第019話 終わる世界と新世界の産声

 情報のすり合わせをした後、特にシャドウの襲撃もなく、ゆっくりと体を止めることが出来た俺たちは、翌日に今後の生活について話し合っていた。


「まず、ここを拠点にしてどこかに避難所に属さない、ということでいいか?」


 一番最初に決めなければならないのは、どこかの避難所のコミュニティに参加するか否か。


「お前らいけ好かない大人たちに管理されるとか我慢できるか?」

「僕はやだなぁ」

「うん、俺も無理」


 一人で暮らすのに慣れている俺は、修二達以外と一緒に暮らすのは気を遣うし、人数が大きくなれば軋轢が生まれるし、制限やルールも多くなる。


 俺には耐えられそうになかった。聡と修二も同様みたいで満場一致でここで俺達だけで生活することになった。俺が手に入れた力とマジックバックがあれば三人でも全く問題なく暮らせるはずだ。


 組織に所属するデメリットは沢山あれど、受けられるメリットはとても少ないと言わざるを得ない。


 食料も物資も安全も自分で確保出来る人間に対してコミュニティが提供できることなんてあまりないんじゃないだろうか。


 何よりも大好きな作品『アサシンガールズ』そのものや、登場するピチピチスーツに身を包んだヒロインたちのフィギュアに祈りを捧げられないなんて困る。


 あぁ……本物のボディスーツは素晴らしかったなぁ……。


 俺は思わずスーツを着た優奈と加奈のことを思い出した。


 双子なのに対照的なボディラインの二人はどちらも素晴らしいものだった。二人は避難所にちゃんと馴染めただろうか。できればまた二人の理想を体現したような姿を拝みたい。


 二人に会うことあるとすればもっとこの辺りが安全になってからだろう。


「さて、一番の問題は食料だな」

「そうだな」


 次の議題は食料。


 能力の検証も大事だけど、現状でもシャドウを倒せるので、まず真っ先にこの問題を解決しておきたい。


「現実的なのはどこかのスーパーやショッピングモールに入って頂いてくることだよな。それか飲食店が抱える在庫を狙うか」


 今街の機能は止まっている。働く人がいないのだから当然だ。現状まだ通っている電気、ガス、水道もいつまで持つか分からない。


 いざという時のために水は沢山貯めておいたほうがいいかも……いや……魔法で出せばいいのか。


 それはそれとして現状食料を買うことできない以上、すぐに調達可能な手段は食材がある場所から取ってくる以外にない。


 勿論育てるという選択肢もあるが、それは長期的な時間が必要だ。種や苗なんかは持ってきておいてもいいだろうけど。


「そうだね。昨日の今日だから全く残ってないってことはないはず。だから大きめのスーパーとかショッピングモールに行けばある程度は物資は調達できるんじゃないかな?六道君のバッグもあるし」

「チートだけじゃなく、そんなものまで持ってるとかロッコ様様だな」

「いやぁそれほどでも……あるよ!!」


 俺がマジックバックを手に入れたことは二人には話してある。だから俺は褒められて調子にのってドヤ顔をする。


「調子に乗んなよ、こら!!」

「あはははっ」


 修二が俺の首を抱え込んでくるが、俺はそのやりとりが前と変わらなくて笑った。


「それでどうする。全員で行くか?」

「一人はここに残ったほうが良いかな。ないとは思うけど、ここを奪われるということも考えられるし。能力的なことを考えればロッコか僕ということになるけど、ここは僕が適任かな」


 一人でいるのは心細いだろうに、聡が自ら立候補する。


「悪いな」

「いやいいよ。僕はその間に自分の能力の検証をしているから」


 申し訳ない気持ちになったので軽く謝罪すると、何でもない風に答える聡。


 こいつはいっつもそうだ。飄々として本心を悟らせないんだよな。


「そうだな。俺も戦ってないからちゃんと検証できてねぇ」

「それじゃあ留守番の人は自分の能力を検証する時間にするか。外に出た方はできるだけシャドウを狩ってレベルも上げてくるって感じで」

「それは大事だな。レベルが上がれば俺も留守番を代われる」


 俺たちは家に残る奴と外に出る奴の役割を決める。


 修二のレベルが上がれば、シャドウに襲われてもある程度問題がなくなる。そうなればこいつが留守番出来るようになる。誰でも残れるようになれば聡の隠密能力が必要になった時に頼ることが出来るし、俺たちの行動の幅も広がる。


 レベル上げは大事だ。


「うん、これから世界は戦闘強者や今の状況で役立つ力を持っている人間が動かす世界に変わる。それにまだ一種類のシャドウしか出てきていないけど、それしかいないとは限らない。それを考えてもレベルは早いうちに上げておいたほうがいい」

「分かった。最初は俺が修二をサポートして徹底的にレベルを上げさせる」

「おいおいほどほどにしてくれ……」


 聡の言葉を受けて俺がやる気を出していると、修二が勘弁してくれとばかりに顔をしかめる。


 俺も似たようなことを考えていたが、聡の通りだと思う。


 すでにネット上では自衛隊や警察がシャドウに壊滅させられている動画や呟きで溢れている。となると、ほぼ壊滅状態の日本の警察や自衛隊が覚醒者たちを相手に治安を保つことは厳しいだろう。


 今回の現象はネット上で見る限り世界規模で起こっている事象のため、今後の世界はガラリと変わる。


 そんな世界で物を言うのは力だ。


 自分を守るのにも、自分が大切な物を守るにも、我を通すにも、何をするにも戦闘力という意味の力が必要になるだろう。


「俺もちゃんと戦うが、後ろは任せたぜ」

「おう。俺に任せておけ」


 俺と修二は拳と拳を合わせる。冷蔵庫の食料を使って朝飯を食べた後、物資の調達とレベル上げに出発した。


 この時俺は、目的地で再び運命の出会いをすることになるとは露ほどにも思っていなかった。

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