第36話 ニューリアンの作り方

 なぜ実験体に子供ができたのか。くわしい経緯をツバメが言いしぶったので、部分的に聞いた言葉をつなぎあわせると……実験体と……作ってしまった人間がいた、ということらしい。


『クォーターも、人間を超える能力をもっていた……天使の血が薄いせいか、実験体ほどじゃなかったけどね。ただ、シティの上層部はひどく恐れたみたい。いずれシティは金色の目だらけになるって』

「……なるほどね」



 実験体の子孫が増えたら……彼らが人間より優れた能力を持っているなら……いずれ競争に負けるだろう。保身に走るのもうなずける。


 だが、ツバメが語るシティの対応は身の毛もよだつものだった……簡単にいえば、すべての実験体を拘束し、管理下においたのだ。二度と動けないよう『加工』を施して。



「アノヨロシ、ミナシノ……つらかったら、俺がかわりに聞いておくよ」


 子供のおつうはともかく、アノヨロシとミナシノは話の凄惨さを理解している。顔から血の気がひき、青ざめ汗ばんでさえいる。


「……いえ、大丈夫です。最後まで聞きます」

「アタシも」


 彼女たちは首を縦にふらなかった。俺は黙ってうなずくしかない。ふたりとも強いな……だからこそ、つらい思いをさせたくないんだけど……。


『そして……シティが命令をくだした。ニンジャコーポレーションは従うしかなかった』



 みんなで息を飲む。心臓がバクバクと鳴っている。


『遺伝子改良をほどこした実験体の子を生産し、人類のために有効活用すること』

「質問です。どんな改良をしたんですか?」

『残念ながら、子孫を残せないという点のほかは、わからない。正確な時期は不明だけど……ギネス博士が完全に抹消してしまったから。すべての実験体を安楽死させてね……今では完全にブラックボックスよ』


「じゃあ、どうして今でもニューリアンが作られてるんだ? アノヨロシとミナシノは1年前に生まれたんだぞ?」

『遺伝子をいじったあとの胚がたくさん冷凍保存されているからね。これはニンジャコーポレーションの機密事項だけど……ニューリアンは第60期で生産終了する予定なの』



***



 ツバメとの通信がおわり、どんよりとした空気を破ったのはおつうだった。

「質問です。アーノさんとミーナさんはニューリアンなのですか?」

「……うん、そうだよ」

「なるほど……つまり……わたしとおふたりは『おば』と『姪』の関係になりますね」



 みんなで口をあんぐりと開けてしまった。

 おつうは実験体で、ほかの実験体とは母親が同じだよな……で、実験体の子がニューリアン。確かにそうだ。おつうはアノヨロシとミナシノの『おば』なのだ。たしかに血縁関係がある。


「そ……そうだな。たしかにおつうの言うとおりだ……」

「えー! おつうちゃんが!? こんなにちっちゃいのに!?」

「間違いありません、アーノさん。もうひとつ言えば、1歳なのですよね? わたしは生まれてから7年たっています。年上です。コールドスリープをふくめれば80歳です。一番お姉さんです。えっへん」


「んー? ご主人もコールドスリープしてたよね……たしか300年」

「あ、うん。俺、いちおう17歳と300歳……」

「負けました……さすがますたあでした」


 おおげさな仕草でガックリとするおつうを見て、ふたりにすこし笑顔がもどった。

 この子なりになごませようとしてくれてるのがわかる。俺もがんばらないと。



「そろそろ昼ごはんにしよう。俺が作るから、みんな待ってて」




「はーい!」


 3人が返事をするなか、俺はキッチンへ向かった。冷蔵庫を開けながら考える。何をつくろう? せっかくだから、奮発してみようかな。



***



 果汁をくわえてアレンジした大盛り野菜スープをほおばりながら、俺たちはいつもの空気を取りもどしていった。のだが――。


「オーナー、着信ですよ」

「なんと」


 アノヨロシからVグラスを受けとりながら思った。こんなときでも仕事の用事か……いや、何かに打ちこむと気がまぎれるっていうよな……うまく利用させてもらおう。サムライエンターテイメントとの通話。市長たちの秘密を聞くまえだから、うっかり漏らす心配もない。


『お久しぶりです、ミスター・セイジ! 実写ドラマが完成しましたので、取り急ぎお知らせにまいりました!』

「ええっ!?」



 ばかな、早すぎる!

 契約してから2か月もたってないんだぞ!?


「それって最終回までですか? というか、全部で何話あるんですか?」

『もちろん契約書に記載したとおり、1118話です!』



「いったい1日で何話つくって……」

『はい?』

「……いえ、なんでもありません……コホン、おめでとうございます」


 口に出た言葉をごまかすため、あわてて愛想笑いをする。


『つきましてはですね、今夜、シティのゲートにて記念イベントをおこなう予定なので、ぜひとも見ていただきたいと思います。ただ……バッドランズの人間にも向けたものでして。演出上、ゲートの開放をともないます。危険ですので、あなたには是非ライブ映像での視聴をお願いします』


「わ、わかりました。時間になったら必ず見ます……」

『それはよかった! それでは失礼します』




「……ドラマって、けっこう早くできあがるんですね」

「いや、絶対無理。俺の時代では……12話で数か月かかるって聞いたことがある」


 完成したとは思えない……たとえ2334年の技術で撮影期間がみじかくなったとしても異様な速さだぞ。


 いや、でも……。


 出演者が人間じゃなかったら?

 全部CGで作ったとしたら?


 本当に完成したのなら、それ以外にありえない。



 くそ……気をまぎらわせるどころじゃないな。

 ライブ配信は夜の18時。それまでにツバメからすべてを聞いておく必要がありそうだ。

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