ポンコツ少女に四天王は務まらない!?~魔王城をクビになったので辺境スローライフを始めようと思います(始まらない)~

アトハ

四天王最弱、追放される

「カリン、貴様を追放する!」

「はえ……?」


 それは、まさしく青天の霹靂だった。

 魔王城の謁見の間に突如として呼び出された私――カリン・アストレア――は、いきなりの宣言に言葉を失った。


 私は、魔王城で四天王の地位に付いているしがないスライムである。

 どうしてスライムなんて雑魚モンスターが、四天王に……? というと、面倒な事情があったりする。



(……なるほど、そういうことか)


 私は、壇上の様子を観察して納得のため息をつく。

 追放を言い渡した少女――リズベット――は、おどおどした顔で私を見ていた。


 こう見えてこの少女は、魔族を統べる魔王である。いつも黒い水晶玉を手にした内気な少女で、私は陰キャ仲間として勝手に親近感を覚えていた。



「リズ、いったいどういうつもりで……」

「そ、それは――」

「ええい! 貴様のような無能が、魔王様に話しかけるでない!」


 私の問いかけに答えたのは、魔王様ことリズではなく、隣の椅子に腰かけていた宰相ガルガンティアであった。



「くっくっくっ、そんなことは言わずと知れたこと。貴様は、まともに能力吸収もできない雑魚らしいな」

「な、何のことだ!?」

「貴様のような無能、置いておいたら部下たちに示しがつかぬというものよ!」


 ガルガンティアは、椅子にふんぞり返ってゴミでも見るような目で私を見てきた。

 正直、魔王城の四天王なんて物騒なもの、私だってやりたくない。しかし親から継いでしまった手前、仕方なく、それなり~に日々の業務をこなしてきたのだ。


「何だと! おまえ、今、私のことを無能だと言ったか!」

「虚勢を張っても無駄だ。貴様の戦闘能力は、すでに調べがついている」

 

(はっ、いかん。つい反射的に……)


 魔王城では、何より戦闘能力が優先される。

 しかし、私の戦闘能力は、お世辞にも高いとは言えない。


 私がスライムの固有能力吸収を、使いこなせなかったせいだ。

 スライムは、他のモンスターを吸収することで、能力を吸収して成長していく種族である。その能力が使えなければ、馬鹿にされても仕方がなかった。


 だから私は、知恵とハッタリだけで、魔王城で四天王の地位を保ってきた。

 私の正体は、最弱クラスのスライムだ。本当の力がばれてしまえば、ぺちょんと踏み潰されてしまうだろう。だから、私はバレないように細心の注意を払ってきたのだが……そういえばガルガンティア宰相は、最初から私がお飾りの四天王だと知っていたな。


「ふむ。つまり私は追放……、クビだと言うのだな?」

「ああ。貴様のような無能には、辺境の開拓を命じよう。奴隷と仲良く野垂れ死ぬが良い!」


 ガルガンティアは、そう言い捨てた。


 力こそパワーの脳筋集団に思うところはあったが、そうなっているものは仕方がない。所詮、弱者の言葉など、強者にとっては負け犬の遠吠えに過ぎないのだから。

 だからと言って、クビなんて……。


 私は、悔しさのあまり体をぷるぷる震わせ、



(辺境開拓……?)

(あれ? 別に悪い話ではないんじゃ……)


 ふと、そう思い直す。

 辺境の開拓……すなわち、辺境で自由に暮らして良いということだ。

 老後は辺境の地にマイホームを立てて、のんびり過ごすと決めていたのだ。これはまたとない機会! 少なくとも、いつ本当の実力がバレるかと、ビクビクしながら生きてきた今までよりずっと良い。



「私がいなくなったら、誰が四天王になるんだ?」


 ポンコツ四天王こと私であったが、そんな私にも、ちっぽけな責任感はあった。

 たとえ親から押し付けられて、イヤイヤ引き受けた地位であっても、やるべきことはこなしてきたと自負している。


「貴様の後釜には、第四小隊の副官であるアルフレッドを起用する!」

「え、アルを?」

「黙れ、貴様のような雑魚が、馴れ馴れしくアルフレッド様を愛称で呼ぶでない!」


 めちゃくちゃである。

 でもアルなら、たしかに癖が強い第四小隊を上手くまとめてくれる気がするな。


(追放、追放かあ……)

(これ、私に拒否権はないよな!)


 横暴にも思える言葉の数々。

 しかし、私は頬がにやけてしまうのを止められなかった。


 いくら私でも、四天王の職務を黙ってほっぽり出そうとは思わない。しかし、宰相たる者がそう決めて、魔王が認めたというなら話は別なのである。

 私は諸手を上げて、この危険地帯(魔王城)を出ていくことが出来るのだ。



「何を不気味な笑みを浮かべておる?」

「いえ、何でもないぞ!」


 私は慌てて顔を真面目なものに取り繕う。

  四天王最弱なりの処世術だった。私が、辛うじて今の地位を死守できているのは、この演技力の賜物である。

 


「貴様のような無能とは違い、アルフレッドは由緒正しきアヴァロン家の跡取りだ。くっくっく、貴様は無様に出ていくが良いさ」

「では、お言葉に甘えて! 失礼しましたっ!」


(ガルガンティアの気が変わらないうちに!)

 私はそう言い残し、そそくさと謁見の間を後にするのだった。



「あっ……、カリン様――」


 ……リズから縋るような視線を感じたが、きっと気の所為だろう。

 そして私は、宰相ガルガンティアの思惑で、魔王城を追放されることになった。


===

カリン・アストレア

戦闘力 32


所持スキル

吸収(EMPTY)

メタモルフォーゼ(LV1)

===


◆◇◆◇◆


 ガルガンティアは知らなかった。

 無能だと信じていたカリンというスライムが、その人柄から多くのモンスターから支持されていたことを。弱みを握って都合よく操れていると信じていた魔王・リズベットが、瞬く間に反旗を翻すことを。


 ――宰相・ガルガンティアの破滅は、ここから始まる。

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