【1000字小説】元人間の天使、元天使の人間

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【1000字小説】元人間の天使、元天使の人間

 天使とは、神と人間の仲介人をなす超自然的な存在である。

 ほとんどの天使は生まれながらに天使だが、数ある天使の中には元人間だが、後天的に天使になった、という例も存在する。


 ユダヤ教の謎の多い天使・メタトロンも、その一人だ。


 いつだったか、私―――彼の兄弟的存在・サンダルフォンは思い切って彼に天使になった事情について問いかけたことがある。

 神の記録係たる人間・エノクが、神の命で宇宙の神秘を書き記した後に、天使・メタトロンとなった、という逸話は本当なのか、と。


「あー、全然違うな」

 全否定で返された。


「それ人間たちが勝手なイメージで作った創作だから。見た目も噂と全然違うでしょ?」

 確かに、メタトロンの見た目はごく普通の成年男子のそれで、伝説通りに三十六対の羽と三十六万五千の目があるわけではない。


 そして、彼は天使になった本当の逸話を私に語ってくれた。


 彼は元々、テレビ局のプロデューサーだった。

 視聴率最優先のガキ大将タイプの横暴なプロデューサーで、俳優やアイドルなどの出演者にも傍若無人に振舞っていたという。

 しかしある日、知り合いのとあるコメディアンが、唐突に自分の部屋に入ってきた。

 曰く、自分は天使だ、と。

 曰く、自分は人間界に行って、人間と触れ合って過ごしたい。そしてあなたには、自分がいかに矮小な存在かを教えたい、と。

 曰く、だからこそ、貴方に天使としての力を引き継ぐ、と。


 そして強引に天使にさせられた彼は、時間、空間をも超越した天使・メタトロンになった(遥か昔から彼の存在が記載されているのもそのため)。

 そこで、神や先輩の天使の存在と、自分の非力さ、矮小さを知り、心を入れ替えたのだという。


「疑うなら、俺に天使の役割を与えた先代メタトロンの姿を見せてやるよ」

 私たちは人間界を見下ろした。

 とある劇場の風景が、我々の目に映った。

 メタトロンに天使の力を引き継いだ元天使のコメディアンが、確かにそこにいた。


「チャンチャカチャンチャンチャチャンカチャンチャン、

 チャンチャカチャンチャンチャチャンカチャンチャン、

 天使を辞めたと思ったら~一発屋になりました~♪

 チックショーーー!!」


 なお。

 彼には内緒だったが、実は私も元人間の天使だった。

 偶然にも、私に天使としての力を与えた元天使の人間も、先ほどのコメディアンと同じ劇場に出演していた。


「ハンマーカンマー!! アンバランデンデレンハンマーカンマー!! ゴースゴースゴース!!!」

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