【完結】悪役令嬢の姉に転生した枯れ専女子はイケおじにしか興味がない!〜あと三十年経ってから出直してきなッ!!!〜

やきいもほくほく

一章 ヴィクトリア、覚醒編

第1話

「す、すまないがヴィクトリア。君との婚約をっ、解消して欲しいんだ」


「…………何故でしょうか」


「僕は、君の妹であるエルジーを好きになってしまったんだ!」


「ーーーーッ!?」



この時、今まで何にも興味がなかったヴィクトリア・バリソワは、妹のエルジーに対して強烈な憎しみを抱いた瞬間ーーー。


頭に何かの記憶が流れ込み、ヴィクトリアは動きを止めた。

珍しく困惑しているようにも見えるヴィクトリアを見て、エルジーの唇が大きく弧を描いているのを他人事のように見ていた。


(わたくしは……ヴィクトリア。え……?どうして私がヴィクトリアになっているの……?)


そのまま時間が止まったようにヴィクトリアは動かない。

だが、頭の中ではヴィクトリアの記憶が駆け巡っていた。


婚約者のジェイコブ・コルシェ・シュルベルツはこのシュルベルツ王国の第三王子だった。

栗毛の癖っ毛とサファイアのような青い瞳……小柄で可愛らしい彼と婚約した理由は、親同士が決めたものだった。


バリソワ公爵家に生まれてから、厳しい両親のもと淑女としてのマナーや社交、そしてバリソワ公爵家を継ぐための知識を幼い頃から叩き込まれた。

そしてヴィクトリアは両親の期待に見事に応えてみせた。


その代わりに感情の起伏が少なくなってしまい、必要な分だけしか動かない表情筋。

笑顔に温度はなく、ついたあだ名は『人形令嬢ヴィクトリア』。


美しいピンクゴールドの髪とルビーのような瞳、そして美しい所作と隙のない性格も合間ってそう呼ばれるようになってしまった。

兎に角、頭は常に損得で動いて、無機質な笑みを常に浮かべているせいで、そう呼ばれてしまったのだろう。


そんなヴィクトリアに舞い込んだ縁談は国王が是非、ヴィクトリアに任せたいと紹介された第三王子ジェイコブ。

その時、ジェイコブは十歳、ヴィクトリアは十四歳だった。

婚約者といってもヴィクトリアから見れば妹のエルジーと同じで、可愛らしい小動物のような令息という印象しかなく、ジェイコブはヴィクトリアの圧に、ただただ怯えていた。


初めての顔合わせは、好印象とはいかなかったが、両親は将来、バリソワ公爵を継ぐヴィクトリアとジェイコブの婚約を喜んだ。

シュルベルツ国王も「ヴィクトリアならば安心してジェイコブを任せられる」と言った。


しかし多感な時期であり気弱なジェイコブは、なかなかヴィクトリアに心を開いてはくれなかった。

いつまで経っても二人の間には縮まらない距離があった。

ジェイコブはいつもヴィクトリアに怯えていたし、ヴィクトリアも上辺では取り繕いながらも、ジェイコブに対して婚約者として適切な対応をしていたが、それは殺伐としていて、とても婚約関係とは思えない程だった。


それは婚約してから六年たった今でも全く変わらなかった。


ジェイコブは妹で同い年のエルジーとよく仲良さげに話している姿を見ていた。

ヴィクトリアは、心の中ではずっとエルジーを羨んでいた。

何故ならば、エルジーは何のプレッシャーもなく、自由に伸び伸びと育てられていたのを間近で見ていたからだ。


天真爛漫で愛嬌があり、いつもニコニコしているエルジーはヴィクトリアにとっては眩しかった。


「見てみて!お姉様、この宝石とっても綺麗でしょう?お祖母様に譲ってもらったの」

「フフッ、お父様におねだりして新しいドレス買ってもらっちゃった」

「お母様ってば、お姉様を見習えって煩いの!だって国の歴史も計算もつまんないんだもん……やりたくないわ!」

「お姉様ばっかりずるいわ。私だってソレが欲しいって思っていたのに!」


ジェイコブが親しみやすいエルジーに惹かれるのは自然な流れだったのかもしれない。

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