第55話
若干、べジュレルート公爵の視線が冷たいような気がするが気のせいだろう。
「勿論ですわッ!!!」
「…………否定しないところが清々しいですね」
「だって、皆様が大好きなんですもの!!!誰にもわたくしを止められませんわ……!誰がなんと言おうと、わたくしはわたくしの好きを貫き通しますわッ」
「………!!」
「あ、勿論ルールやマナーを守ることは絶対ですわよ!」
すると肩を揺らしてべジュレルート公爵が笑っている。
「どうか、されましたか……?」
「ははっ……君を見ていると今までの悩みがどうでもよくなってしまいそうです」
「まぁまぁまぁ!悩みがあるなら是非わたくしに聞かせて下さいましッ!べジュレルート公爵の為なら、わたくしなんだってできそうな気がしますッ」
「フッ……!本当に不思議な気分にさせられますよ」
長い髪を耳に掛けたべジュレルート公爵と目があった。
吸い込まれそう瞳をじっと見つめる事、数秒……。
不機嫌そうに寄せられた眉と大きな咳払いと共に、眼鏡を掛け直すと、いつものキリリとした公爵に戻ってしまう。
「ゴホンッ……ですが城で侍女の格好をして好き放題するのは話が違います。下のものに示しがつきませんから」
「もしかしてそれでわたくしが、城に向かうのを禁止されていたのですか?」
「えぇ、そうです……」
「やはり今後も……」
「勿論です…………と、言いたいところですが、貴女が城に来なくなった事が原因だとは思いたくありませんが……皆、元気がなく、ワイルダーも毎日、縋るような視線を送ってきて腹が立ちますよ」
「まぁ……!陛下はしっかりとご飯を食べてましたか!?睡眠は?体調はいかがですか?まさかまた夜通し仕事をして体調を崩されているのでは!?!?!?」
「……あなたのご想像通り、思わしくありません。それに料理長もココもホセもゼル医師も騎士達も侍女達も……皆、ヴィクトリアがいつ戻ってくるのかと私に聞くのです」
「皆様が……?」
「私が居ない一か月間で、よくここまで皆の心を掴みましたね。正直、驚きですよ」
ヴィクトリアは皆を思い浮かべて手を合わせた。
それを見たべジュレルート公爵がもう一度、咳払いをする。
「今回は特例として、城への出入りを認めます」
「本当ですか!?」
ヴィクトリアは喜びに両手を上げた。
しかし、それを制すようにべジュレルート公爵の声が響く。
「ーーーただし!!条件がありますッ」
「条件……?」
「それを守るならば、再び城に行くことを許可致します」
「是非、お聞かせ下さいませ!」
「一、目立たないように動く事!二、これ以上城で働く者達をたぶらかさないこと!三、騒ぎを起こさない事!四、他の業務を妨げない事!それから……」
べジュレルート公爵の約束は二十個程あった。
けれど城に行けなくなるよりはマシだと思った。
それに厳しい裏にちゃんと優しさが見え隠れしていたのをヴィクトリアは理解していた。
(べジュレルート公爵は本当に国の為を思っているのね……!)
べジュレルート公爵は宰相としてこの国を支えている。
この規律を重んじる対応と頭の回転の速さに惚れ惚れしながら相槌を打っていた。
尊敬の念と素晴らしさと、あまりの美しさに唾液が止まらない。
「それから、髪はまとめて眼鏡をかけて下さいね」
「へへ……はぁい」
「その間の抜けた返事と、だらけきった表情……本当に聞いているんでしょうね?貴女のためを思って言っているのですよ!」
「わたくしの為ですか?」
「城で働く以上…………あなたを守る義務がありますから」
「ーーーーーッ!?」
間違いなく上司に居たら嬉しいタイプだろう。
べジュレルート公爵の発言には厳しさの中に優しさや気配りが見え隠れする。
ヴィクトリアのテンションは上がる一方である。
「わたくし、べジュレルート公爵に、どごまでもついていきますわッ!!」
「はい……?」
「先日、わたくしもべジュレルート公爵のファンクラブに入会させて頂きましたの!」
「君みたいな若い子が……何故?」
やはりべジュレルート公爵もファンクラブの存在は認識しているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます