【短編集】読むと不思議な気分になる怖い話

ロコヌタ

虐待された犬の仕返し

闇夜にJアラートが鳴り響く。

なんでも「J」をつければいいってもんじゃない。ダサいネーミングにあきれていたあの頃が懐かしい。


「カイト、なにやってんの、早く避難しなさい!」


血相を変えて母が部屋のドアを開けた。

隣国から威嚇のために発射されたミサイルが誤って北海道に落ち、日本国民の目が覚めたのは、つい昨日の話。落ちたのは田舎だったが多数の死傷者が出て、今日はニュース特番が一日中テレビで流れた。他人事のようにテレビを見て、そろそろ風呂に入って寝ようと思っていた矢先、再びJアラートが鳴ったのだ。


「逃げたって意味ないって。ウチの家族は大袈裟なんだよ……」

「どうしてあんたはいつも言うことを聞けないの! 大学生にもなって!」

「じゃあコロスケはどうするんだよ、避難所に連れて行けないだろ?」

「犬と人間を一緒にするんじゃないよ!」

「わかったよ、あとで行くよ……」


僕と母のやりとりを見ていた妹が、早く逃げようと高校生のくせに泣きわめくものだから、見かねた母は僕を説得するのをあきらめて、父と妹の三人で避難所へ行ってしまった。何が起きているのか知る由もなく、丸まって座布団の上で寝ているコロスケの寝顔を見て微笑む。


「ミサイルなんか落ちるわけないよなー」


高をくくってテレビを見ていたが、一人家に残された寂しさから、少しだけ不安にかられた。ちょっとの間コロスケに留守番してもらって、自分も避難所に行こうかと気の迷いが生じた。でも、コロスケを置き去りにして、もしも家にミサイルが落ちてコロスケが死んだりしたら、僕は一生後悔するにちがいない。


「ミサイルだー、伏せろー」


家の外から中年男性の叫び声が聞こえた。まさかと思った瞬間、目の前がパッと真っ白に光った。ミシミシっという音とともに家全体が微妙に宙に浮いたかと思ったら、テレビやベッド、さらには床、天井、屋根までもが僕の目の前を飛びかった。しばらくすると辺りは真っ暗闇になった。僕はコロスケを爆風からかばうように覆いかぶさりながら道端に跪いていた。助かったようだ。


「まじかよ、二日続けてミサイルが落ちるって、どんな確率だよ……。戦争でも始まるのかよ……」


辺りを見渡すと、遠くの方で炎が上がっている様子が見えた。爆風で随分と遠くに飛ばされたようだ。


「ワンワン!」

「コロスケ、無事でよかったなぁー」


まとわりつくコロスケを見て、よくぞ助かったものだと感心した。

道にしゃがみこんで、コロスケの頭をなでながら、辺りの様子をうかがう。泣きながらひとり避難所の方へ向かう小学生。心配になって声をかけたが、そのまま走り去った。足の悪いお年寄りも付き添いの人に支えられながら避難所へ向かっていた。手伝いましょうかと声をかけたが、何も言わず歩いていってしまった。こんなことが起こって、みんな気が動転しているようだ。

そういえば妹たちも避難所に指定された小学校に向かったが、あの辺りは無事だったのだろうか。そう思った瞬間、僕とコロスケは小学校の体育館の脇にいた。


「あれれ、小学校が目の前に……」


妹たちはどこにいるのだろう、そう思った瞬間、今度は校舎の三階にいた。

そこには母と妹が教室の窓から自宅の方角を見て泣きじゃくっている後ろ姿があった。すぐ隣に父もいた。


「みんな、遅くなってゴメン……」


教室の入り口から二人に話しかけたが、こちらに気が付いてないようだ。


「大丈夫だ、カイトもこっちへ向かっているはずだ。信じてここで待とう」


父は母と妹の肩を抱いて、燃えさかる田舎町の様子を不安そうに眺めていた。


「いや、オレ、ここにいるし! どうして気が付かないんだよ」


笑いながら三人の背後から声をかけたが、やはり何の反応も示さなかった。

そもそも、さっきから様子がおかしかった。気になる場所へ瞬時に移動したかと思ったら、家族どころか誰もが自分の存在に気が付かない。


「コロスケ、みんな怖さで頭がおかしくなったのかな」

「クウン、クウン」


コロスケだけは僕に返事をしてくれる。頭をなでるといつものように「もっと撫でて」と、すっと顔を突き出してくる。

その時、僕らに気が付いたのか、母がこちらを振り返った。


「お、やっと気が付いた? コロスケも避難所に連れてきちゃった。へへっ」


母はヨタヨタと遠い目をしながら近寄ってきた。あきらかに僕と目が合っていなかった。


「ちょ、危ないよ、ストップ! 足元にコロスケがいるんだから踏むなよ!」


そう言ってしゃがんでコロスケをかばうと、母は僕とコロスケをスっとすり抜けて行ってしまった。


「えっ! うそだろ? 」


間違いなく母は僕とコロスケの体の中を通り過ぎていった。


「まさか、僕は……、死んでしまったのか……」


そう思った瞬間、コロスケが僕に話しかけた。


「カイト、時間がないよ。あの光の中へ飛び込むんだ」

「え、ちょっと待って、コロスケ、今しゃべったよな? いったいどうなってんだ? 」


コロスケが僕の服の袖をくわえて、ぴょんと飛び跳ねるようなしぐさをすると、体がフワリと宙に舞った。僕は小さなコロスケに軽々と引っ張られて空高くへと舞い上がっていくのだった。空の上の方には月よりも明るく光った丸い穴のようなものが浮かんでいた。

スーッと空へ登っていく。子供の頃に空を飛ぶ夢を見たことがあるが、こんなに自由に飛べたことなんて一度もなかった。みるみるうちに僕の住んでいた町は遠くなり、燃え盛る炎も小さくなっていった。


「うわぁ、ミサイルは市役所の辺りに落ちたんだ……。ウチあたりまで爆風で吹っ飛んでる……」


空から見ると被害の様子がよくわかった。


「さあカイト、そろそろ着くよ。準備はいいかい?」


コロスケの言葉とともに、視界が一気に明るくなった。上の方に見えていた光り輝く穴をくぐると、そこは地上の景色とは思えない、まったくの異世界が広がっていた。空には雲ひとつない青空。辺りには広大な花畑が広がっていた。地平線がかすむほど広大な風景だった。


「まさか、これが、あの世……」

「カイト、みんなが待ってるよ。広場へ行こう」


コロスケに誘導されて、花畑の中の小道を歩いていくと、広い芝生の広場に出た。そこには多くの犬たちが何かの順番を待っているかのように、列をなして並んでいた。僕たちも最後尾に並んだ。

列の先の方に何があるのだろうと目で追うと、駅員のような制服を着た犬が、列に並ぶ犬たちに一言二言ほど話しかけて切符を渡していた。恐らく、列の先頭辺りに見えている金色に光る機関車に乗るための切符だろう。


「あれが天国への列車? 」


駅員の様子を目で追っている間、僕らの後ろにも長い列ができ始めていた。


「もう引き返せないよ。カイト、心の準備はできた? 」

「えっ? 」


コロスケの言葉で我に返った。いったいここはどこなんだ。本当に天国なのか。だとしたら、なぜ犬しかいないんだ。晴天の花畑で、とてつもない不安が僕に襲いかかった。その不安を察したのか、または犬しかいない中に人間が紛れ込んでいることに気が付いたのか、犬の駅員が僕のもとへ駆け寄ってきた。


「お客様、どうしてここへ? 」

「どうしてって、死んだからここにいるんでしょ? 」

「それはわかりますが、ここは犬の天国ですからねぇ」

「い、犬の天国? 」


犬の駅員が言うには、ここは犬が死んだら来る場所で、人間が来る場所ではないらしい。ここへ人間が来るのは、ある特殊なケースだけとのことだった。


「特殊なケースというのは、どんなケースですか? 」

「犬を虐待する人間がたまにいるのですよ。そんな人間たちが死んでからこっちへ強制送還されてくるんです。犬として修業するためにね」

「えっ、犬として修業って、どういうこと? 」

「あなた、まさか虐待を……」

「いや、そんなわけないでしょ! 」


そのとき、列の後ろの方に並んでいた黒い犬が僕の方をみて叫んだ。


「おい、オマエ、犬嫌いの家の人間じゃないか」


辺りがざわついた。よく見ると近所で飼われている犬だった。うちの家の前の道を散歩コースにしていたので見覚えがあった。香水のにおいをプンプンさせた気品のあるオバサンに連れられていた小さな黒い洋犬だ。このオバサンと母は同級生で、学生時代から仲が悪く、目が合っても挨拶もしなかった。でも、さすがに母が黒い犬にまで敵意をもっているとは思えなかった。


「それは誤解だよ、君の飼い主のことを気に入らなかっただけだってば」


小さな黒い犬に向かって言うと、また別の犬が声を上げた。


「嘘つき! あなたの家族は犬と人間を差別するような人たちよ!」

「どうして? そんなことないよ」

「だったら、どうしてコロスケくんと一緒に避難所に行かなかったの?」

「あぁ……、それは……」


僕がくちごもっていると、犬の駅員がわざとらしい咳払いをして仲裁に入った。


「オッホン。えーと、そういう話を聞いてしまうと、あなたを列車に乗せるわけにはいきませんな……」

「ちょっと待ってよ、誤解がある。僕はコロスケと一緒に避難所に行きたかったんだ」

「はい、いったんそういうことにして、あなたには虐待者向けの修行コースを受けてもらいましょうか」

「冗談じゃない、虐待なんかしてないよ! 」


すると、どこからともなく兵隊のような服装をした大きな犬が二匹現れて、両側から僕の腕を取った。抵抗することもできないくらい強い力で腕を固められた僕は、ひょいと列から引き離されて別の場所へ連れて行かれたのだった。どこに行くのか尋ねても、二匹の屈強な犬は「行けばわかる」としか答えなかった。気のせいか後からコロスケが心配そうについてきている気配を感じた。

しばらくすると、花畑の中にポツンと石で積まれた小屋が現れた。犬の兵士は僕に小屋へ入るよう命じた。小屋の中には、石を削って作った冷たい椅子が一つだけ置いてあり、窓には格子がついていた。入るなり椅子に座らされると、目を閉じて待つように言われた。


「殺すつもりですか? 」

「そんなことはしない。あなたはもう死んでいる」


どこかで聞いたセリフだ。僕は恐怖でたまらなかったが、すでに死んでいるのだから、もう死ぬことはないのだと気持ちを落ち着かせた。では、ここでいったい何が起こるというのだろうか。さっき駅員が言ってた修行ってやつだろうか。犬の兵隊が説明を始めた。


「あなたには我々の仲間が受けた苦しみを体験してもらうことになる。人間から受けた苦しみ、それは木の棒で殴られることかもしれないし、大きなタイヤで潰されてしまうことかもしれない。料理として食われてしまうこともあれば、腐敗した生ごみを食わされることもあるかもしれない。時に死と同等であるかもしれないし、そうでないかもしれない、そして……」

「も、もうわかったよ! その体験ってのは映画のようなもの? 映画を見るくらいなら苦しくても我慢するよ」


犬の兵士たちは顔を見合わせて、クスリと笑った。


「ふっ、映画ではない。あなたには実際に犬に転生し、犬として苦難の生涯を味わってもらう。それはあなたにとって事実であり実体験だ」

「え、いやだよ、犬に生まれ変わるってこと? 絶対に嫌だよ!」

「怖がることはない。3,4回ほど犬になったら再び人間に転生するプログラムさ。虐待する犬の気持ちを知ることで人間的にも成長できる」

「無理だよ、無理、無理、無理、絶対に無理! 犬になんてなるものか、許してくれよー」

「これはルールだ。こうでもしないと人間は犬を理解できないのだ。出発の時は今から666分後。それまで座って待っていなさい」


犬の兵隊たちは僕を小屋に閉じ込めて、鍵をかけて去って行った。

犬になるなんて耐えがたい話だ。しかも人間に虐待される運命の犬に生まれ変わるなんて拷問でしかない。僕が何をしたというのだ。僕はコロ助と一緒に家にいた。避難所に犬は連れて行けないルールだったから仕方なかったのだ。でも、もはや逃げる術もない。覚悟を決めざるを得ないようだ。


「クウン、クウン」


コロスケの声がした。冷たい石の椅子に座ったまま後ろを振り向くと、格子窓からコロスケが僕を見ていた。やっぱり後ろからついてきていたのだ。


「コロスケ、どうしたんだ、天国への列車には乗らなかったのか? こんなところに来ていいのか? 」

「カイト、ゴメン、僕は誤解していたんだ」

「コロスケ、もういいよ。僕はもう覚悟を決めたよ」

「ちがうんだ、誤解していたんだ」

「誤解? 」


コロスケは僕らが爆風で吹き飛ばされて亡くなった日の夜に起こったことについて話し始めた。


「実は、僕がカイトを犬の天国へ連れてきちゃったんだ。」


コロスケが言うには、人間の天国には人間用の入り口があるらしく、本来、僕はそっちに行かねばならないのに、コロスケが犬用の入口へ無理やり引っ張り込んだというのだ。確かにあの日の夜、僕の服の袖をくわえて引っ張り上げ、白く輝く穴の中へ連れ込んだのはコロスケだった。でも、なぜそんなことをしたのだろう。


「カイトのこと、僕と同じ犬だと思っていたんだ……だから一緒に行きたかった……」

「そ、そんなバカな、僕はどっからどう見ても人間だよ」

「うん、今なら人間だってわかるよ。でも、カイトはいつも僕と一緒にいてくれた。だからずっと僕と同じ犬の仲間だと思っていたんだ……」


コロスケの言葉を聞いてハッとした。逆に僕はコロスケのことを、あたかも人間のように接していた。一緒に風呂に入って一緒に寝て。犬という生き物について特別に好きでも嫌いでもなかったが、コロ助は僕が小学生の頃から一緒にいたから犬というよりも家族だった。だから普通に家族として接していたし、当然のことながら、家族はみんな分け隔てなく大好きだ。


「でも、わかったんだ。カイトは犬じゃなくて人間なんだ。カイトが『犬になんかなりたくない』って言ってるのを聞いて、やっと気が付いたんだ」


失言だった。僕は犬の兵隊やコロスケがいる前で、大きな声で「犬になんかなりたくない」って叫んでいた。それは例えば、アメリカ人の前で、アメリカ人になんかなりたくないって叫ぶようなものだ。


「ごめん、そんなつもりはなかったんだ。でも、少し考えなおした。人間として生まれ変わる前に、犬として生まれ変わって、犬の気持ちをもっと知ってもいいかなって思い直した。これはコロスケ、オマエのおかげだ。オマエがいたからそう思えるんだ。許してくれ! 」

「僕は怒ってないよ。カイトは僕の友達だからね。でも、慣れた人間の世界に生まれ変わる方がいいに決まってる。僕はカイトと一緒にいて、いろいろ勉強したんだ、人間って素晴らしいよね! 」

「コロスケ……」


寒い冬の朝、公園の砂場の脇に小さなダンボール箱を見つけた。毛布の入ったダンボールに入ったとても小さなコロスケはスヤスヤと眠っていた。小学生だった僕がコロスケを見ながらニヤニヤしていると、遠くで誰かの視線を感じた。コロスケは捨てられたのだと気が付いた。

しかしコロスケは歓迎されなかった。マイホームを買ったばかりの両親に、家の中で犬を飼うなんてとんでもないと怒られた。でも、子犬を砂場に返すなんてできないから、内緒で僕の部屋で飼うことにした。

二日後、部屋にコロスケがいることが両親にバレた、でも、僕の熱意に両親は負けた。あれから10年以上の時が過ぎた。

そんな思い出話をコロスケと語り合う時間が訪れるなんて思ってもみなかった。


「カイト、積もる話もあるだろうけど、ちょっとストップ」

「どうしたの? 」


コロスケが窓から顔を引っ込めたかと思ったら、小屋の鍵がカチャリと開いた。


「さあ、時間がないよ。時間が来るとカイトは犬になってしまう」

「コロスケ、鍵を勝手に開けちゃっていいのか? 兵隊がやってくるぞ!」


そう言ったはなから、どこからともなくザッザッと足音が聞こえてきた。二匹の犬の兵隊が猛ダッシュで向かってきたのだ。


「ほら、来ちゃったじゃないか。コロスケ、オマエも罰を受けることになるぞ……」


犬の兵隊は小屋の前までやってきて、鍵を勝手に開けたコロスケに詰め寄った。


「コロスケ君、キミは早く列車に乗りなさい。この人間……、彼のことは我々に任されているんだよ」

「カイトを人間の天国に返してあげたいんだ」

「それは無理な話だ。彼は犬のことを学ぶ必要がある。それに避難所での差別事件もある。犬の命を軽んじるとは酷い話だ」


言われてみればもっともな話だが、まさか犬たちが感情をもって話したりできるなんて、多くの人間は想像さえできないだろう。それを知っていたら、きっと母さんや父さんだって意地でもコロスケを避難所に連れて行ったはずだ。

犬の兵隊は続けた。


「もっとひどい話がある。我々はホテルにもレストランにも入れない。神社にだって入れないのだ。すべてに平等な神が犬を禁ずるはずがないだろう。犬を禁ずる神を信じるような人間には、教育が必要なことは自明である」

「カイトは僕の友達。ずっと一緒だった。良い思い出ばかり。カイトは別だよ」

「人間の世界は今、戦争が始まろうとしている。そんな酷い世界に住む彼が別格だという証明はできるかな? 」

「できる! だからカイトを人間の天国に返してあげて! 」


犬の兵隊は顔を見合わせてニヤリと笑った。そして、コロスケに提案した。


「コロスケ君、キミは犬として何度も生まれ変わり、人間の元で随分と学んだ。その修行の成果が認められ、次は人間へ生まれ変わることができる切符を得た。では、こうしよう。コロスケ君が得た人間への転生の切符を彼に使ってよいのなら、それを君が彼を信頼する証明とし、彼を返そうじゃないか」


驚くことに、先ほど列に並んでいた列車は、人間へ転生する犬たちを乗せるための列車だったのだ。犬たちは幾度の転生を経て現世で人間について学ぶと、次は人間として生まれ変わる選択肢を得るのだ。あの世にそんな仕組みがあるなんて知らなかったが、さぞかし愛犬家として生まれ変わることだろう。

そして、コロスケは僕と一緒に人間になろうとしていたのだ。当然、コロ助からその機会を奪うことはできない。目から涙があふれた。


「コロスケ、もういいんだ、僕は犬について学んでくるよ。オマエは人間になるんだ。そして戦争のない平和な世界を作るんだ! 」

「ありがとうカイト、でももう時間がない、早く切符を持って列車に乗るんだ」

「できないって、そんなことできないよー! 」


犬の兵隊たちは再び顔を見合わせてニヤリと笑った。そして僕とコロスケの方を見て言った。


「よろしい。君たちの友情は真実だと証明された」


その瞬間、体に激痛が走った。むせ返るような埃の臭いと、真っ暗闇の中、ただじっとしてることしかできない自分がいた。口の中は血の味がしていた。瓦礫のようなものが僕の上にたくさん乗っかていて、体がピクリとも動かない。それでも、わずかな隙間のおかげで僕は潰されずに済んだようだ。


「生きていた……、のか? 」


目には涙があふれていた。

すると、その涙をペロリとなめられた気がした。僕の顔の脇にコロスケの気配を感じた。


「コロスケ……、大丈夫か……? 」


コロ助に話しかけたが、何の反応もなかった。

しばらくして懐中電灯の光だろうか、瓦礫の隙間からチラチラと光が目に入った。今しかないと気力を振り絞って声を出すと、誰かが気が付いたようだ。母さんか、父さんか、妹か。僕を呼ぶ声が聞こえた。

そして、コロスケを呼ぶ声も聞こえた。


「よかった……」

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