第43話
続きはまた今夜……その言葉を聞いたヴィクトリアは心の中で妄想を膨らまして大絶叫していた。
(三人でお酒を飲む、ですって!?わたくしも混じりたい!!混じらなくてもいいから壁画になりたいッ!!お酒を飲んでキャッキャウフフする三人を是非とも見たいわ……!)
こんなにも壁に溶け込みたいと思った事はないだろう。
「それじゃあ、僕ももう行こうかな。ヴィクトリアも無事だったことだしね」
「ご心配お掛け致しましたわ」
「少しお転婆過ぎるのも考えものだね」
「…………そうなのか?」
「目が離せないんだよ……」
「それは今日、実感した。見張っとかねばな。何をやり出すか分からない」
「ははっ……!」
「是非、穴が開くほど見て下さいましッ!!!」
「「…………」」
二人に見つめられるなど、幸せの極みである。
ヴィクトリアがキラキラと瞳を輝かせていると、二人は逆に困惑したように笑った。
するとシュルベルツ国王はイーシュ辺境伯と視線を合わせた後にニヤリと笑って、何度かヴィクトリアをチラリと見ながらコッソリと何かを話している。
イーシュ辺境伯も慣れた様子で耳を傾けて頷いている。
(こうして垣間見える可愛さがたまらないッ!!!さすが幼馴染ですわ……!離れていても息ぴったり、という事ですわね)
ヴィクトリアがそんな二人のやり取りに、ほんわかしていた時だった。
「ねぇ、ヴィクトリア」
「…………え?」
グッと片方ずつ手を引かれたヴィクトリアの前には麗しのイケおじが二人。
夢みたいな光景にポカンと口を開いていると……。
「ありがとう、ヴィクトリア」
「今日の礼だ。受け取ってくれ」
そう言った二人の唇が、そっと手の甲と触れる。
左は柔らかくて温かい唇の感触、右には硬い髭と乾いた唇が軽く触れた。
「ーーーーーーー!?!?!?!?」
「あはは、びっくりした?」
「……本当にこんな事が礼になるのか?」
「ローガンも聞いたんだろう?ヴィクトリアは僕達みたいな"おじさん"が死ぬほど好きみたいだよ?毎日、僕にマッサージをしながら語ってくれるんだ」
「先程、俺も聞いたが……やはり信じられないな」
「でも、やり過ぎはよくないんだよ?ヴィクトリアが倒れてしまうから」
「おい、ワイルダー」
「何?」
「これは、どうなんだ……?」
微動だにしないヴィクトリアは立ったままピクリとも動かない。
「…………多分、このくらいは大丈夫と思うんだけど」
「そうか。ならいい」
「おーい、ヴィクトリア」
ヴィクトリアの目の前でシュルベルツ国王が手を振った時だった。
ーーーーブシュッ!!!!!!
綺麗な弧を描いて鼻血が宙を舞った。
床に倒れ込んだヴィクトリアの前に血溜まりが出来ていく。
「……わっ!?!?」
「おいっ!ヴィクトリアッ!しっかりしろ……!」
鼻を押さえていたヴィクトリアは震える手を伸ばして、メッセージを書き始めた。
『 し あ わ せ 』
ガクン、とヴィクトリアの体から力が抜けた。
「ーーーー誰かっ、だれか来てくれッ」
「おい、しっかりしろ!!!」
「血が……!」
「鼻血が止まらないぞ……!」
イーシュ辺境伯が首から手拭いを取り、ヴィクトリアの鼻血を拭う為に鼻を押さえた。
それが逆効果になるとも知らずに…………。
(イーシュ辺境伯の香ばしい香ッッ○×っ*★ア゛ア゛ァァァッ!?!?)
ダイレクトに脳に響く香りにヴィクトリアの意識が遠くなる。
「ゴフッ……!」
「…………ヴィクトリア!」
「ヴィクトリアッ、しっかりしろ!!」
ヘラリと笑ったヴィクトリアに二人の目が大きく開く。
(ああ………………ここは天国だったのね)
パタリと意識が途絶えたヴィクトリアはこの後、イーシュ辺境伯とシュルベルツ国王が侍女長とホセに、こっぴどく叱られたことも知らないまま、幸せほくほくで眠りについたのだった。
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