ロッコマン〜裏切られて囮にされたモブ、実はステータスが複数覚醒してたので、化け物が溢れる現実も異世界もイージーモード〜

ミポリオン

第001話 裏切り

「「「「「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」」」」」


 俺達は所々で事故が起こって車が大破していたり、建物が少し壊れてしまった街の中を怪物達から必死になって逃げていた。


 高校が終わった後でスーパーに寄った帰り。


 家を目指して歩いている途中にそれは起こった。


 渦としか表現しようのない現象が繁華街の道に突然出現し、その中からまるで人の影が地面から抜け出して体積を持ったような存在がヌルリと姿を見せる。


 最初は誰しもがその異様な集団に動きを止めた。その集団はゾロゾロと歩き出し、それぞれ人に近づいているようだった。一人の警官が彼らに近づき、動きを止めようとしたが、信じがたいことに彼はその影によって首から上を


 その瞬間、周囲は阿鼻叫喚の騒ぎとなって人々はその影から逃げ惑った。俺もその当事者の一人だ。


 何を言っているか分からないかもしれない。しかし、それは紛れもなく俺の眼の前で起こった事実だった。


 そんな化け物が数十匹以上集まってきたとなれば、俺たちに逃げる以外の選択肢はない。今一緒に逃げているのはクラスメイトの陽キャグループの四人だ。


 本当は一緒に居るつもりはなかったんだが、断りきれずに同行することになった。


『ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ッ』


 後ろからの声が徐々に近くなっている気がする。少し振り返ると奴らとの距離が少しずつ縮まっているのが分かる。


 路地はそこまで広くないとはいえ、影の怪物が横に五匹くらい並べるくらいの広さがある。五匹並んだ怪物たちが隊列をなして追ってくる姿は恐怖を抱かせるには十分だった。


 他の連中もチラチラと後ろを確認してはゆっくりと差を詰めてくる怪物たちに徐々に顔を青くしていっている。


「どうするんだ!?このままじゃ追いつかれちまうぞ!!」


 そんな中、我慢が出来なくなった陽キャグループの男子である山田が叫ぶ。


 確かにこのまま何もしなかったら遅かれ早かれ奴らに喰われる未来しかない。


「はぁ……はぁ……でも逃げる以外にないでしょう?……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……そうだよ。それ以外ないよ?……はぁ……はぁ……」


 同じグループの女子である高取と篠崎が、それ以外に選択肢がないのにいちいち言葉に出すこいつに、息を切らせつつも不機嫌になりながら返事をした。


「はぁ……はぁ……そうだけどよ、何か手を打たないと死んじまうぞ、俺達……はぁ……はぁ……」


 死の恐怖が彼らを苛立たせる。


「はぁ……はぁ……そうだね……はぁ……はぁ……このままだといつかは……はぁ……はぁ……やつらに殺されてしまうだろうな……はぁ……はぁ……」


 グループの中心人物の男子である里中も同意見だ。勿論俺もそう思う。生き残るためには何かの策が必要だ。


「でも……はぁ……はぁ……今はとにかく避難所まで逃げる以外の選択肢が思い浮かばないな……はぁ……はぁ……六道りくどうは何かないか?」


 里中も良い作戦が思い浮かばなくて俺に水を差し向ける。


「ごめん……はぁ……はぁ……俺も今の状況を打開できるような作戦は……はぁ……はぁ……思いつかない……はぁ……はぁ……」

「そうだよなぁ……はぁ……はぁ……」


 俺の返事に全員の表情が絶望で暗くなった。


 それからしばらくの間、俺たちは無言で走り続ける。


「あっ……」


 そんな時、ふと山田が何か思いついたような声を漏らした。


「はぁ……はぁ……どうかしたの?」

「あぁ……が助かる方法が一つだけある」

「え、ホントに!?」


 山田から齎された朗報に皆の表情が明るくなる。


 まさかそれ程素晴らしい解決方法が一番頭の悪そうな山田から出るとは思わなかったけど、助かるのならこの際何でもいい。


「ああ。これならは確実に助かるはずだ」


 先ほどから何か言葉に違和感があるが、逃げることに必死な俺はその正体に気付くことが出来なかった。


「それは一体どんな方法なんだ?」

「それはな。こうするんだよ!!」


 里中が山田に尋ねた途端、山田は少ない体力を振り絞ったのか激しく動いた。


「はっ?」


 そして次の瞬間、俺の視界の先に地面があった。


 俺は山田に足を掛けられたのだと気づくのに時間がかかってしまった。怪物ならまだしも味方から攻撃されるとは思わなかったからだ。


 俺はそのまま地面に倒れこんでゴロゴロと転がった。


 くそっ!!やられた!!


「何をするんだ!?」


 里中が立ち止まって山田を問い詰めた。


「非戦闘員の生産職の役立たずがいなくなるだけだ!!こいつを差し出せば俺たちは助かるんだよ!!」

「ダメだ!!俺は助けに戻る!!」


 山田は俺を囮にして助かるつもりだが、里中は俺の許に駆け寄ってこようとした。


「うるせぇ!!いくぞ!!」

「もう間に合わないでしょ!!行きましょう!!」


 しかし、山田と高取がすぐに里中に駆け寄り、力づくで引っ張って走り去っていく。流石に二人係だと分が悪いのか里中は引きずられていった。


「くそ!!すまない六道!!」


 里中は俺の方を見ながら悔しそうに謝罪を叫んだ。


 期待したら俺はまんまと捨て駒にされてしまったらしい。


 俺は今こいつらについてきたことを死ぬほど後悔していた。


「くっそっ……」


 俺はすぐに身を起こすと、たった数メートル先に怪物たちが迫っていた。


「ちっくしょー!!あいつら絶対ゆるさねぇ!!」


 俺は怒りを原動力に、化け物に攻撃される前に転んですぐの所にあった細い道を進む。すると、やつらは俺を追いかけてきたが、律儀にも並ぶ人数を減らした。


「……はぁ……はぁ……これならなんとか逃げ切れるかもしれない……はぁ……はぁ……あっ……」


 しかし俺がそうつぶやいた瞬間、その希望はついえてしまった。なぜなら、その先が少し開けた広場の行き止まりだったからだ。


「なんでこんなことになったんだ……」


 俺は振り返ってポツリと呟く。


 そこには袋小路に次々侵入してくる大勢の影の化け物たちの姿があった。


 迫りくる死を前にして、ここまでの一連の出来事が俺の脳裏を走馬灯のように駆け巡るのであった。

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