第20話
ヴィクトリアは爽やかな笑みを浮かべた。
周囲がヴィクトリアの献身的な行動に感動しているなか幸せに浸ったっていた。
(……今まで培ってきた技術で陛下を癒せる日が来るなんて、し・あ・わ・せ)
何を隠そう……ヴィクトリアになる前は大きな駅の中にあるマッサージ店で働いていた。
何故ならば、理由は単純明快。
マッサージ店では毎日のデスクワークや立ち仕事で疲れた客が沢山やって来る。
通勤帰りのおじ様が押し寄せるからという理由と、イケおじに尽くせる環境が毎日続く天国のような職場だったからだ。
疲れきったおじ様達を癒したいと腕を磨いた結果、指名ナンバーワンのマッサージ師になっていた。
毎日るんるんで出勤して仕事を楽しむ姿を見て、同僚達は眉を顰めていたことを思い出す。
気持ち良さに寝落ちしてしまうおじ様。
ツボを押すと眉を顰めて悶えるおじ様。
ありがとうと色んなおじ様に言ってもらえる天国のような環境。
城で働くためには父と母の許可はさることながら、シュルベルツ国王のお世話をしたいヴィクトリアにとっては、彼の許可は必須。
先ずは彼にこそ、ヴィクトリアの実力を理解してもらわなければならなかった。
つまり、シュルベルツ国王にヴィクトリアに側にいて欲しいと思わせる事が何よりも大切なのである。
そして寝る間も惜しんで座りっぱなしのデスクワークが、サラリーマンのおじ様達と重なった。
文字通り、ツボを押さえてしまえば此方のものである。
勿論、ヴィクトリアには毎日シュルベルツ国王に会いたい&触れられるという下心が特盛だ。
「それは嬉しいけど、どこでその技術を……?」
「わたくしが王立学園に通っていた頃、国の代表として隣国に留学致しました。その時に覚えたのですわ」
「そうか……!あの時に」
「えぇ……その技術に感銘を受けて、わたくしは密かに技術を習得致しました」
この国には、東洋風のツボ押しマッサージのようなものはない。
だが、ヴィクトリアは異国に一年間留学したことがある。
そしてその異国は以前でいうところの『中華』っぽい部分がある。
独特の言葉、文化……そして武術が盛んでヴィクトリアの護身術や剣術、伝統的な踊りを習得した。
ヴィクトリアはその美貌と勉強家の一面で、無意識ではあるが隣国に名前を轟かせた。
そして周囲のアピールをバッサリと躱しながら、さっさと留学期間を終えて帰国した。
その中にもマッサージっぽいものがあったようななかったような……。
(要は説得力があればいいのよ……!)
そしてヴィクトリアが隣国に行っていたその時からエルジーのジェイコブの攻略は始まっていたのだ。
それは置いておいて、ヴィクトリアが隣国に行っていたのはシュルベルツ国王だって知っているはずなのだ。
「わたくしは、この技術が誰かの役立つのでは……とずっと思っていたのです。ですが、貴族の令嬢がこうするのは、はしたないかとずっと言うのを我慢していたのです」
「ヴィクトリア……」
「未婚の令嬢が婚約者以外の男性に触れることはいけませんもの。ですが今はわたくしも陛下も独り身同士……何も問題ございませんわ!そうに決まっております!!そうですわよね?」
「えっ……あ、うん」
シュルベルツ国王はヴィクトリアの勢いに押されているのか、驚きつつもゆっくりと頷いたら。
(はわああああ、このキョトン顔かわいいいぃ)
シュルベルツ国王から垣間見える少年性が堪らなく心に刺さるのだ。
普段が紳士的な姿しか記憶にない分、尚更この魅力が輝くような気がした。
シュルベルツ国王はゆっくりと乱れた衣服を整えながら体を起こした。
そして侍女長から水を貰い、ゴクリと飲み干した。
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