中途半端な異世界転生
@kunimitu0801
第1話「突然の異世界」
「明日なんて来なければいいのに」
我ながらろくでもない事を口にしながら眠りに着いた覚えがあった。
突然の出来事だった。
目を開いた瞬間。急に暗闇を落下していた。
目の前が突然真っ暗になった。それと同時に地面が無くなり、体がどこまでも落下していく。
どれだけ深い闇なのかはわからないが、落下はいつまでも止まらない。終わりのない落下を延々と続けている。
何も見えない暗闇で、ぼんやりと光る何かが見えた。
自分の体は落下中のはずなのに、光はそこから少しも動かずにいるように見えた。
その光が、ゆっくりと近づいてくる。
だんだんと光が大きくなる。近づくにつれて、その光の正体に気付いた。
光は女の人だった。
それも見たことないくらいの美しさ。
全身から光を放っていた。
人間とは思えない神々しさ。神話に出てくる女神を連想させた。
その姿を見て、時間が止まったかのように感じた。
気が付くといつの間にか落下も止まっていた。
女の人と目が合う。
深い紅の瞳。まるでその瞳に引き込まれるように視線がそらせなくなる。
女の人の口元が動いている。
俺に何かを伝えようとしているのだろうか。
しかし、どういうわけか何を言っているか聞こえなかった。
こちらから問いかけようとしても、声は出なかった。
口は動くのに、それが声として出ない。
何も伝えられないし、何も聞こえない。
意思の疎通ができないまま、俺の意識は遠のいていった。
*
変な夢を見た。
暗闇に落ち続けて見たことない美しい女の人に会う不思議な夢だ。
本当に美しかった。もう少し見ていたかったと思う。
「あれ?」
体を起こして気付いた。自分の部屋ではなかった。
それどころか室内でもない。外だ。しかも全く見た事の無い場所だ。
立ちあがって辺りを見回す。
「森の中?」
目の前には見知らぬ森が広がっていた。
まだ夢が続いているのだろうか。
頬をつねってみた。
「痛い」
痛かった。現実のようだ。
だとしたらここはどこだろう。
家に帰りたくないなとは思っていたが、だからといってこんなわけのわからないところに来たかったわけではない。
とりあえず喉が渇いた。
近くに湖がある。
理由は自分でもわからないが、あそこの水なら飲んでも大丈夫だと思った。
歩き出した時、異変を感じた。
景色の見え方がいつもと違う。
なんというか、目線が低くなった気がする。
変なことだらけだが今はどうでもいい。
とにかく水だ。
俺は一心不乱に水を欲して湖に近づいていく。
湖を覗き込んだ時、異変の正体に出会った。
湖の水面に映る俺の顔。
水面だというのに鏡を見るかのようにはっきりと映った。
俺が映っていた。それは当然だろう。しかし違う。映っているのは、八歳くらいの子供。というか十年前の俺だった。そしてさらに何故か黒い髪が赤くなっていた。
手を動かしてみると、それに連動して水面の人物も同じように動く。
これが今の俺だと気付いた。
どういうことだろうか。年齢十八歳の俺が八歳くらいの子供になっていた。
やはり夢なのか。
そう思った時、背後から気配を感じた。
何かが近づいてくる。
人間かと思ったが違った。
人間ではない醜悪な姿の生き物が金棒を握りながらこっちに歩いていた。
あれはゴブリンというやつだろうか。漫画やアニメじゃよく目にするが実際に見ると不気味すぎる。
目が合うと同時に、ゴブリンは持っていた金棒を振り回しながら俺に襲いかかってきた。
その時、俺の頭を浮かんだのは、死への恐怖ではなかった。
どうこいつと戦うかを考えていた。
体は子供。武器は何も持っていない。
勝てそうな要素はなかった。
だが俺は向かってくるゴブリンに向かって足を踏み出した。
ゴブリンは金棒を振りおろす。
俺は金棒の落下位置から体を右にずらして攻撃をかわした。
右拳に力を込めて隙だらけのゴブリンの顎に振り抜いた。
ゴブリンは首から上が吹き飛び、顔を失った体はそのまま倒れていった。
不思議な事に、戦い方がわかっていた。
人間の大きさの生き物を殺したにも、何の感情もわかなかった。
複数の気配が近づいてくる。
周りを見回すと、いつの間にか十数体のゴブリンに囲まれていた。
一番後ろにはゴブリンの集団とはまた違う一際大きな赤い色のゴブリンが立っていた。
絶体絶命のピンチ。
だと言うのに、こんな状態でも俺は恐怖を感じなかった。
そして理解していた。
どうしたらいいのかを。
俺は右手をゴブリン達に向ける。
掌から炎が飛び出して先頭のゴブリンを焼き払っていく。
ゴブリンが一体焼けたのを皮切りに戦闘が始まった。
叫び声を上げながらゴブリンの集団が俺に迫ってくる。
しかし俺は落ち着いていた。
ゴブリンが迫ってくるが俺は次々とゴブリンを焼き払っていく。
最後に残った巨大なゴブリンも、炎であっさりと焼き払った。
無傷で十数体のゴブリンを撃破した。
これが俺の異世界での最初の戦闘だった。
「異世界?」
自分の考えに驚き、そのままその単語を口にした。
そう。
俺は認めたのだ。
これは夢ではない紛れもない現実であり、ここが異世界であるということを。
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