The different world 〜異質な奴ら〜

第一章 四馬鹿達は夜に狂う

第一話 姫君の願い

 これは、世界の『疑問』に気がついた、ある一人の青年の物語である。


         🐉🐉🐉🐉


 その世界では、大した戦争がここ数十年の間に起きずに、各国と平和協定が結ばれ、長年にわたる平穏な日々を送る事が当たり前である。


 パキラ国という島国の小国では、一応形式上では軍隊はあるものの、あくまでも自衛という名目であり、数十年前の大規模な世界大戦で大敗をして以来、列強の傘下に下った。


 占領された後、憲法や経済が管理されるようになり、表面上は平和で豊かな国になったのだが、中身は明らかな貧富の差があり、愚連隊が幅を利かせている。


 パキラ国ジオウ領ガルバ町の外れにある、『ジッパー』というバーに、不条理な社会に揉まれて不満が溜まり、酒を飲んでいる、種族や年齢がバラバラな4人がいる。


「あーあ、ドラゴンが欲しいなぁ……」


 部屋の中は薄暗く、誰が誰なのかわからないが、その発言をしたそいつはかなり不満が溜まっているのか、一部の富裕層にしか持てないドラゴンを欲しいと呟いた。


「そう、生きの良いやつがいいね」


 まだ年齢は歳を重ねていないのか、若い声色のそいつは明るいノリでそう言い、薄暗闇に光を灯すように、アデルという精神安定剤に似た成分を持つ草を巻いた葉巻に、ライターで火をつける。


「パクるか?」


 そいつは、アルコールに近い成分の入っているパモジという飲料をちびり、と口に運び、鼻炎なのか、鷲鼻の鼻を軽くすすった。


「馬鹿言え、ここら辺にはゼロムスさんの家しか飼ってるところはないだろ?」


 エルフなのか、耳が長い種族のそいつは、皮肉屋なのか、馬鹿も休み休み言えと付け加え、鶏肉の揚げ物を口に運ぶ。


「パクってみないか?」


 若いそいつは、好奇心旺盛で、薄暗くてわからなかったが目が迸っており、ニヤリと笑いながらアデルを蒸す。


「馬鹿野郎、そんな事をしてもどうするんだよ?」


 長耳のそいつは、バレたら流刑は確定する為、この国ではただでさえ厳しいのに、更に前科者は優しくないのを知っており、当然のことながら反対した。


「いや、これを使って王女を誘拐するのさ。身代金をたんまりいただいて、他の国へとドロンだ」


「お前頭がおかしいんじゃねぇか?」


「いや案外面白いかもしれないぞ」


 背が低いそいつは、相当鬱憤が溜まっているのか、退屈な日常を吹き飛ばす『何か』に興味津々と言った具合で彼らの馬鹿話に耳を傾けて口を開く。


「うんまぁ、いっちょやってみるか、面白そうだし」


「だな」


「いつやるか?」


「明日の、この時間にゼロムスさんの家に行ってやるぞ」


「あぁ、そうするか!」


 彼らは、軽いノリで意気投合をし、そのまま一晩をここで過ごし、退屈で怠惰な日常へと再度溶け込んでいった。


        🐉🐉🐉🐉

 パキラ国国王が住むラースラ城、満月が見える部屋に、ユーリル姫は憂鬱な表情を浮かべて深いため息をついた。


「あーあ、結婚したくないなあ……」


 明日は、隣国ジュルツ国の皇太子陛下、バラムと結婚をする日であり、それが政略結婚だと言うことは周囲は承知、全く恋愛感情が起こらないまま、自分よりも一回り違う不細工で頭がM字に禿げ上がった壮年期後半の男性を好きになる筈が無く憂鬱である。


「白馬の王子様でもいないかしらねぇ……」


「姫様、いい加減に覚悟を決めてください!」


 ユーリルの世話係であるマリーナは、恋愛関係が無くてやや捻くれ気味の彼女に同情しつつも、年齢は同じだが立場的には自分の方が下であり、国王の「家出しないように見張ってろ」という命令を渋々従っている具合である。


「えー、だってさぁ、あんなねぇ、ハゲを好きになれますかって聞かれたら誰でもなれないって答えるじゃない? 理論的に無理よ」


「ハゲって、言葉が悪すぎますよ! 国際問題に発展しますって!」


「マリちゃんだって嫌でしょ、あんなオッサン……」


「んな、まぁそりゃそうですけど……」


 マリーナもまた、近いうちに結婚を控えており、それも政略結婚で側近同士の結婚、脂ぎった50代の中年期後半の親父と生涯を共にする約束を無理やりさせられたのである。


「どこかに、白龍に乗った王子様でも迎えにきてくれればいいんだけどねぇ……」


「それは架空の話ですよ。絵本の中にある話です。覚悟を決めるしかないですよ」


「まぁそりゃそうだけどねぇ……ん?」


 紫色に鈍く光る満月の月光の元、月に映る白いドラゴンのシルエットにユーリル達は思わず自分の目を疑った。

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