スモウ・レスラー②
打撃を抜きにしても、素手での戦いはラウロンの土俵だ。駆け引きや技術では到底敵わない。ならば、唯一のアドバンテージである体重差を活かし、接触と同時に吹き飛ばす……つもりだった。
(!!……動かん!)
例えるなら、大地に深く根を張った大樹。そんなイメージが見えるほど、彼の体はピクリとも動かない。
「押して駄目なら……」
全力の押し出しから一転。ラウロンの肩を掴むと、一気にこちらへ引き寄せた。だが、それに合わせて今度はラウロンが押し込んでくる。
「うおっ」
俺の引く力+ラウロンの突進力。体重のアドバンテージさえ利用され、俺はあっという間に円の際まで寄りきられる。
「ならば!」
咄嗟にラウロンの手首を握ると力を込める。小柄な彼を強引にでも投げ飛ばす。今のこの状況を覆すにはそれしかない。そう。だからこそ、ラウロンにも読まれたのだろう。
「え?」
気が付くと俺は、宙を舞っていた。そして次の瞬間、背中から地面に叩き付けられたのだった。
「……参った」
青空を見上げながら俺は呟いた。
(今のはラウロンの得意技、山崩しだろう。相手の力を利用して投げるとは聞いていたが……まるで魔法だな)
そんな俺の顔を覗き込むと、ラウロンはケラケラと笑う。
「どうじゃ?ワシもまだまだ捨てたもんじゃないじゃろう?」
「そうだな。完敗だ」
「ツヴァイ殿も初めてにしてはなかなかのモンだったぞい?……さて、皆の衆。大体の動きはわかったかな?」
ラウロンは横たわる俺を引き起こすと、その様子を見守っていた仲間達に声をかける。
「そうね。でも習うより慣れろ、だわ。実際やってみないとわかんないもの」
「まあ勇者殿の言うことも一理ありますな。ではまず、二人一組になって……」
「あっ!じゃあさ、じゃあさ!」
ラウロンの言葉を遮って、ミアが手と尻尾をブンブンと振った。
「せっかくならトーナメントにしようよ!」
「あら、面白そうじゃない。珍しくいいこと言うじゃない」
「でしょー……って、珍しくってどういうイミ?」
二人で盛り上がるイツキとミアに、俺とカタリナが待ったをかける。
「ちょっと待ってください!いきなりトーナメントなんて……良くないですよ!」
「そうだぞ、お前達。五人でトーナメントなぞやったらシード枠ができて、なんか不公平な感じになるだろう」
「そうですよ!危険で……って、ツヴァイ様!?そっちの心配ですか!?」
「じゃあ、ワシは審判をやろう。経験者じゃしのう。それなら偶数になるし問題なかろう」
「ラウロン様まで……もうっ!」
ふんっと口を尖らせたカタリナを説得し、俺達はなんとかトーナメント方式のスモウ大会を開催することに成功したのだった。
対戦相手は、公平を期す為にくじ引きで決定された。その結果、一回戦の組合せは『俺VSミア』そして『イツキVSカタリナ』によって行われることとなった。
「んっふっふー。負けないよ?ご主人」
「ふふ。望むところだ」
俺とミアは円の中にはいると、開始位置につく。
「えー。それでは、一回戦第一試合。両者、ミアッテミアッテ」
ラウロンはどこから拾ってきたのか、大きな葉っぱをヒラヒラと振りながら、謎の掛け声を発する。俺達は、なんとなく見よう見まねで、先ほどのラウロンと同じ様なポーズで構えた。
「ハッケヨーイ……ノコッタ!」
開戦の合図と思われる言葉と同時にミアが突っ込んで来た。さすがは獣人、瞬発力はパーティ随一だ。
(だが、
電光石火の如く組み付いてきたミア。だが、俺の体はびくともしない。
「うーん、うーん」
「ハハハ!どうした、ミア」
必死に頭を俺の腹に押し付け、押し出そうと奮闘するミア。そんな彼女に胸を貸してやろうと、俺はあえて様子を見ていた。
その時、ある異変に気が付く。
(どういうことだ?全く押されている感じがしない)
「うーん、うーん」
必死に押している風を装ってはいるが、まるで力が入っていない。一旦そう思うと、この声もなんか棒読みに聞こえてきたな。
「なんか様子が変ね?」
イツキも何かに気が付いたのか、円の外から訝しげな視線をこちらに送る。だが、次の瞬間。彼女はミアを指差すと、大きな声をあげた。
「……まさか!その子、押し出すのが目的じゃないわ!ツヴァイ、アンタの匂いを嗅ごうとしてんのよ!」
「はぁ?何を馬鹿な……」
そう言って視線を下げる。そこには。
「ハスハスハスハスハス」
「ヒェッ」
俺の腹部に顔を押し付け、必死に酸素を吸引するミアの姿があった。
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