第46話
ーーー数日後。
ヴィクトリアは一枚の紙を持ってベッドに突っ伏して、悲壮感たっぷりに項垂れていた。
肩を揺らすヴィクトリアを見て、心配そうに侍女達は様子を窺っている。
「お可哀想に……」
「まさかべジュレルート公爵に、暫く城に行く事を禁止されてしまうなんて」
「あんなに元気なお嬢様が…………心配になりますわ」
「どうにか元気付けて差し上げましょう」
あまりにも素晴らしく夢のようなご褒美をシュルベルツ国王とイーシュ辺境伯から貰ったヴィクトリアはついに限界突破してしまった。
そして鼻血を噴射しすぎたからか貧血なこともあり、ここ数日は体を休めていた。
べジュレルート公爵から届いた手紙の内容は、暫く侍女として城に通うのはやめて欲しいとのことだった。
ヴィクトリアはそれを見た瞬間、フラリとその場に崩れ落ちた。
まだ会ってもいないべジュレルート公爵に城に来ることを断られて、ショックのあまりベッドでしとしとと泣いていたのである。
どうやら長期間の外交から帰ってきたべジュレルート公爵はヴィクトリアの行動をよしとしなかったのだろう。
けれどべジュレルート公爵が言うことならば仕方ないとヴィクトリアは堪えていた。
それにイーシュ辺境伯も辺境に帰ってしまった。
出来れば「好きです!大好きです!今度は手拭い下さいッ!」と胸に溢れ出す想いを告げながら見送りたかった。
なんせ最後には鼻血を吹き散らして気絶してしまったのだ。
(シュルベルツ国王陛下にも会えない。ゼル医師にも、ホセ様にも、料理長にも会えない……)
他のイケおじにも会えないことに、ヴィクトリアのテンションは下がる一方である。
「まぁ……!ヴィクトリアお嬢様が小刻みに震えているわッ!」
「大変!温かいお茶をお持ちしなければ……!」
「ダンディなおじ様の肖像画はないの!?」
「ないわよ!!」
「今度、旦那様と奥様に相談して取り寄せてみましょう!」
侍女達の優しさに感謝していた。
おじ様不足……禁断症状に震えるヴィクトリアの耳にある言葉が届く。
「でも、べジュレルート公爵って本当に美しいわよね!ヴィクトリアお嬢様の気持ちも分かるわ」
「そうよね……今回の外交も大成功だったんでしょう?結婚の申し込みが絶えなかったらしいわよ。なんせ家柄良し、頭良し、顔良しだなんて……なんで結婚なさらないのかしら」
「……神様に愛されているのでしょうね。直接、お話ししてみたいわ」
「しっ……!べジュレルートファンクラブ、略してべジュファンの皆様に殺されるわよ!?」
「この国でべジュレルート公爵に生半可な覚悟で近づける女性なんていないのよ!!」
「べジュファンの夫人達って、相当な権力を持っているんでしょう?軽率なことを言ったら社交界から簡単に消されるわよ?」
その言葉にピクリとヴィクトリアの肩が動く。
(ーーーーファン、クラブ!?!?!?!?)
べジュレルート公爵のファンクラブは、城に行かなくても参加出来る。
そう思ったヴィクトリアは、まるで水を得た魚のように一瞬で息を吹き返す。
「貴女達……その話、詳しく教えて頂戴ッ!」
「ヴィクトリアお嬢様……!?起きて大丈夫なのですか?」
「えぇ、大丈夫よ!それよりもファンクラブよ!ファンクラブッ!わたくしも入るわ!!!!」
「「「え……?」」」
ヴィクトリアはキラキラと瞳を輝かせた。
「手紙を書くわ!準備して頂戴」
「は、はい……!」
「確か、べジュレルートファンクラブの会長は……モカロフ公爵夫人だったかしら?」
「お嬢様、ご存じだったのですか?」
「えぇ、勿論!城で沢山情報収集したもの……!どうしてこんな大切なことを忘れていたのかしら。きっと血が足りなかったのね!」
「この切り替えの早さ…………流石ですわ。ヴィクトリア様」
「ウフフ、わたくしもべジュレルート公爵のファンクラブに入るわよ!推し活ッ、推し活ッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます