天空の戦犯

蒼空のゆき

序章・紅の大陸

始動する力

 赤黒く燃え盛る空からは、灰が降り注ぐ。

 人々の悲鳴が鼓膜にこびりつくようで離れない。

 空高くからこちらを見下ろす影は、手をかざすやいなや高らかに叫ぶ。


「聖女・ルーンカイアを奪還せよ!世界の理を、正しい形へ還すのだ!」


 影の声を合図にするように、金属で覆われた巨大なヒトの形をした魔物が次々と降り立って来る。

 魔力を持たないその魔物達は、魔力で応戦する民達を圧倒していく。

 各地で悲鳴が上がり、血飛沫が舞い、儚く散ってゆく。


 私のせいだ。


 私がここに来なければ、彼らはこの大陸に気付くことも、大陸の民が脅かされることも無かった。


 私の声よ、私の力を乗せよ。


 運命の子が現れし時、この言葉と力を届けよ。


「戦犯の子よ、私の陽炎よ。」


「誤ってしまったこの世界を、理を。」


「正すのです……」










 ーー紅の大陸・労働者集合宿舎ーー


 目が覚めると、真冬にもかかわらず僕は汗だくになっていたことに気が付いた。

 汗だくになった薄い布で敷かれた床から体を起こす。

 ここのとこずっと同じ夢を見る。

 日に日に内容は鮮明に覚えているようになり、気持ち悪さが日に増すようになっていった。


 ため息が出そうになるのをそっと堪え、鉄格子で覆われた小窓から、月を眺めた。

 ボロボロのこの寝室で唯一の楽しみ、月を眺める。

 周りの労働者達はまだ眠っているこの時間に、1人でただ眺めるのが僕は好きだ。


「あの月に手が届いたらな……」


 特に何か意味があったわけでもなく、無駄だとわかっていたけど、僕は月に向かって手を伸ばした。

 右手で月を掴むような仕草をしてみせる、何も僕に応えるはずもなく、掴むのはただの虚無……のはずだった。


 赤い液状の何かが、ビュンっと静かに鉄格子の隙間から空の暗闇へ飛んでいった。

 明らかにそれは僕の手から出ていたし、僕はそれに見覚えがあった。


「血魔法の魔弾……?」


 嘘だ、ありえない。


 僕は魔力が無いはず、魔力を持たない人間に魔弾なんて出せる筈がない。

 仮に他人から魔力を無意識のうちに譲渡されていたとしても、魔力の流れを認識できないのが魔力を持たない人間の特徴なんだ。


 現に僕は今、魔力の流れを認識できていなかった。


「……疲れてるんだ、きっと。」


 夢の中の女の人の言葉を思い出してしまい、僕はそれを掻き消すように呟き、横になって目を瞑った。

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