第31話

城に到着して手慣れた様子で着替えをしながら妄想を膨らませていた。

すっかり侍女の仕事もシュルベルツ国王のマッサージも板についてきた。

ゼル医師もその技術には興味津々である。


食事、睡眠、休憩……ヴィクトリアはゼル医師と侍女長とタッグを組んで、ズカズカと国王の執務室に入り込んでシュルベルツ国王の体調管理に勤しんでいた。

城にいる間は健康管理という名目でシュルベルツ国王陛下の可愛い姿と色んな一面を見て悶えていた。


これに付き合ってくれるシュルベルツ国王の優しさにも感動だが五日も経てば、すぐに効果は現れた。

食事と睡眠をきっちり取りはじめると肌艶がよくなり、顔色も良くなってきた。

何より「ヴィクトリアのお陰で仕事効率が上がったよ」というシュルベルツ国王の笑顔のご褒美。

その日は大興奮して眠れなかった。


それから侍女長と執事のホセに頼みつつ、厨房に乗り込んでいき、忙しいシュルベルツ国王が片手で食べれるようにと新しい軽食メニューを開発しつつ、厨房で働くイケおじ達をたっぷりとは堪能していた。


(食材を切るときの力の篭った腕。フライパンを振るときの逞しい腕。スープを掻き混ぜる時の浮き出た血管!!はぁ…………見ているだけで美味しいわ)


シュルベルツ国王を想うヴィクトリアの熱心な様子に、最初は嫌がっていた料理人達も次第に心を開いてくれたようだ。

なかでもヴィクトリア一推しの渋くて立派な髭が素晴らしい料理長は、ヴィクトリアのやる気と根性を買ってくれたようで、進んで新メニューの開発に協力してくれている。



「今日は騎士達の訓練をする為に、イーシュ辺境伯がいらっしゃいますよね?」


「あぁ、そう聞いている」


「わたくし、頑張ってくれている騎士達の為にサンドイッチと飲み物を持って行こうと思うのですが……厨房の端を貸して頂けませんか?」


「そりゃあ別に構わないが……大量に作らないといけねぇだろう?オレらは朝食の準備があるから、今は手伝ってやれねぇぞ?」


「はい。勿論、存じております!材料はわたくしが働いたお金で用意しておりますし調理法もバッチリですわ。場所をお借り出来たらそれでいいのです……!」


「くっ…………!なんて心意気だ」


「料理長には、いつも感謝しておりますわ……!」



実はヴィクトリアはただ働きはしておらず、働きに見合った給金をしっかりと貰っている。

しかも想像以上に大量に……。

これもゼル医師やヴィクトリアの働きを評価してくれている侍女長。

そしてシュルベルツ国王のおかげだろう。


故にバリソワ公爵家を経由しなくとも、自分のやりたいように出来る。

そしてそのお金で侍女達と買い物に行ったり、こうして食材を買い込んだりと自由に振る舞えている。


そして昨日、仕入れについて行き、大量のパンやハム、野菜やチーズ、卵を前もって城の城の厨房に運んでもらっていた。


少々、強引ではあるがこれもイーシュ辺境伯に近づく為の口実が欲しかったのだ。

ヴィクトリアが意味もなく訓練場に居座ればイーシュ辺境伯の邪魔になってしまうし、いい顔をされないだろう。


そしてシュルベルツ国王にさりげなく聞いたイーシュ辺境伯の好物はサンドイッチだ。

あんなに厳しく雄々しい見た目のイーシュ辺境伯がサンドイッチを頬張っている姿を想像するだけで、大変楽しい。


ヴィクトリアは「グヘヘ」と無意識に呟き笑いながら、サンドイッチ作りに勤しんでいた。


分厚く切ったハムとレタス、そしてマヨネーズとスパイシーなソースを絡めたサンドイッチと、ふわふわに焼いた卵とチーズを混ぜた絶品たまごサンド。


(これぞ男の胃袋を鷲掴みする……ヴィクトリアのスペシャルサンドイッチよッ!!)

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