――自動運転、レベル4に移行しました


「軽井沢に行って」


――了解しました。軽井沢駅前になります


「すげえええ」


関越に入るとすれ違うのはみんなFCVだ。トラックまでも。


自動運転を解除しPAにやってきた。


「さ、とうさん、このボタン押して『軽井沢まで』って言ってみて」


老人は運転席に座って恐る恐るボタンを押す。


「軽井沢に……行って」


――了解しました。軽井沢駅前になります


「運転してる!! どんどん加速するぞ 時速80キロだ!」


何も触っていない。勝手にハンドルが動くのだ。もちろん衝突安全ブレーキ機能搭載だ。


「な、もう家にこもる必要はないんだ」


我が家に『未来』がやって来た。いいや、我が家だけじゃない。日本に未来がやって来たのだ。


高速道路から見える光景は人工光合成のパネル。これで酸素を作り水素も作る。もちろん人工光合成機器も作る。人工光合成機器の工場群も見える。電機大国日本が復活し同時に日本の自動車産業は守られたのだ。


「あ、発電所!」


水素発電所はクリーンなので内陸にも設置がOKだ。


=終=

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