第5話 違法金属密輸グループを追え!③

 たまたまとはいえ、公園内にいる人物の口から、先程の二人組が話していた『アングリーサン』の名前が出たため、話を聞き続けることにした竜理。


 「アングリーサンは、ちゃんと保管しないとダメやろ。溶けてくるんや!!これ、建設に使いやすい金属なんやぞ!?アホなことするな!!」


 「(建設?何のことかしら?)」


 「それに溶けたら、下手をすれば爆発しかねないんやぞ!?だから、あれだけ気をつけろと言ったんだ!!」


 「(爆発?そういや・・・)」


 竜理は、話を聞いていて『建設』と『爆発』の、二つの単語が関係しそうなことを、思い出したのである。



 ―2ヶ月ほど前―


 休日、竜理は家の自室でテレビを見ていると、突然大伯父が右手に大きなリレーのバトンのようなものを持って、部屋に入ってきたのだ。


 「竜理、すまない!」


 「おじさん、久しぶり!?どうしたの?手に金属探知機なんか持ってて。」


 「いや、ちょっと家の材料が安全か、確認したくてな。」


 そう言うと、大伯父の【上条かみじょう哲夫てつお】(77歳・元海洋研究所所長)は、バトンのような金属探知機を、部屋のあらゆるところに近付けながら室内を回り、すぐにその作業を終えると、ホッとした表情を見せた。


 「何してたの?」


 「金属の確認だよ。法律で使ってはいけない、危険な金属が使われていないか・・・ね?」


 「危険な・・・金属?」


 「まあ、また来るね。急に入ってきてすまんな!」


 「う、うん!」


 危険な金属がないと分かっては、そのことが気になっている竜理に詳しいことを言わず、哲夫は帰っていったのであった。あまりにも突然かつ一瞬の出来事なので、竜理はポカンとしていたのである。



 ―現在・堺市内の公園内―


 竜理は、男性の通話の内容を聞き、大伯父がなぜ金属探知機を使っていたのか、詳細こそ分からないものの、使った理由はだいたい分かったようだ。


 「(・・・何で『違法』と呼ばれるのか、理由が分かる気がする!私の想像した理由は確実かは分からないけど。)」


 しかし、理由を想像した直後に、突然通話していた男性に腕を掴まれたのである。


 「何、人の話を勝手に聞いてんだコラ!?お仕置きが必要やなっっ!!!」


 男性は怖い表情で、脅しどころではない、恐怖心を抱かせる発言をしたのだ。竜理は腕を掴まれて、暴言を吐かれた際は少し驚いていたが、すぐに落ち着き、男性に向かって強気でいう。


 「手をかけましたね!!?告訴しますっ!!」


 「何!?」



 ―12021年12月・堺市内の飲食店―


 竜理の言葉にはルーツがあり、それは前年に遡る。竜理はレストランで、佐々木・市川・長崎・神越かみこし上杉うえすぎの5人で話をしていた時であった。ちなみに佐々木・市川・長崎は男子で、神越・上杉は女子である。


 「みんな、今年の流行語決まったよ!」


 「何なん?」


 「あの『手をかけましたね!告訴します!』でしょ?」


 「そう!それなの!」


 「やっぱりあれ・・が選ばれたのね!」


 話の内容は、流行語大賞のことで、12021年の流行語の一つは“手をかけましたね!告訴します!”だという。


 「確か、日曜の夜に放送している人気ドラマのタイトルが、え〜と・・・」


 「タイトルは『市長の改革』よ!」


 「それそれ!市長さんが乗る空中タクシーが、停車中に別の車がぶつかってきて、その車の運転手が謝りもしないので、地上に移動して、市長さんと話をするも、悪びれるどころか「俺の休みを台無しにしやがって!」と切れて、殴りかかろうと市長さんの服の袖を掴んだときに、さっきの流行語のセリフを言ったんだよね!!」


 「あ、神越さん、そのセリフなんだけど・・・」


 「どうしたの?市川くん?」


 「それ多分、僕のSNSマイメディアで、書き込んだエピソード・・・・・から、きていると思う・・んだ。」


 「どうして市川くんのエピソードが関係するの?」


 「ああ、僕の先祖の親友のエピソードでも、さっきの言葉が出てくるという、大きなトラブルがあったらしいんだ。」



 ―1年前―


 竜理のクラスメイトの一人である市川は、高校1年生の頃に、SNS短文サイト『プチトーク』に、先祖の親友のエピソードを投稿したのである。『プチトーク』は、短い文章から、長くて2000文字も書ける、便利なブログ代わりのSNSである。ユーザーも多く『便利なマイメディア12021年度第1位』の人気SNSである。また文章に、声を吹き込むことも可能で、動画とは違うリアルな言葉が『プチトーク』を盛り上げるともいう。そこに投稿した市川の文章はこちら。


 『昭和終盤に生まれた先祖の親友は、彼の父親より年上の人だった。市川家に伝わる話では、親友は1973年頃から75年頃にかけて、家を購入したが、二戸建住宅のため、隣人の騒音や嫌がらせに悩まされ、ついに我慢の限界を迎えた親友の母が激怒し、隣人女性の身体を掴むと「手をかけましたね!告訴します!」と言ったという。この言葉を古文書で見たとき、僕はどう反応したら・・・・・・・いいのか分からない衝撃があった。』


 この文章を『プチトーク』に投稿すると、ちょっとした話題となり、ある作家希望を名乗る人物がコメントしてきたという。


 『あなたの投稿の「手をかけましたね!告訴します!」という言葉に、衝撃を覚えました。この言葉を作品に使いたいです!』


 市川はそれに対して、二文字で返事したが、作家希望の人物が後に、人気作品『市長の改革』を書いた作家となったのである。竜理も、小説版とドラマ全話をチェックするほどのファンで、市川に台詞のルーツがあることはさすがに知らないが、『手をかけましたね!告訴します!』という言葉を気に入っているという。



 ―現在・堺市内の公園―


 竜理の言葉を聞き、男性は一瞬驚くも、すぐに落ち着いた様子であった。


 「へっ!強気な嬢ちゃんだ。でも、聞かれたからにはこちらもただで返すわけにはいかない!」


 「!?」


 男性は包丁を懐から取り出し、竜理の喉元に包丁を近づけたのである。



 【第5話・完】

 

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