第四章 一万年の記憶

第10話 戻って来た剣

次の日も補習を休んで自宅で自習した。剣が古墳公園の資料館に戻ってくるかもしれないので家で待機しようと思ったのだ。剣が戻ってきたら昼でも眠りにつき、雪女とコンタクトを取るつもりだった。しかし、昼を過ぎても連絡がないので再びヒロトに催促のメッセージを送った。


『何度も急かしてごめん。様子はどう?』


ヒロトからすぐに返事がきた。


『ごめん、まだ連絡はない……』


もしかしたらヒロトのお父さんも役人たちとの板挟みで困っているもしれない。そう思った僕は、剣を没収していった町の担当者に直接連絡を入れた。以前もらった名刺に書かれた役所の番号にコールし、取次係に遺跡の担当者に代わってもらうように伝えると、しばらくして先日我が家にやってきた男の声が聞こえた。


「お電話変わりました、文化財課の与田です」


「すみません、先日の七支刀の件で電話しました」


「あぁ、あの時の発掘物ですね、大発見かもしれないんですよ。すごいですね、第一発見者ということで名が残りますよ」


「あ、いや、そうじゃなくて、返してほしいんです」


「え? いや、それはちょっと難しいですねえ。あれは埋蔵文化財ですから教育委員会の方に渡ってるんです。大発見だとわかったら多分資料館で展示することになりますんで。また書面でいろいろ手続きしてもらうことになると思いますのでご協力お願いします。あ、それとね報奨金が出ますから」


「いや、あれは僕の大事なものなんです……」


「気持ちはわかりますが、あれがあなたのものって証明できないとね、横領ってことになっちゃうんですよ。つまりね、警察沙汰になっちゃうんです。遺跡って面倒くさいんですよ、申し訳ないですねえ……」


電話を切ってそのままベッドで寝ころんだ。おかしな話だ。自分の家の敷地で見つかったものなのに自分のものにしたら犯罪なのだ。それにあの剣は、サノロス、つまり僕の宇宙船から発信したナグラスロッドだ。つまり僕のものだ。まさに時空を超えた理不尽だ。町の担当者の話を受けて、僕はヒロトに直接電話した。


「もしもし、ヒロト、急かしてごめん、町の担当者に電話したんだ。どうも返してくれそうにないんだよ」


「やっぱりね、父さんも動いてくれてるみたいだけど、いろいろと手続き的なこともあって、すぐには解決しそうにないって、ちょうどさっき大学から電話をくれたよ」


「あの剣は夢に出てきたナグラスロッドってやつみたいで、あの剣さえあればまた雪女と話ができるんだ。そこで今回の解決策を教えてもらおうと思ってる」


僕がそう言うと、以前にファーストフードで話した時の話をヒロトは覚えてくれていたようだった。


「おぉ、確かそういう話だったよな。オレもあのとき手に取って何か感じるか試してみればよかったよな……」


「あぁ、そうだね……」


その時、名案を思いつたとばかりにヒロトは急に声のトーンを上げた。


「あ、そうだ、ミヒロちゃんのお父さんに頼んでみたら? だって国会議員だろ? 力関係で言ったら断然、町長より上だし、町の補助金の予算を握ってるわけだしさ」


確かに権限は上だが、時期首相候補の国会議員が小さな町の遺跡の出土品ごときで動くだろうか。内心無理だと思ったが、でも一縷の望みにかけてみるしかなかった。


「確かにヒロトの言うように、ダメ元だけど掛け合ってみる価値はあるよね。地球の未来がかかってるんだし」


「だろ、世界が終わることを考えたら、相手が国会議員だろうと使えるものは使おうぜ」


さっそくミヒロに連絡を取ろうと思ったが、先日のファーストフードで失敗した記憶が頭をよぎった。


「そ、そうだ、ヒメちゃんに頼もう。ていうか、三人でミヒロちゃんに掛け合おう!」


「それはいいね! まずは三人でビデオ通話しよっか!」


ヒロトはヒメあてに、ビデオ通話の依頼メッセージを送信した。すると五分もたたずにヒメからOKの連絡があり、スマホにヒロトとヒメの顔が映った。ヒメは珍しく慌てた様子だった。


「どうしたの? なにかあったの? 緊急事態ー?」


僕は答えた。


「うん、剣を取り戻すための作戦会議」


「ダイスケ君の剣って町に没収されちゃったんだっけ?」


「そう、剣があればまた不思議な夢を見ることができるから、夢の中で地球を救うヒントをもらおうと思ったんだ。でも、このままだと博物館の展示物になって一生返ってこないから、ミヒロちゃんのお父さんの国会議員パワーで取り戻そうって企んでる」


「うん、それ、いいんじゃない? でもミヒロがその話に乗ってくれるかどうか……」


「だよね、だからオレたち三人で真剣に頼んでお願いしようかなって思ってさ」


唐突すぎたのだろうか、あまりヒメは乗り気でないような印象だった。


「あまり三人でよってたかってお願いすると、ミヒロ、良い気しないかもね」


「そ、そうかな?」


「疎外感みたいなのを感じちゃうと思う。どうせ自分だけ仲間外れみたいな、そんな気を起こしちゃうかもしれない」


ヒメの言葉を聞いて変だなと思った。彼女が疎外感を感じる理由などあるわけがないのだ。ヒメにその真意をたずねた。


「僕はミヒロちゃんに『君は宇宙の仲間じゃない』なんて言ってないんだ。僕たち四人は仲間だって嘘をついた。だから彼女だけ仲間外れなんて思ってないはずだよ」


するとヒメがスマホの画面越しに苦笑いを浮かべて、すまなそうな顔をして言った。


「ごめん、実は私が本当のことを話しちゃったー……」


僕は絶句した。ヒメとミヒロとの信頼関係があるからこそ、本当のことを話せたのだろうが想定外だった。ミヒロはそれを聞いてどう思ったのだろうか。


「そ、そ、そうなんだ、その時ミヒロちゃん何か言ってた?」


「ううん、とくに何も言ってなかった」


苦笑いを浮かべるしかなかった。余計なことをしてくれたものだが、ヒメを責めている時間はないし、責めたところでヒメのことだから平謝りで終わるだろう。三人でミヒロに頼み込むのは良い作戦だと思ったのだが、出鼻をくじかれた。

するとヒメが思いもよらない提案をしてきた。


「ダイスケ君が真剣にお願いすれば、ミヒロも引き受けてくれると思うよ」


「え、どうしてオレ……?」


「彼女の内心はあまりよく見えてこないんだけど、ミヒロがダイスケ君のことをとても信頼していることだけは確実に言えるよ」


確かヒメは以前にミヒロを心の目で見ようとしてもよく見えないと言っていた。それなのに僕を信頼してくれていることだけは見えるというのも妙な話だ。ヒメの言葉を信じてよいのか困惑してしまった。


「あまり信じてないみたいだから、はっきりと言っちゃうけどね。受験のことや勉強のこと、なにか困ったことがあるたびにダイスケ君に意見を聞いてみたい、判断を仰ぎたいって私に言うんだよ。だからこの前、彼女に声をかけてあげてって言ったんだよ。だから私を信じて」


ミヒロが実際にそう言ったのなら間違いはないだろう。しかし、どうしてもっと早く教えてくれなかったのだろうか……。

いや、ここへきてヒメを責めても仕方がない。それに、僕ごときがミヒロの役に立てるなんて想像したこともなかった。むしろ政治家の娘である彼女に対して、逆に頼りがいのある雰囲気さえ感じてしまっていたのだから、ヒメの言葉はありがたかった。


「うん、わかった、じゃあオレから直接頼んでみる」


ヒロトは満面の笑みを浮かべていた。


「剣さえ戻れば、オレが何とかするから任せとけって男らしい感じで言うんだぞ。あはは」


この期に及んで僕を茶化せるヒロトには恐れ入った。しかし責任重大だ。そもそも、剣を取り戻せてもあの雪女から答えを聞き出せる保証がないのだ。再び『答えはあなたの中にある』で終了の可能性もある。結局なにも得るものがなければ忙しい国会議員の時間を奪っただけで終わってしまう。


「じゃあさ、ミヒロにダイスケ君から連絡がいくよって伝えておいてあげるから、ちょっとその場で待っててよ、ビデオ通話させるからさ」


そう言い残してヒメはすぐに通話を切った。

僕は自分の部屋でミヒロからの着信を待った。地球の未来がかかっているのだからミヒロが拒否するとは思えないが、少しでも伝え方を間違えば、以前のファーストフードの時のように機嫌を損ねてしまうかもしれなかった。そうなったら僕のせいで地球が破滅してしまうも同然だ。やはり三人でお願いしたほうが良いのではないかと往生際悪く考えているとミヒロから着信が入った。


「れ、連絡ありがとう、まってたよ!」


ミヒロが映った小さなスマホの画面を見て緊張したのか無駄に大きな声が出てしまった。スマホ越しのミヒロは、最初悲しげな顔をしていたが、僕の慌てた大声で笑顔になった。しかし彼女に見とれている場合ではないのだ。


「ヒメちゃんから連絡があったと思うけど。お願いがあって連絡したんだ」


「うん、だいたい聞いたけど、テロを回避するための最後の手段がついに見つかったんでしょ?」


「そ、そうなんだよ……」


ヒメはまたしてもハードルを上げてくれたようだ。まだ完全に方法が見つかったわけでもないのに……。

しかし、そうでも言わないとミヒロも協力してくれないだろうし、ここは『男』を見せるしかなかった。


「私にできることがあるかなあ……」


「あの時みんなで見つけた剣があったでしょ? この前話した通り、剣があれば宇宙と交信ができるんだ。そこで今回のテロの解決策を見つけだせると思うんだ」


「そうなんだ、でも剣は没収されちゃったんでしょ?」


「そう、取り戻すには役所から盗み出すしかないんだけど、それだと犯罪になっちゃうから、そこでお願いがある。ミヒロちゃんのお父さんに剣を取り返してもらうように手配してほしいんだ」


「それ、ナイスアイデアだね! すぐに伝えるよ。簡単なことで良かった!」


ミヒロのあまりに軽い一言に呆気に取られてしまった。いくらなんでもそんなに簡単にできるはずがないと思ったのだが疑うのも失礼だし、どうリアクションをしたらよいか迷ってしまった。


「え? ほんとに? 簡単……なんだね……」


「うん、国会議員のパワーって尋常じゃないくらいすごいんだ。なんでも動かせるっていうか……。パパが引退したら、この私に立候補しろって言うくらいだからね。国会議員のおいしいところを全部引き継いでほしいんだろうなあって思う……」


話の流れとは言え、思いがけないミヒロの一言が人間中毒の話を思い起こさせた。国会議員のおいしいところというのはつまり、富と地位と権力に間違いないだろう。やはりミヒロは僕を人間中毒から救うためにやってきた仲間ではなく、むしろ彼女自らが人間中毒の道に突き進んでいたのだ。


ミヒロが勉強会を欠席した日にヒメから聞いた話だが、ミヒロは父子家庭なのだ。父子家庭だけに父と娘の絆は強いはずだ。だからこそ、酔った勢いとはいえ国家機密レベルの話や政界の愚痴なども娘に話すことができたのだろう。そんな父親に跡を継いでくれと言われれば、それを断るのは勇気どころか、非情ささえ必要だ。仮に人間中毒に突き進んでいるとしても、ミヒロを責めるのは酷だ。


「ミヒロちゃん、本当にありがとう、剣が戻って来たら、夢の世界に入って必ず解決策を見つけてくるからさ。本当にありがとう!」


「うん、こちらこそパパを助けてくれてありがとう。頼りにしてるよ」


最後のミヒロの一言に僕の心は射抜かれた。頼られることがこんなに気分のよいものだったのかと改めて実感したと同時に、これこそがミヒロとの関係性における自分の立ち位置だと妙に確信した。僕は失っていた自信を取り戻したような不思議な感覚に陥った。



翌日の昼過ぎ、あまりにも早過ぎる結果に国会議員の権力のすごさを思い知った。


『作戦成功!』


ミヒロからの一言メッセージが届いて、僕は自分の部屋でガッツポーズをとって喜んだ。

そのすぐ後にヒロトからも連絡が入った。ヒロトの話によると、ミヒロのお父さんの秘書が町長に警告を発したようだ。古代のものとも思えない子供の掘り出したガラクタを取り上げて、そこまでして国から予算を取ろうなんて姑息な真似をするなら、今後一切予算は出さないと伝えたそうだ。剣を没収した相手が外務大臣で時期総理の息女関係者だと知って慌てた町長は、遺跡調査拡張計画をすぐさま撤回したのだ。ヒロトのお父さんには少々申し訳ない結果になったが、これも世界を救うためだ。

その日の夕方、町の担当者が菓子折りをもって家にやってきた。


「確かにあれが古代の剣なんてねえ、どう見てもオモチャじゃないかって思ったんですけど、形式上必要な手続きでして……、結果としてご無礼をいたしまして誠に申し訳ございませんでした」


母は恐縮して菓子折りと剣を受け取ると、担当者はばつが悪そうに後ずさり気味に玄関を出て帰っていった。僕は母から剣を受け取った。


「ったく、菓子折りの順番が逆よね……。ていうか、この前のかわいらしい子、国会議員の娘さんだったの?」


「う、うん……」


「まあ、ケンカすることもあるかもしれないけど仲良くやりなさいね」


母はミヒロを僕の彼女だと勘違いしたようだ。


さて、僕は早速剣を部屋に持って行き、ベッドに横になった。とはいえ夢を見るために眠ろうと構えるとかえって眠れないもので、目がさえてどうにもならず、結局夜を迎えることになった。


『ヒーロー様、地球を救ってください、お願いします』


夜寝る前にヒロトからフザけたメッセージが入り思わず吹き出してしまった。おかげで少しリラックスできた。

僕はヒロト、そしてヒメとミヒロに出会ってから今までの楽しかった記憶を辿りながら次第に眠りに落ちていった。


僕は花畑にいた。これは本当にいつもの夢だろうか、景色が明らかにいつもの暗い宇宙空間ではなかった。顔の近くをひらひらとモンシロチョウが飛んでいたから春なのだろう。現実の季節は夏だったから、自分が夢を見ているのは明らかだった。するといつもの雪女の声が聞こえ始めた。


「私の誘導に従ってください」


いきなりの命令口調で、いつもならここで僕は気分を害してイラついているところだが今日は違った。雪女はヒメに言わせれば僕の守護霊なわけで、僕を良い方向へ導いてくれる神のような存在だと知ったからだ。


「あの、その前に謝らないといけないと思ってました。オレはあなたの言うことを信じてなかったけど、言うとおりになりました。仲間も二人見つけたし、剣の正体もわかったし、多分、もうオレは星に帰れます」


しかし雪女からすれば、まだ物足りなかったようだ。


「あなたは自分自身で記憶の一部を取り戻しましたが、まだ不完全です。すべて思い出すため少しだけ補習を受ける必要があります」


あえて受験生の僕になじみのある『補習』という単語を使う雪女。彼女は何者なのか。


「補習ですか、受けますよ、夏休みの補習なら毎日受けてます」


今日の僕が雪女に対して素直な理由はもう一つある。大事な質問が控えているからだ。テロを防ぐ方法を聞かなければならない。


「あの、その前に質問が……」


雪女は僕が話し出すとすぐに、それを遮った。


「あなたの質問はわかっています。しかし、それを答えることはできません」


(出た! )


やっぱりそうだった。雪女はいつもそうだ。予想通りだった。答えは見つからない。地球は終わった……。

いや、ここであきらめたら駄目だ。


「その答えは予想してました。でも、今回は引き下がれないんです、僕らの世界が終わってしまうんです。そうなったら、今までオレを助けてくれたあなたも困るでしょう?」


「人類の数は限りなく減り文明もほぼなくなりますが、あなた自身は消えてなくなりません。あなたの実態は肉体ではなく、意識そのものなのです。あなたの仲間も同じです」


「それはわかってるんですけど、オレは大災害を経験したくないんです。痛い思いをしたくないんです。大事な人にも辛い思いをさせたくないんです」


これだけ言えば聞く耳を持つだろうと思ったが、雪女は全く動じなかった。


「条件が整えば必ずそれは起こります。そこにあるのは出来事に対する感じ方のみです」


雪女は頑固だったが、言うことには一貫性があった。僕はもうあきらめるしかなった。


「わかりました、じゃあ、まずは補習を受けます。その後にもう一度話しましょう」


雪女は微かに頷いた。


「それでは補習をはじめましょう。まず最初にあなたは、答えを自分で見つける術を学ばなければなりません。しかしそれは簡単で、答えは常にあなたの中にあることを思い出すだけなのです」


雪女がいつも言う『答えは自分の心の中にある』という謎の哲学的フレーズ。この雪女との禅問答を回避する方法はないものだろうか。


「なぜオレは答えが自分の中にあるのに気が付かないんですか?」


「地球製の人間という着ぐるみは、時に自分の潜在能力を閉じ込めてしまう固い殻のような役割をしてしまうのです」


そういえばサノロスたちは心を体から自由に切り離すことができた。僕もサノロスと同じことができるはずなのに、僕は人間の体を自由に切り離せなかった。自由に着ぐるみを脱ぐことができれば、もっと潜在能力に気が付きやすくなるのではないだろうか。


「あなたは今、着ぐるみを脱いでいます」


そうか、気が付かなかった。確かに雪女が言った通り、たった今、僕は夢の中で体を切り離していた。眠って夢を見ている間は、ほとんど肉体というものを意識していなかった。まるで幽体離脱をしているかのように、ただ自らの意識だけがあった。


「さあ、夢の中にあるものをもっと観察してください」


夢の中では肉体から解放されて自由だが、それを意識的に満喫したことはなかった。僕はこの時、花畑のような場所にフワフワと浮いていたが、上下左右、動こうと思えばすっと視点を移動できた。でも、決して目で見てるわけではなかった。次に自分の足元で咲いている花に意識を向けた。このピンクの花はなんだろう、そう思っただけで、花の名前がふと頭に浮かんだのだった。


「この花はポピーだ、あれれ、なんで知ってるんだろう……。花なんかまったく興味ないのに……」


「あなたは種としての花の意識と同化しているのです。花が種全体として持つ人間とのコミュニケーションの記憶を取り出しているのです」


こうして肉体から離れると、地球で人間として生きてきた時の制約や常識から完全に解き放たれるのだ。今までもこうして花と会話ができたのだが、それを思い出せなかっただけなのだ。


「そうです、学ぶのではなく、思い出すのです」


夢の中で『思ったことは何でもできる』と思うことで、本当に何でもできるようになるのだった。これを現実世界でもできるようなったら受験勉強など不要だ。


「人間中毒の病状の一つとも言えます。あなたは本来すべてのものとコミュニケーションができるのです。文字通りすべてのものです。そこに不可能が生まれるのは物質的時空間で生きる人間の特徴です」


すべてとは何をもってすべてなのか。公園の野良猫も、空を飛ぶカラスも、地中のミミズも深海魚もすべてを指すのだろうか。


「そうです。その気になれば岩や金属など無機物の意識も理解することができるでしょう」


本当ならすごいことだ。生き物ではないただの物体にも意識があったのだ。ということは、もしかしたら宇宙ステーションの意識もよくわかるようになるのかもしれないと閃いた。


「これはあくまで基本事項です。あなたはあなた自身の力ですべてを思い出す必要があります。あなたが自分自身の思考のブロックをはずすための授業はこれから始まります」


何かが始まろうとしていたが、できれば怖いことはしたくないし、痛いこともしたくない。できれば簡単な授業であってほしかった。

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