《魔王城》やる気の出ない兵士たち

 魔王城の訓練室。

 第四隊の面々は、ぐ~たらしていた。

 彼らの敬愛する主人――カリン・アストレアが行方不明だからである。



「ダニーとジョナサンが、また殴り合ってる!?」

「カリン様が居れば、そんなトラブルは起こらないのに……」


 魔王軍は、徹底的な実力主義。

 恐ろしいほどに殺伐としていた――彼らのリーダーに、カリン・アストレアがつくまでは。


 カリンは、顔合わせの儀で、第四隊の面々をあっという間に瞬殺してみせた。強さこそが絶対の正義――第四隊の面々は、またたくまにカリンの強さに心酔し、永遠の忠誠を誓ったのだ。

 おまけにカリンは、こんなことを言ったのだ。


「強さだけが全てではない」

 と。


「思いやりを持って生きろ。誇りを持って、今日より少しでも明日が良くなるように。たとえ弱者と蔑まれて行き場を失ったとしても、私だけは決して見捨てない――その才能が開花するまで、決して私は見捨てない」

 などとも。


 強くなければ捨てられる。

 そう信じ込んでいた第四隊の面々にとって、カリンのその言葉は衝撃的だった。何があっても見捨てず、育ててみせる――そんなカリンの演説は、またたく間に第四隊で受け入れられていった。



 ――ちなみに、カリンの真意は、そんな立派なものではない。

 カリンは、自分の弱さを嫌というほど知っている。 

 だからこそ予防線を貼りまくったのだ。もし弱者と蔑まれる子がいたならば、きっと私たちは仲良くなれる。絶対に守ってあげるから――私が弱いことバレたら助けてね……、と。



 そんな忠誠心がカンストしている第四隊の面々。

 1日1回はカリンの顔を見ないとやる気が出ない体になってしまっており、モチベーションはだだ下がりであった。



 ――そんな中、数人の魔王軍幹部が訓練室に入ってきた。


***


「集まれ、屑ども」


「ガルガンティア宰相?」

「リズ様も」

「アルフレッド副隊長、いったい何があったっていうんです?」


 第四小隊は、出世コースからは外れた身分の低い人間が多く配属されている。だからガルガンティアは、露骨に第四小隊を馬鹿にしていた。



「日々だらける屑どもめ。よく聞け」

「なんだと……!?」


 ガルガンティアは、部下の感情に興味はない。


「魔王城のがんこと、カリン・アストレアは追放処分とした。まったく、あのような者に部隊長を任せていたなど嘆かわし――」


「「「……はああぁぁ!?」」」


 たちまち訓練室に、怒号が広がっていく。

 敬愛する隊長を、癌細胞と言われたこと。挙句の果てに追放処分と言った――それは信じられない暴挙であった。



「貴様らもキリキリと働け。これからこの組織は、アルフレッド副隊長のもと、新たな組織へと生まれ変わる」

「どういうことですか、アルフレッド副隊長!」


 部隊の面々が、アルフレッドに詰め寄った。

 


 アルフレッドは、苦笑いした。

 俺が、カリン様の後釜なんて不可能だ。

 そんなことはよく分かっている。


「役立たずはクビ! 文句を言うものもクビ! いいか、これからは無能に居場所はないと思え!」


 ガルガンティアが何か言っている。

 そんな言葉には耳を貸さず、部隊の面々はアルフレッドをじーっと見ている。彼ならどう行動するか分かっている、というように。



「俺は役立たずだ! だから俺はこの部隊をクビになる!」

「……は?」


「俺もだ!」

「俺もだ!」

「俺もだ!」

「俺もだ!」


 その宣言に、部隊の全員が乗っかった。



「……は?」

「という訳だ。ここには役立たずしか居ない――ガルガンティア宰相、無能を追放できて良かったな」


 ガルガンティアは、呆気に取られた顔でぽかんとしていた。


 良い気味だ。

 カリン様の居ない職場には、なんの未練もない。



「ま、待て! 何を血迷ったことを――」

「私も! 私もクビです!」


 更にはリズベットが声を上げた。


 クビって。

 リズベットは、魔王――いわば魔王城のリーダーであり。

 しかしリズベットっは、ふんすと鼻息荒く、ガルガンティアにそう宣言した。


「私は出ていきます! あなたの暴挙を止められなかった愚かな魔王として――たしかに役立たずは、魔王城には要らないですから!」


 晴れ晴れとした顔で、リズベットはそう言う。



「ま、待て! 貴様ら、どうしていきなり――」


「え?」

「そんなの決まってるじゃないですか……」


 魔王城の戦力の1/4が。

 更には魔王本人すらもガルガンティアに反旗を翻すという。

 何が起きているのか分からないガルガンティアに、訓練室に居た者は口を揃えてこう答えたという。



「カリン様の居ない生活なんて考えられませんから」


 と。

 そうして、彼らはあっさりと魔王城を飛び出していった。

 彼らの敬愛する愛らしいスライム――カリンが向かったという辺境の地に向かって。



「ちくしょう、ちくしょう、どうなってやがるんだ……!」


 ガルガンティアは地団駄を踏んでいたが、



「……待てよ?」


 すぐに気がつく。

 ろくでもないことに。



「今代魔王が退いた。すなわち――次期魔王は俺だ!」


 そう宣言。



 ――なお、魔王城は数時間後には爆破されたという。


 政権転覆RTAともいうべき悲しい事件だった。

 リズベットとカリンの人望を甘く見た愚か者の末路がこれである。



===


実はこの作品、お仕事ものコンテストに向けて書いていたのです・・・(まるで間に合わなかった顔)

区切りまであるので、ゆるりと更新していきます

全11話予定

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