BBB! (トリプルビー)
DA☆
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ウッドワンド公領スタッカローといえば、渇ききった岩石砂漠に、奇跡のごとく豊かに湧き出す湖のほとり、自然と人の往来が集まってきて成り立った、王国きっての交易都市である。
隣国と剣や弓での小競り合いが続き、金回りといえば傭兵や武器商人ばかりが動かす国境線近くの都市と比べると、この辺りはすっかり平和なものだ。さまざまな商品やサービスが遮られることなく集まる、一大商圏となっている。
そのうえ、この地に居を定めた領主のウッドワンド公が、豪胆かつ鷹揚で、ばくちやら遊郭やらがご自身も大好きとあっては、清も濁も流れ込む歓楽街として名を馳せるのも然りというものだ。
そんな歓楽街の片隅に、ばくち好きに秘かな人気を博す酒場があった。女主人ダニエラ・クレメンスが営むそこでは、店の奥に羅紗張りのポーカーテーブルが一卓あり、夜も更けてくると、ダニエラ本人がディーラーとなって、ポーカーの賭場を開帳するのだ。ここで行われるポーカーは、ホールデムスタイルと呼ばれる、二枚の手札と、五枚出される
ゲームが始まると、プレイヤーが囲むテーブルは、さらに大勢の酔客の輪に囲まれる。ブロンド美女のダニエラに、あるいはそのつややかな細い指先が描くカード捌きに見惚れるばかりの者もいたが、やはり最も注目を浴びるのは、中心にいるプレイヤーたちが真剣勝負に興じ、カードの出目に翻弄され一喜一憂する姿であった。
ある夜。
今夜はこれでお開きにするからね、とダニエラが宣言しての最後のワンゲームが、よもやの熱気を帯び始めた。
八人が卓を囲んでいたが、そのひとり、金髪を肩まで垂らした優男が、
両者はそれぞれ、ほぼ同じ数───五〇〇〇ほどのチップを手元に積み上げていた。金銭に換算すれば、良質の馬が一頭買えるほどの額である。プリフロップでのレイズの繰り返しで、ポットにはすでに二〇〇ほどが収まっている。
フロップに出た三枚は、♠2、♡K《キング》、♠5。
金髪の男は、碧眼隆鼻、細い顎の先に若干の無精ひげ。口元にはいつも微笑をたたえる優しげな風貌で、髪をかき上げるしぐさのたびに店のウェイトレスから黄色い声があがる(そしてあるじのダニエラが毎度叱りつける)色男であった。
が、爽やかな面相に似合わず、体つきはがっちりとしており、服の下は筋骨隆々、襟元や袖口からはいくつも傷痕が覗き、鍛え上げられた戦士の肉体であることは容易に見て取れた。椅子の下に置いた荷物からは、幅広の剣が突き出しており、明らかな武闘派だ。
ポーカーの手筋もアグレッシブで、とにかく強気にレイズし、他のプレイヤーを根負けのフォールドに追い込んで勝ちをせしめていた。運も向いており、彼のレイズをブラフと見切って誰かが果敢に応じたとしても、
一方の少年は、年の頃は一四~五であろうか、切りそろえられた黒い短髪、まだそばかすの残るあどけない顔立ちで、なりも小さく、賭場に入るには早いと見える姿だった。真剣というより、思い詰めた表情でゲームに臨んでいた。
彼はテーブルにかなり遅れて参加した。誰かひとりが抜けたとき、入れ替わりに席に着き、そのとき、他のプレイヤーがのけぞるくらい多額のチップを買い込んだ。しかし、彼はあまり大きく賭けなかった。配られる手札もよくないようで、フロップまで残る方がまれだったから、そのラストゲームまで、ほとんどチップの数は変わらなかった。
彼はほとんど表情を変えなかったが、ポーカーフェイスというのでなく、感情は垣間見えた。時が経つにつれ次第にいらつきが濃くなっていき、ラストゲームと言われたときには、ひどく悔しそうな顔をみせた。
ゲームを見守る酔客の間で、ひそひそ話が始まった。
───あのガキ、誰だ?
───ガキとか言うな、ありゃ、カウフマンさんとこのジャック坊ちゃんじゃないか。
───成金商人の息子? なんでこんな賭場に?
───知るかよ。金持ちの考えることはわからん。
───金髪のすかした野郎の方は? あっちも、見たことない面だ。
───ありゃ、
───誰だって?
───BBB。
───知らねえなぁ。
───ダニエラさんがそう呼んでるんだ。昔なじみだそうだよ。何年も前に町を出て傭兵をやってたらしいが、腕を見込まれて、最近、誰だかに呼び戻されたんだとさ。ここしばらくは、毎日この時間にポーカーしてる。
───しかし、そんな腕利きなら、名や顔が知れていてもよさそうなもんだが。
───戦場や王都の剣術大会で名を上げたことがないからな。ダニエラさん曰く、「無冠の帝王」だそうだ。きっと、そういう名誉に興味がないんだろう。
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