いつか君と、いつかの君と

蜜蜂計画

懐古

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「今日は会社に行くのはやめにしよう。」

 冷たい雨の降るなか、新橋駅西口の改札を出て思った。どうせ会社に行く運命なぞ明日も明後日も本質的には変わらない。今日は、会社に行く以上に大事なことがある気がする。30年以上培ってきた勘がそう感じる。僕は山手線に乗り、品川駅へ、そこから東海道新幹線に揺られること2時間。神尾駅で降りる。そこからは、地方のローカル線に乗って、30分。この列車の匂いがいつかの記憶を思い出させる。地元の中学生もいる。制服が変わっていないことに対して、時間に懸命に抗ってきたことが目にとれる。そして終点の次跡じせきという駅で降りる。

 駅に放置されている自転車や、破られたポスターを横目に南の方向へ歩き出す。海が近いため潮風が頬を通る。いつまでも変わらずにそこに海はあり、波はあり続ける。ふと横から、

「綺麗」

 感嘆と共に声が漏れる。

 叶星かなほの声がいつまでも色褪せずに残っているのは僕が今でもそこにいると信じているからだ。あの日した約束はいまだに果たせていない。その約束だけが時空に抗い続ける。

 僕は砂浜に腰掛ける。

 そして瞼を閉じ、約束を思い出す。

 絶対に忘れないようにするために。

 そこにはとてつもなく巨大な叶星への愛が存在する。

 忘れることがないように、ここに記す。

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