薔薇の騎士姫は蜜蜂王子に愛される

彼方

プロローグ

プロローグ

 荒れ果てた丘に、一人の少女が佇んでいる。


 足元には数多の人の骸が打ち捨てられ、地面に流れる血を堰き止めていた。少女はまるで赤い池に浮かんでいるようだった。降ろした剣先からも赤い滴が垂れ落ち、池を禍々しく潤していた。


 生来の赤髪は血によってさらに赤く染め抜かれ、死の匂いを乗せた風に巻き上げられていた。深い緑の瞳は、少女を囲む、先ほどまで人だったもの達を鮮明に映していた。


 その姿は、まるで死の丘にたった一輪咲き誇る、真紅の薔薇のようで。

 ——恐ろしいほど生々しく、哀しく、美しい光景だった。


 山際に朝日が昇る。

 丘にゆっくりと、戦の終わりを告げる光が差す。

 血塗られた少女を、慈しみ照らす。


 まだ年端もいかない薔薇の少女にとって祝福であり、呪いであったことは。

 少女があまりにも、戦の神に愛されていたことだろう。

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