空飛ぶクルマ事故調査委員

らんた

~序~

 いつもの通勤時の光景である。彼は空飛ぶクルマで東京都心に通勤する。大型1種免許と自家用操縦免許を持っている。見た目は普通自動車だが重量の関係で要大型免許だ。


 ――都心から100kmも離れている御殿場からたったの20分だ


 チェックリストをダッシュボードから出す。ちなみに荷物もダッシュボードに入れる。


 「航空モード切替」


 タッチパネルを押すとブレードが出る。


 「目的地、自動セット」


 勝手に自動操縦してくれる。


 「残充電、OK」


 緊急着陸はしたくないものだ。


 気象レーダーを見る。


 「気象条件、OK」


 乱気流は怖いものだ。


「アンチアイス、オフ」


 よっぽどの寒冷地じゃないとオフが通常だ。


「フラップ15」


揚力を出す。着陸時だと向きは反対でフラップ15だ。


「推進」


プロペラの音が鳴る。


「V1」


 V1コールになると自動車モードに戻せない。


「ローテート」


ローテートお言うと操縦桿を引き上げる。ほぼヘリなのですぐ飛ぶ必要がある。


「ギアアップ」


自動車用タイヤが上がった。


「自動操縦モード切替」


 たったこれだけである。なんと「新幹線こだま」よりも速度はずっと早い。むしろ新横浜から減速運転するのでこちらの方が早いのだ。


 彼の職場航空事故安全委員会の空飛ぶクルマ部門。時には実証実験のために事故車と同型の車を運転する。このため腕が鈍らないように職場から車が無料でリースされている。しかもプライベートでの使用も自由だ。


 シートベルトも自動車用ではなくて航空用の三点シートベルトだ。さすがに空飛ぶクルマの航空管制は日本語でやりとりする。もちろん衝突防止装置も対地接近装置も失速警報も鳴るように出来てる。


 もちろんコックピットボイスレコーダーもフライトレコーダーも搭載義務だ。


 シートベルトサインは消えたがシートベルトは外さない。じきにまたシートベルトサインが付き着陸態勢に入るからだ。


 「フラップ15」


 「着陸態勢」


 「ブレーキレベル2」


 あっという間の着陸である。事故率は驚きの0.00001%


 ただし事故が起きたら悲惨だから私のような人間がいるのだ。


 オフィスの扉を開ける。


 「おはよう」

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