第三章 世界の終わり

第7話 奪われた剣

翌朝も夏休みの補修だった。身支度をしながら昨日の夢のことを考えた。

人間中毒になったサノロスを仲間が助けようとする物語、それは僕にとって他人事だった。でもそれが現在進行形で起こっていると知って俄然、彼らの行く末が気になった。できれば手助けしてやりたいが、そもそもサノロスが誰なのかわからない。僕がサノロスを助けられるわけでもないのに、なぜ雪女はサノロスの物語を僕に見せたのか。

どちらにしても、地球リセットは大問題だ。突拍子もない話だが、早いうちに勇気を振り絞ってヒロトやミヒロ、ヒメたちに知らせなければならない。馬鹿にされる覚悟で……。

制服に着替え終わって朝食をとるために居間に向かおうとするとヒロトからメールが入った。


『ゴメン、まずいことになった。剣の話を父さんがうっかり同僚に話したらしい。調査員がダイスケの家に来るかもしれない!』


世界の終わりという大きな問題に直面していた僕にとって、たわいもない話に聞こえた。


『了解』


ヒロトに軽く返信をしてゆっくり朝食を取り始めた。すると、まだ朝の七時半だというのに、バイクに乗った警官が一人で我が家を訪ねてきた。母が応対したが、ヒロトからのメールもあったので、まさかと思いながらも廊下まで出て襖の陰に隠れて聞き耳を立てた。


「ご存知かと思いますが、埋蔵文化財保護法ってのがありまして」


「はあ……、存じておりますが……」


「資料館の研究員の方から報告があって、ご自宅で何か見つかったと聞きまして、それをですね、決して壊したり捨てたりしないようにってお達しが来ましてね。朝っぱらからすみませんが、防犯巡回のついでに寄ったんです」


「はあ……」


「ちゃんと報告しないと罰せられちゃいますからねえ。じゃあそのことは教育委員会や研究所の人たちに伝えておきますからね」


そう言って警官は帰っていったが、まさに先ほどヒロトがメールで伝えてくれた件だった。


「今警察の人が来て……、遺跡や出土品を見つけたら壊さずに保管しましょうねって」


「うん……」


「この前、友達と家の裏で騒いでたけど、防空壕で何か見つかったの?」


「まあ、ちょっとね。」


「発掘ごっこはいいけど、もしも家で遺跡なんかが見つかったら、お店が営業できなくなるんだからね」


「うん……」


「生活できなくなっちゃうんだからね。あーもう、警察まで来ちゃって、バカバカしい話よね……」


母はぶつぶつ言いながら部屋を出ていった。僕は朝食を済ませて不機嫌なままの母に駅まで送ってもらい、電車に乗って学校へ向かった。

教室に着くと、ヒロトが申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。なぜヒロトのお父さんは剣のことを話したのだろうか。僕はヒロトに愚痴った。


「朝っぱらから警察が来てさ、文化財保護法とか言い出して超ウザイの」


「まじで? ゴメン、ホントごめん!」


「あんなの古代のものじゃないってヒロトのお父さんも言ってたじゃん」


「実は、麓エリアで七支刀のニセモノが見つかったって話を、父さんが同僚の研究者にうっかり話したらしいんだ。そしたら、その同僚は以前から麓エリアも発掘対象にしたいって思っていたらしくて、町の担当者にその話をしたらしいんだ。それが町長に伝わって国からの予算アップのチャンスだと張り切っちゃってさ。ニセモノでも構わないって言い出したらしいんだ……」


彼らの思惑が分かった。町長や役人たちは町おこしのことしか考えてなくて、歴史とかそんなことより、とにかく予算を町に引っ張っることができればそれでよかったのだ。


「うそだろ、そしたらオレんちが発掘対象になって店の営業ができなくなるよ」


「いや、店は観光客が集客できるし、うまく営業できるようにしてくれると思う。結局、田舎に人を呼ぶことが目的だから……」


「そういうことか……、でも剣は没収か……」


「以前に『呪いの剣』とか言ってたよな? 大事にしないと呪われるとか言ってなかったっけ? 手放したらマズくね? 」


確かに呪いで受験に失敗したり、ミヒロに会えなくなるのは困るが、今までの経緯を振り返る限り、そのようなことは起こらないような気もしていた。むしろ世界の終わりを知ってしまったこと自体が呪いだ。しばし物思いにふけって黙った僕を見て、ヒロトは少し慌てたようだ。


「いやあ、ゴメンゴメン、オレも呪いと戦ってやるから許してくれ! 政治家の娘と霊能者もいるし、案外オレらって無敵かもよ! あはは!」


呪いどころか、地球のリセットが世の中に待ち受けてるのだと思うと笑えなかった。しかしまだ真実とは限らない。そもそも雪女はそれがいつ来るかわからないというし、下手したら百年後かもしれないのだ。百年後だとすれば僕たちは全員生きてないだろうから気にする必要はないし、それをみんなに忠告したところでオオカミ少年どころか気がふれたと思われるだけ損だ。


補習が終わり家に着くと、さっそく町の担当者がやってきた。しかし今日の朝に警察をよこして、その日に没収しにきたスピード感に驚いた。


「念のため年代調査と成分調査、できる限りの調査に出してみましょうか。何があるかわかりませんし。万が一何か発見があれば予算もつきますし、ぐんと調査範囲も広がりますし」


それを聞いて母が心配そうに自治体の担当者に言った。


「あの、うちとしてはカフェの営業ができなくなるのを心配してるんです。家が発掘現場になって生活ができなくなったら困るんです……」


「もちろん、町民の生活が第一です! こちらのお店は我が町に欠かせない人気店ですから、確実に営業継続できることを保証します! 」


「あー、それならよかったわ。今度一筆書いてもらいますからね」


担当者の言葉を聞いて、今回の一件は町おこしの集客のためなのだと確信した。

すると担当者はピカピカの七支刀を受け取って、軽く頭を下げ、そそくさと帰っていった。玄関の引き戸が閉じられると、母はすっと表情を鬼の形相に変えた。


「そんな大発見なら菓子折りの一つくらい持って来いって話よ。信用ならないから後で一筆もらいに役所に行くわ」


母はまた不機嫌になり厨房に引っ込んだ。

僕は大事にしていた剣を没収されて少々不安になったと同時に気が付いてしまった。雪女が言っていた『しばらくコミュニケーションが取れなくなる』というのはこのことだったのだ。驚くことに雪女の予言が当たったのだ。夢と現実がリンクして血の気が引いた。恐らく最初の頃に雪女が言っていた『触らぬ神に祟りなし』もこのことを指していたのだろう。もしも僕たちが剣を掘り出さなければ、剣を没収されることもなかった。そういえばヒメも言っていた。剣を掘り出してしまったことで、運命が変わったと。

これでいよいよ地球リセットの話も現実味を帯びてきた。これを自分だけの秘密とするのは重過ぎた。



剣が没収された日の夜、しばらく考えてヒロトたち三人に夢で見た地球大破局の話を伝えようと決意した。

ただし一つだけ問題があった。この話を伝えたからと言って、なんら対処法がないことだ。地球に天変地異などの大破局が訪れるとしても、防ぎようがないのである。防ぎようがなければ、このまま黙っていた方が、みんなの心の平和につながるだろうこともわかっていた。

でも、ヒメならば理屈で考えてもわからないようなことでも超能力を使って何らかの答えを出してくれるかもしれない。


(そうだ、まずはヒメだけに相談しよう)


そう思った僕はヒメだけに直接メッセージを送ることにした。


『ヒメちゃん、いきなりごめん!

先日の夢の話をしたいんだけど時間あるかな?

夢の内容がぶっとんでるだけに他の二人にはまだ内緒にしたいんだけど』


ヒメからはすぐに返信が来た。


『OK

予想してたよー

明日、補習の後に話そー』


さすがヒメだ、僕がこのようなメールを送ることも想定内だったようだ。


翌朝、目が覚めると夢を見ていないことに気が付いた。これで剣が雪女の夢を見せていたことが明白となった。

補習が終わり、早足で待ち合わせ場所のファーストフードへ向かうとヒメが先に来ていた。昼時で込み合っており周りは騒々しかった。


「ちょっと周りがうるさいけど、早速本題いいかな?」


「うん、大丈夫、世界の終りの話でしょう?」


なんと勘の良いことだろうか。僕は出鼻をくじかれて呆気にとられてしまった。


「すごいね、どうしてわかったの?」


「実は私も守護霊様から悲惨な未来を見せられてたからピンと来たの」


「さすがヒメちゃんだね……」


「ダイスケ君はどんな夢を見たの? 」


「夢の中で雪女みたいな怖そうな女の人が世界の終わりが来るって言うんだ。しかも近いうちに来るって。でも、そんなことをオレに言われても、どうしようもないじゃん。それでヒメちゃんにも聞いてみようって思った」


「やっぱりね、私も近いうちに来ると思う。でも私もなにも良い方法は見つかってない……」


なんと、ヒメも何も対策がなかったのだ。話を始めて五分で結論が出てしまった。

すると、なぜかヒメの表情が笑顔に変わった。


「ところでさー、夢の話をもっと詳しく教えてよ。私の守護霊様が夢の話をもっと聞けってウルサイのー」


僕は雪女が話してくれたSFの世界を時系列に並べて興味津々のヒメにすべて伝えた。宇宙人や宇宙船やら、とんでもなく現実離れした話を賑やかなファーストフードで話す怪しい二人。

すべて話し終わると、ヒメは黙って目を閉じ腕組みをしてしばらく考え始めた。何か妙案が出てくる雰囲気を感じたが、長らく腕組みをしたままヒメは動かなかった。居眠りをしてしまったのではないかと思ったその時、ヒメが笑いながら言った。


「ダイスケ君さあ、その夢、何か変だと思わなかった?」


「そりゃ、もちろん変だよ、とにかく普通じゃないし、雪女の作り話じゃないかってずっと疑ってた」


「うーん、そういうことじゃないんだなあ……」


「え?」


他に夢のおかしなところと言えば、雪女はいったい何者かということと、剣と夢の関係くらいだ。


「そうそう変だと言えば、剣が夢を見せてるはずなのに、実は剣が見つかる前も何度か雪女が出てくる夢を見たんだよ。そういえば古墳公園のプールで浮き輪で揺られて居眠りした時が最初だったかな」


ヒメはすべてを悟ったかのように僕に説明をしてくれた。


「それは剣のパワーが強いからだよー。剣は家の敷地に埋まっていたのに、古墳公園までパワーが届いてたほどだからねー」


「でも、小学生の時も中学生の時も剣は家の敷地に埋まってたのに雪女の夢なんて一度も見なかったよ」


「多分、まさに今、雪女がダイスケ君を見つけたんだよ。プールでリラックスして一種の瞑想状態になって、ストレスや邪念が消えて心がクリアになったことで、雪女がダイスケ君の周波数をキャッチしやすくなったんだよ」


「あぁ、確かに雪女は周波数がどうとか言ってたよ。でもさ、よっぽどオレに会いたかったんだろうね。なぜだろうね。そこがわかんないんだ」


「なぜでしょうね。うふ。おもしろーい!」


ここは笑うところだったのだろうか。ヒメは手を叩いて笑っていたが、僕はまったく状況がつかめずにいた。


「あ、笑ってごめん、私は雪女の謎解きがわかったんだー」


「謎解き?」


「そう、こんなにわかりやすい謎解きはないと思ったけど、当事者だと気が付かないものなのねー」


「当事者?」


「雪女は一万年ぶりにサノロスを探し出したって話よー」


「えー? それって、まさか……」


「うん、そうとしか考えられないでしょ?」


「サノロスの正体はオレだったのか……」


思い起こせば通学電車で古代の妄想に浸っていた時。頭の中で自分の王国を作ってあれこれ妄想していたのだが、驚くほど鮮明に王国の情景が思い浮かんだのだ。その情景が自分自身の記憶だったとしたら鮮明なのも頷ける。なにより遺跡のそばに住み、王の剣も家の近くに埋まっていたのだし客観的に見ればサノロスは自分しかいなかった。

雪女は『歴史を知ることが自分を知ることになる』などと謎めいたことを言っていたが、あのSF話はまさに自分自身の歴史のことだったのだ。以前に僕は、サノロスが同時代に生きて物質的快楽に溺れているのなら助けてやりたいと思っていた。しかし、サノロスが自分自身であればもう安心だ。今の僕は金も名誉も必要ない。人生に未練など何もない、明日星へ帰ろうと思えば帰ることだってできる。

いや、強いて言えばミヒロへの片思いは未練といえば未練だ。できればミヒロも一緒に星へ連れていけるなら……。少しばかり考え込んでいた僕に、ヒメが目を閉じながら静かに話し始めた。


「今さー、ダイスケ君の前世を見てたんだ。一つ前の前世はイギリス。やっぱり子供のころから努力家だった。大人になると富と地位と名声を得た。その前の前世も、その前も、とても裕福な暮らし、満ち足りた生活。でもそれを得るために、すごく苦労した。新たな人生を迎えるたびに人生の難易度が上がるの」


 僕の前世がイギリス人だったとは驚きだ。もちろん記憶などないが。


「昔は王だったから簡単に何もかも手に入ったけど、時代を経るごとに社会が変わり、だんだん財産や権力を手に入れるのが難しくなってきて人生に疲れてくるの。今が疲れのピークってところね」


 なるほど、過去一万年ほど僕の思考や行動は権力に固執する王様のまま、あまり変わってなかったということだ。そりゃ疲れるはずだ。


「そして今もまだ無意識にそれを追い求める自分がいるのだけれど、今のダイスケ君はとても疲れてる。もう人間は充分かなってところまで来ていて、だから今すごく悩んでるんだと思うよ。」


「オレの苦労を知ってもらって涙が出そうだよ。実は受験勉強も乗り気がしない。もっと別の生き方があっていいような気がしてる。」


雪女が『あなたは良い方向に進んでいる』といったのは、このことだったのだろう。僕は自分で気がついていたのだ。もう富も権力も何も追い求めなくて良いことを。今の人生を無理なく幸せに全うし、その後は星へ帰るだけなのだ。ヒメのおかげで徐々に頭の中が整理されてきたが、一つ気になることがあった。


「ところで、雪女って何者なんだろう? 」


「恐らくダイスケくんの守護霊だねー」


妖怪『雪女』が僕の守護霊だったとは複雑な心境だ。しかし、確かに雪女が言っていたことは振り返ってみれば正しいことばかりだった。守護霊としての役割を果たしていると言っても過言ではなかった。


「ちょっと気になったんだけど、サノロスがオレなら、他の宇宙の仲間たちも人間に生まれ変わってるんだよね?」


「そうそう、実はそれを言おうと思ったんだけど。その仲間の一人は私で、もう一人がヒロトくんだねー」


「え、ちょっと待って、マテラスはヒメちゃんってこと?」


「いや、私はマテラスじゃないなー。波動が違うんだー。誰が誰なのかわからないけど、ヒロトくんと私は確定。実は最初に遺跡でダイスケ君とヒロトくんを見かけた時に、兄弟のような波動を感じたたの。二人に声をかけようってミヒロに持ちかけたのは実は私だったのー」


「じゃあ二人はオレを助けに来るために生まれたってことになっちゃうよ?」


「まあ、そういうことになるよねー。今日の話を聞いて運命ってすごいなーって思った。私たち三人は他人とは思えないねー、うふふー」


むしろ僕にとっては、ミヒロの方が親しみ深く感じたのだが、なぜヒメの口からミヒロの名前が出てこないのだろうか。


「ところで、あの剣だけどさー。あれを掘り出した日、なんとなく懐かしい感じがしたのー」


「そういえば、パワーが強いとか言ってたよね」


「うん、私は波動に敏感だから、ケガをしたくなかったから触らなかったけど、もしもあの剣に触れたら、すべてを思い出したかもしれない……」


「残念なことに、発掘物として役所に没収されちゃったんだけどね……」


「え? そうなんだ? 」


ヒメの話を聞いている間、僕はまた一つ真実を得ることができた。あの剣は結局何物なのか雪女の口からは聞けなかったが、恐らく確実な答えを見つけた。


「まさか! サノロスたちの宇宙船から出た『ナグラスロッド』って、あの剣のことじゃ?」


「そう! 私も思った、間違いないよ。だからダイスケ君の家の近くに埋まっていたんだよー。地位と名誉を追って、疲れに疲れて、過去の栄光を思い出して、ナグラスロッドの近くに築いた一番最初の自分の王国へ、サノロスは最後に戻って来たんだよー」


なるほど、家の裏の遺跡は僕自身が作った人類最初の王国だったのだ。

雪女の話では僕が最初に人間になったときに、ナグラスロッドのすぐ近くに住むように初期設定をしたとのことだった。ところが、そのあとの人生から僕は、ナグラスロッドが人生の探求に邪魔だと感じて無視し始めた。でも、だんだんと人生がうまく行かなくなって、過去の栄光にすがろうとナグラスロッドの近くへ再び戻って来たのだろう。


「すごいよダイスケくん、話がつながって来たねー。みんな仲間だったー」


「あの、ちょっと待ってヒメちゃん、ミヒロちゃんはどうなの?」


「うーん、ミヒロだけは違うんだよね……」


「や、やっぱりそうなんだ……」


「あの子はちょっと変わってて、私にもよく見えない子なの」


なるほど、彼女らと親しくなるにつれ、なんとなくヒメがミヒロに距離感を置いているように見えたのはそういうことだったのだ。


「ミヒロちゃんが仲間じゃないとしたら、オレ的にはかなり悲しいな……。残り一人の仲間がミヒロちゃんの可能性はまったくゼロなの?」


「うん、多分ね……」


会話がしばし滞って、僕たちは再び残された問題に戻ってきた。それは地球のリセット問題だ。

するとヒメは、これが今日のメインの話だとばかりに、改まって神妙な面持ちで話し始めた。


「言いにくいんだけど、実は近いうちに関東地方で直下型の大地震が来て首都圏が壊滅する未来を見たの。もしかしたら、これが世界の終りの始まりかもしれないんだ……」


「ちょ、ちょっと待って、いきなり重すぎるんだけど」


僕はあたふたして周りをキョロキョロ見回した。


「だから、この時は絶対に学校に来ないでね。東京に来ちゃダメ。家で避難してて。ミヒロにはもう伝えてるからヒロトくんにも伝えてほしい。あまり多くの人に話しても信じてくれないだろうから、親とか身近な人、信じてくれる人だけでいいから伝えてね」


「うわあ、ほんとうに? 超怖いんだけど……」


「怖がったらダメ、自分は助かるんだって意志を持たないとマイナスの波動にのまれちゃうからね。それに地震の前には前兆があるから忘れないで。大きな地震の前には中くらいの前震が起こるの。そして時を同じくして大きな流れ星みたいなのが見えたら、それが始まりの合図。その日から一週間は気を付けてね」


「う、うん、わかった、流れ星だね。でも、毎晩夜空を見てなきゃいけないのは厳しいな。見逃しそうだよ……」


「それは大丈夫。よくわかんないけど、その流れ星はSNSやニュースで大々的に取り上げられるの。だから、絶対に気が付くと思う」


「始まりの合図は流星だね、うん、わかったよ」


ヒメはその話を最後に、用事があるからと店を出ていった。怖がりの僕はヒメの話を聞いて、昼間の明るく騒がしいファーストフードにいることを忘れた。まるで暗闇にポツンと取り残された心境だった。この楽しく談笑しながらハンバーガーを食べている人たちの風景が、近いうちに地獄絵図に変わるのだと想像したら鳥肌が立った。

思えば今日はずっと現実離れした話のオンパレードだ。早く帰宅して頭をクールダウンほうが良いだろう。そう思った僕はファーストフードショップをあとにした。

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