第4話ぴょんぴょん跳ねるものは2

「うひゃ、うひゃ」


 泡まみれになったルーフを洗いながら櫛で梳いていくと面白いほどに動けなくなったノノッコが取れた。あんなに気持ち悪く思っていたノノッコだが、爪でつぶして退治していくうちになんだか楽しくなってくる。


「よっしゃ! 十六匹目!」


ダンもその楽しさに目覚めたのか櫛を通してはノノッコを仕留めていた。


「はあ~こんなにいたなんて、相当かゆいはずだよ」


「何度治しても刺されてるからおかしいと思ったんだ」


「え、ダン君は治癒魔法が使えるの?」


「俺、魔法得意だからね。アートンさんが隠居したら弟子にしてくれるって。俺たち兄弟はみんな魔力が桁違いだって言われてる。だから魔法がちゃんとコントロールできるようになるまでこの家とえーっと、あっちに見える山から出ちゃいけないっていわれてるんだ」


「あっちの山って相当な範囲じゃ……しかし大魔術師のお眼鏡にかなうって、すごいなぁ」


「アートンさんがお父さんならよかったのになぁ。変人だけど親父よりマシ」


「そうなんだ……」


 清浄魔法ではノノッコもその卵も生きているために取りさることができない。仕方ないので当面のシーツや着る服も湖で洗った。乾かすのはダンが魔法でやってくれるので簡単に終わる。特に赤ちゃんのヒースにノノッコが付いていないか念入りに見て、おくるみやベビー服も洗った。


「あっちまできょうそうしようぜ!」


 ゴシゴシ洗われているときは不機嫌だったルースも終わればさっぱりしたのかダンを誘って湖で泳ぎ始めた。


「あー。マルタつれてきてやればよかったな」


「あのさ、今のうちに家の中、煙でいぶしてくるからヒースのこと見ててくれる?」


「わかった!」


楽しそうな兄弟を湖に残して家に帰ると貯蔵庫で欲しいものを声に出す。便利なものですぐにそれは手に入った


「ジジウの葉とコショの実」


 教えてもらったとおりにそれをつぶして丸めると適当にあった陶器の器に入れて火をつけた。


「げほっ、げほっ」


 面白いくらいに煙がもくもく出始めると息をかけて火を消した。繰り返し、屋敷の隅々まで設置していく。


「……ここがお風呂か」


 まさかノノッコはいないと思うが念の為にお風呂場も見に行った。ダンが説明したように大きな浴槽には私の太ももくらいある虹色をした魚がいた。


「え。あなたがマルタ?」


 人魚族って幼少期は魚の姿なのだろうか。まったくわからない。けれど浴槽の中にいるのだからマルタで間違いないだろう。


パシャリ。


私が近づくと水面を跳ねさせてマルタが近づいてきた。


「ええと、初めまして。私はチコ。ナニーとしてあなたのお父さんに雇われたの。なかよくしてね」



ーーうん、わたし、マルタ


「あ、思念なのか……」


頭に言葉が響いてきた。水の中にいるのだから声は出さないのだろう。


「あのね、ちょっとここにも一応煙を炊くから、煙かったら言ってね。水中にいてくれたらいいんだけどさ」


ーーふーん? おなかすいた


「ええ。何食べるのかな」


――そこにある



言われて振り返ると浴室の隅に『人魚フード乾燥タイプ~幼児期用~』と書いてある袋が置いてあった。一回分の量を後ろの説明書を読んでから取り分けた。


「どうやって食べてるの?」


――てからたべてる


そう言うのでフードを手に乗せて水際にもっていくとマルタが器用にそれを啄んだ。なんだか非常にかわいい。ちょっと時々手に吸い付く魚唇がぬるっとするけど……


――ねむい


 ご飯を食べ終わるとマルタは水中で動かなくなった。今のうちに煙を炊いておくといいかもしれないと急いで煙を炊いて浴室を出た。大体のところに煙を置いて湖に戻ると、遊び疲れたのか大判のタオルの中に丸まりながらダンとルース、その間にヒースが眠っていた。


 はあ。疲れた。


 いくら体力には自信があると言っても流石に疲れた。少しだけ、と私もお昼寝する三人の横に並ぶとぽかぽかと日の当たる場所で眠った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る