第22話

「まぁ、何はともあれ……少しお休みになられたら如何ですか?」


「……!」


「ヴィクトリア様も喜ばれますよ」


「あぁ……軽食を取ったら少し仮眠をとるよ。今なら気持ちよく眠れそうだ」


「……はい!」



ゼル医師はその言葉を聞いて、ニッコリと笑みを浮かべ、そして丁寧に腰を折ってから去って行った。



「…………可愛いなぁ」



ポツリと呟いた後、体をぐっと伸ばした。

今日は楽しく仕事が出来る予感がして、軽食に手を伸ばした。




* * *




「……!?!?!?」



ヴィクトリアはガバリと起き上がった。

そして直さま肩に手を伸ばす。


(ーーーーーあるッ!!!!)


興奮が昂って意識が遠くなった瞬間、絶対にこのジャケットだけは離すまいと心に誓ったのだ。

そして無意識の中でもシュルベルツ陛下に掛けてもらったジャケットをちゃんと持っていた自分を褒め称えてあげたいと思った。


(偉いわ、ヴィクトリア……!)


そして勿論、ジャケットを握りしめて寝ていた為、着替えはしていない。

汗で胸元が透けてしまったのは予想外だった。

しかしあんな風に色気がある声で耳元で囁かれてしまえば誰だってノックアウトしてしまうだろう。

それに此方の胸元を見ても、一切のスケベ心を出さない余裕と、それをそっと隠そうと黙って肩にジャケットをかけてくれる優しさと紳士な対応。


(控えめに言っても、最高だよううぅ!?!!??)


ブンブン体を振って滾りを発散していた。

満足してからジャケットをそっと手元に置く。

そしてヴィクトリアは真顔でシュルベルツ国王のジャケットを見つめていた後にゴクリと生唾を飲み込んだ。


(今だけは…………変態と呼ばれてもいいわ!!)


ヴィクトリアは上を向いて、大きく息を吸い込んでから荒々しい鼻息を吐き出した。

満を辞して、シュルベルツ国王のジャケットに顔を埋めようとしようとした時だった。



「……失礼する」


「!?!?!?」



男性の声が聞こえて、ヴィクトリアはピタリと動きを止めた。

カサリと布が擦れる音が聞こえたのか「誰かいるのか?」と、声が聞こえた。


この声には聞き覚えがあった。


ヴィクトリアと同い年で、この国の王太子。

そしてエルジーが狙っていた令嬢達には大人気の男。

一見すると誠実で紳士に見えるが、堅苦しいラクレット・コルシェ・シュルベルツである。

カーテンの間、ブルーアッシュの髪がサラリと流れた後、ディープブルーの瞳と目が合った。



「君は…………ヴィクトリアか?」


「…………ごきげんよう。ラクレット殿下」



至福の時間を絶妙なタイミングで邪魔された事に不満を隠せない。


この男にヴィクトリアは度々、絡まれていた。

それは学園時代にまで遡る。

誰にでも優しく品行方正の王太子、ラクレットと完璧な令嬢として、淡々と自分のやる事をこなしていたヴィクトリア。

テストや順位が出る勝負事で常に一位の座をずっと争っていた仲である。


とは言っても、一方的にライバル視されていただけで、ヴィクトリアは全くラクレットに興味を持っていなかった。

しかしラクレット的には毎回僅差で後ろに控えているヴィクトリアが気になっていたらしく、その度に「君がいなければ私は大分楽だったのにね」と言われていた。


つまりラクレットとヴィクトリアは学園でのライバルだ。

その時からずっとラクレットは周囲の人間とは違い、ヴィクトリアにだけは少し刺々しかったように思う。


ヴィクトリアにとっては、よく分からない理由で絡んでくるラクレットを少々鬱陶しい奴と認識していたようだ。


故に、令嬢達には大人気なラクレットではあるが、ヴィクトリアの中では、いい位置にいない。


そしてシュルベルツ王国には三人の王子がいるが、簡単にまとめると第一王子のラクレットは紳士的な頭の固い腹黒。

第二王子のイライジャは俺様で素直な自由人で、第三王子のジェイコブは可愛らしく控えめだ。

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