第027話 別れの予感

「そんじゃあ、明日はどうする?」


 ご飯を食べた俺たちは明日の予定を話し合う。


 現状衣食住に関してはしばらくはどうにかなるくらいの目途は立っている。今後は中長期的な目標に向かって行動していく必要があるだろう。


「そうだなぁ。レベル上げしてぇな」

「やりたいことがあるから僕もレベル上げしたいね。それと、何があるか分からないから各々である程度の備蓄は持っていたほうが良いと思う」


 二人は本格的にレベル上げをしていきたいみたいだ。


「にぃ!!」


 エンジュもテーブルの上に乗り、二人に続いて元気のいい鳴き声を出す。


「エンジュもレベル上げしたいってよ。それなら三人でレベル上げしてきたらどうだ?」


 俺がエンジュの言葉の通訳をしたうえで、皆に提案する。


 今の三人ならよほどのことがなければ大丈夫だろうし。


「それはいいね。三人で今の僕たちの装備ならそうそう負けないと思うし」

「そうだな」

「にぃ?」


 二人は問題ないと頷くが、エンジュは少し悲し気に俺は一緒に来ないのかと聞いてきた。


 くっ……そんな顔しないでくれよ……。


「あぁ、ごめんな。俺は明日は家にいるつもりだ」

「にぃ……」


 俺が一緒に行きたいというのをグッと堪え、頭を撫でながら一緒に行けないことを伝えたら、エンジュはシュンと項垂れてしまった。


 寂しい思いをさせるのは申し訳ないけど、状況が落ち着いている間にある程度自分の能力を把握しておきたい。今の所シャドウは一種類しか見てないけど、いつ他の種類や全く別の怪物が出てくるか分からない。そうなる前に自分の力をある程度把握しておきたかった。


「帰ってきたら一緒に居られるから我慢してくれよ」

「にっ」


 俺がポンポンと頭を撫でると、エンジュは分かったと前脚を上げて鳴いた。


 可愛すぎる……!!


「よしよし。分かってくれてありがとな」

「にぃ~」


 俺は褒めちぎって撫でてやると、エンジュは気持ちよさそうに表情を緩め、目を細めて俺の胡坐の上に乗ってきて丸まった。


 あぁ……至福の時……。


「それで、ロッコは何をするつもりなんだ?」


 俺が癒されていると、修二が話しかけてきた。


 修二は俺が家に残る理由が気になったらしい。


「俺の魔法や他のスキルの把握だな。出来れば早めにやっておきたい」

「確かに。お前は数が多いからな」


 俺の返事に修二は納得顔になる。


「もし魔法や生産系スキルが使えそうなら、この場所の防衛能力も上げていきたいしな」

「具体的には?」

「入り口を神社への入り口に絞るために、この辺り一帯を壁で覆うとかやれたらいいな」

「そんなことが出来たらかなり安心だな」

「だろ?」


 拠点ぐるっと岸壁で囲めたら中に渦が発生しない限りは安心だ。


「敷地全体を覆うのは時間が掛かるだろうけど、最初はこの神社の敷地を囲うだけでもいい」

「そうだね。全体というのがどこからどこまでか分からないからなんとも言えないけど、かなり広範囲に及ぶのは間違いない。それだけの土地をぐるっと囲むとなったら、月単位の時間はみないといけないんじゃないかな」

「そりゃあ大分かかるな。大変そうだ」


 聡の説明に修二が「うへぇ」と嫌な顔をする。


「仕方ないさ。皆が安心して暮らせる場所があったらいいと思ってな。それだけで気持ちが全然違ってくるだろ」

「確かに。帰って来れる安全な場所があるって安心するな」

「だろ?そういえば聡のやりたいことってなんなんだ?」


 俺の話を終えたら、ふと聡が言っていたやりたいことが気になった。


「家族の捜索さ」

「それは……」


 聡の答えに俺は思わず言葉に詰まる。


 彼らは家族を助けることよりも俺のことを優先してここに来てくれていた。


 連絡がついているとはいえ心配で仕方がないはずなのに……本当に良い奴らだ。


「いやいや、現状連絡はついているから生きてるのは間違いないし、覚醒もしているみたいだから分かっている範囲のことは伝えてあるから大丈夫なはずだよ。この拠点もこれから安全度がさらに上がるし、六道君も問題なさそうだから、そろそろ僕も動こうかなと思ってね」

「わざわざ俺のために残ってくれてありがとな」

「気にしないでよ」

「ホントだぜ。水くせぇ」

「ははは……」


 聡の話を聞いて俺がしんみりと感謝をしたら、二人は照れ笑いを浮かべた。俺は二人に出会えて本当に良かったと思う。


「確かにそれならレベルは高いにこしたことはないな」

「でしょ?」

「お前が救助に行くなら俺も母ちゃん助けに行かなきゃならねぇから一緒に行くぞ」

「真田君……」


 一緒に行くという修二の言葉に、珍しく感謝の表情を見せる修二。


「止めろ止めろ。俺はただ母ちゃんが心配なだけだ。無事だといいんだがな」


 照れくさい修二は悪態をついてはぐらかす。


「勿論俺も――」

「いや、六道君はここを守っていてほしい」


 当然俺も一緒に行こうと思ったら、何故か残るように言われてしまった。二人には感謝してるので出来れば俺も力になりたかった。


「理由を聞いてもいいか?」

「君までいなくなったら誰がこの拠点を守るんだよ。それにここはお爺さんに託された場所でしょ?君が守らないでどうするのさ」


 俺が問いかけたら呆れるように言う聡。


 そういえばさっき皆の帰れる場所を作るって言ったばかりだったな、忘れてた。でも、それでも二人には恩を返したかった。


「それはそうだけどな。守り固めたら大丈夫じゃないか?」


 だから俺は食い下がる。


「それは駄目だよ。もし中に渦が発生したら、怪物の巣窟になるよ。それに僕たちも負けないくらい強くなってから出かけるから大丈夫だよ。心配しないで」


 確かに聡の言うことも一理ある。俺なら渦が発生しても今までのシャドウなら殲滅できるはずだ。


 くっ。反論できない。


「了解分かったよ。俺はおとなしくここを守って二人が無事家族を連れて帰ってくるのを待つさ」


 俺は両手をあげて降参を示して聡の言葉に従うことにした。


「ありがとう。これで僕も安心して両親を探しに行けるよ」

「気にするな。俺とお前らの仲だろ」

「それでもだよ」


 お互いに笑いあう俺達。


 明日の予定を話し合った俺たちは、昨日と同様のルールで一人見張りを置いて二人ずつ休むことになった。

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