或る投稿

鹿角印可

或る投稿

SNSに投稿された記事。

現在は削除。


「12歳の男の子と10歳の女の子のシングルマザーです。

○○国が侵攻してきて、政府が侵攻の暫定的容認という結論を下して○○国の政策が施行されることとなりました。

ご存じの通り、親子の隔離措置命令です。私たちも従いました。


私だけでなく離れ離れになった子供たちの無事を思わない日のない親はいないことと思います。

とはいえ、政策にきちんと従っているのだからひどいことはされないはずです。

それだけを心のよりどころとしていました。



音信不通の日が三か月も経った頃でしょうか。

そんな時、万が一の時にと持たせていた携帯の番号の着信がありました。


すぐに出ました。


こちらがもしもしと言う間もなく、聞こえてきたのは息子の声ではなく、大声で笑いながら話してくる男の声でした。多分、○○国の言葉だったと思います。


ひとしきり何かを話すと唐突に男は通話を切りました。


訳のわからない恐怖に私が立ち尽くしていると、今度は動画が送られてきました。

嫌な予感にかられながらも、見ずにはいられませんでした。


動画には薄汚れた床に裸で転がされた子供が映っていました。後ろ手に縛られています。

殴られ続けたのでしょう顔がすっかり変形してしまっています。

初めは誰かわかりませんでした。それでもすぐに分かりました。子供は私の息子でした。


『おかあさん』

力なくつぶやく声が聞こえます。やはり息子の声でした。


呟いた瞬間、息子は腹を蹴られました。

隔離された子供は○○語を話すことを強要されると聞いています。だから殴られたのでしょうか。


○○国の軍隊の服を着た男が笑いながら映りました。声で分かりました。電話してきた男です。

何かを○○語で話しています。


ずっと何がおかしいのか笑っていました。笑いながら男は銃を取り出して、息子の頭に突きつけました。

『お母さん助けて!』『やめて!』

私と息子の命乞いは無駄でした。銃声が聞こえました。

『オカアサンバイバーイ』

そう言う男はやはり笑っていました。

大勢のはやし立てる声が聞こえました。息子のそばにいたのは男だけではなかったようです。


固定されていたカメラが動かされ、息絶えた息子の顔がアップになりました。

あまりのことに目を背けることができませんでした。


見せつけるような動きのあとカメラが別の場所を映します。

女の子がいました。もうやめて。

私の娘でした。周りには裸の男たちがいます。

ひどいことをされていました。まだこどもなのに。


ひどいことをされすぎて、目の前で自分の兄がついさっき死んだことすらわからないようでした。

こどもなのになぜこんなひどいことをするんですか。


『バイバーイオカアサン』

そう言って男の顔がアップになります。そこで動画は終わっていました。

男は最後まで笑っていました。


私はへたりこんで動けませんでした。頭の中がからっぽになって何も考えることができませんでした。

空腹で床に倒れこむまで動けませんでした。3日ほど経っていたようです。

冷蔵庫にあった作り置きを食べて、それが二人が好きなものだったことを思い出してそれからようやく泣くことができました。


空腹で倒れるまで泣き、味のしないものを食べ、また泣きます。

いっそ、死んでしまえと思われるかもしれませんが、どうしても死ねないのです。


死ぬ勇気がないのです。


どうか、だれか私を殺してくれないでしょうか。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

或る投稿 鹿角印可 @kusuhi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ