サッカーで男子校に進学した俺を待っていたのは男装女子だった件について。

星野星野@2作品書籍化作業中!

第1話


 それなりに有名な男子校『聖心学園せいしんがくえん』。

 学力、スポーツの界隈で高校年代ながら名を馳せる猛者達が集う私立高校で、都会とは縁の無い富山の中でも田舎にあるにも関わらず、倍率は常に毎年数十倍以上。


 さて、そんな男子校を紹介したのも、この俺自身がそこに入ることになったからである。

 しかし、そんな俺に今、重大な危機が迫っていた。


 ——サッカー部寮の管理室にて


「あー、もう部屋空いてないねぇ」

「は?」


 サッカー部専用学生寮、『聖心館』の門を叩いた俺の前に現れた恰幅の良い管理人さんが、頭を掻きながらそう言った。


「こっちの手違いでさ、最後に入寮する君だけ、部屋がないってこと」

「あの、お言葉ですが、俺一応推薦で」

「そりゃ他の新入生も推薦だし、他の子はこっちの方からオファーしてるから、君より優先度高いねぇ」


 聖心学園サッカー部新入生、公募推薦枠で入学を果たした俺の名前は光城高人みつしろたかと

 毎年、この学園の公募枠は1枠、そこに唯一滑り込んだ俺は、少し天狗になっていたのだが……聖心学園からしたら"たかが"公募枠なのか?

 聖心の方からオファーしていた選手の方が優先度は必然的に上であるのは薄々感じていたが……まさか、寮の部屋さえ貰えないなんてことになるとは。


「俺、出身がこっちじゃないんで寮がないと当面は野宿するしかないんですが」

「そうだねぇ……」


 リュックに大型のショルダーバッグ、さらにはスーツケースの大荷物を抱えた俺を一度見て、管理人さんは携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。


「うん。そうだねぇ。やっぱ最後の手しか」


 最後の手?


「うーん。公募とはいえ、こっちの手違いだから話は通したよー」

「あ、なんだ住むところはあるのかぁ。びっくりしたじゃないですかー」

「ま、上手くやることだね。これにその寮の場所をメモしたから」


 管理人さんのメモを受け取り、数キロ先(大荷物抱えてるのにこの距離でも車とか出してくれない。扱いが酷すぎるだろ)にある周りが林に囲まれた『白百合館』という表札がかけてある館にやってきたに。

 俺は大荷物を抱えながら坂道を上がり、やっとその場所へとたどり着いた。


「こ、ここが……」


 想像していた学生寮とは全く違う。まるで金持ちの別荘なんじゃ無いかってくらい高級感の漂う建物がそこにはあった。

 寮の門前には、黒髪ロングヘアで、メイド服姿のメガネをかけた女性が静かに一方向を見つめて佇んでいた。

 なんかこれこそメイドって感じの人だな。

 こっちの存在に気づくやいなや、小走りでこちらへと駆け寄ってきたに。


「お待ちしておりました。わたくし、白百合館の管理人をしております。柚子原ゆのと申します」

「ご、ご丁寧にどうも」

「お話は聖心館の者から伺っております。光城高人さんですね。お荷物をこちらに」

「は、はい」


 柚子原さんは俺の荷物を手に取ると、軽々と両手で持ちながら、中へと案内してくれた。

 2階に上がり、階段から見て1番奥の部屋のドアを柚子原さんは開ける。


「こちらが、光城さんのお部屋です」

「へー」


 分かってたよ。うん。分かってたんだけどさ。

 白百合館はやけに広い、それに高級感もある。

 さらに柚子原さんのこの対応が、あの方言ごちゃ混ぜオヤジと違って、やけに下からだったし、2階の部屋は絶対20畳以上の部屋がいくつかあったから期待したんだけどさ……。


 俺の部屋……。


 物置くらいの部屋なのだが!?

 6畳くらいなのだが!?(贅沢な悩み)


「あのぉ……隣の広い部屋が空いてましたけどぉ」

「公募さんにはこの部屋を、と聖心館の管理人さんから言われましたので」


 あの無能管理人……ふざけるな。


「それでは、ごゆっくり」

「え、ちょ、待ってください!」

「はい? まだ何か?」

「他に、住んでる人居ますよね? ここ寮なんだし」

「……この寮は今年新設された寮です。今年は久方ぶりに御令じょ……いや、大企業の御令息が数名、この学園に入られるということで、学園が保有していたこの雑木林にて、特別に立てることになりました」


 金持ちのために建てられたってことか。

 なんか裏で汚い金が動いているようにしか思えないのだが……って、ちょっと待てよ。


「今年入る金持ちのために、わざわざ作られたんですよね。俺みたいなのが入ってもいいんすか?」

「まぁ、聖心学園たるものが、一人の生徒に野宿させたとあれば問題ですし、初歩的なミスがあったことが世間に知れ渡ると大変なことになります。しかしながらもう既に他の寮も満員で、新設のこの寮は唯一空き部屋もあったので……ま、学園長からの命令ですし? 致し方ないといったところですね……チッ」


 なんか最後に舌打ち聞こえましたけど。

 問題揉み消すために、この学園の裏組織とかに殺されたりしないよな……俺。


「しかしながら、他の方々とあなたとでは身分も、存在価値も、地位も、違いますのであまり関わらないでください」


 話せば話すほど俺の地位を下げてくるのは、あなた方なのですが……。

 柚子原さんは有無を言わせない鋭い目つきとイラついた顔つきで、こちらを牽制してくる。

 もー、嫌だ。


「では、ごゆっくり」


 狭い部屋中に響き渡るくらい、強くドアが閉まり、俺は部屋で一人になった。


「はぁ……。なんか、初日からメンタルがイかれそうだ」


 とりあえず、スーツケースやショルダーバッグから衣類などの荷物を取り出し、ベッドの上に広げると、タンスやクローゼットに収納していく。

 そもそもサッカーやるためにここに来たわけで、必要最低限のものしか持ってきていない。

 でも、俺の地位がここまで低いとなると……先が思いやられる。


 俺がため息をついて感傷に浸っていると、急に外が騒がしくなり出した。

 何事かと思い、手に持っていたものを一旦机に置いて、小窓から白百合館の入り口の方を見る。


「り、リムジンだ。それになんだあの、まるで任侠みたいな人たち」


 ヤッさんのような人たちに囲まれて、リムジンから出てきたにのはショートヘアの美男子。

 凛々しい佇まいと、抜群のスタイル。

 下にスカートでも履いていたら女子と見間違えるくらい、色っぽくて、顔が良い。


「美形男子ってやつか」


 俺がじっと見つめていると、彼は白百合館を見上げ、ゆっくりと見渡す。

 その時、こちらへ向けられた視線により、不意に目が合う。


「やべっ」


 すると、彼はこちらを見て優しく微笑んだ。

 い、イケメンだなぁ。これで大企業の御曹司とは……。くそっ、八百屋育ちの俺と比べたら天と地ほどの差がある。


 「あ、そういえば母さんが沢庵を持たせてくれたんだ。後で食べよう」


 ✳︎✳︎


 とりあえず持ってきたにものを部屋に収納し、荷解きもだいたい終わった。


 ところであの青年は、どこの部屋なのだろう。


 見たところ、寮生が住む部屋はこの2階で、間取りとしては、まず目立つのがだだっ広い3つの部屋。

 おそらくだが、この3つの部屋が御曹司達が住む部屋なのだろう。

 そして、残りは3部屋。全部俺の部屋と同じくらいの広さで、一部屋は見たところ物置で、もう一部屋は広々としたベランダへと繋がる共用スペースのようなものだった。

 そして俺の部屋は、その部屋たちの中でも階段から見て一番隅っこにあり、まるで、余りのスペースをノリで部屋にしてみましたー、みたいな部屋。

 使用人にでも住ませるつもりだったのだろうか。


 とにかく、俺は俺のことをやらないと。


 部活が始まれば、聖心サッカー部の一員になるんだ。とりあえずこの近くをランニングでもしてこよう。


 そう思い立ち、ジャージに着替えて部屋を出ると、部屋の入り口の横に先程の彼がいた。

 間近で見ると、めっちゃ整った顔つきだ。

 きっと色んな女子を落としてきたにんだろうなぁ。

 彼は壁に背中を預けながらスマホをいじっていたが、俺の存在に気づくと、こちらを見つめてくる。


「君がわた……ボクの使用人?」

「は?」

「ちょっとした入れ物みたいなものないかな? 用意するのを忘れちゃって」

「あの、俺は使用人とかじゃなくて」

「き、聞くなって! ほら、トイレに置くのだから……はやくくれよ」


 彼はまったく聞く耳を持たない。

 参ったな。


「入れもの、ですか?」

「できれば透明じゃない方がいい、あまり見たくない。あと、ちょうどいい感じで底があるのがいいな」

「注文が多いな。そんなの自分で買ってくれば」

「使用人のくせにうるさいな! ないならさっさと買ってこい!」

「え……だから俺は」


 説明しようとすると、急に胸ぐらを掴まれ、壁に押し付けられる。


「親の言うことは絶対だろ。君はどういう教育をされてきたにんだ?」

「親って……なんのことか」

「さっさと行け!」


 ゴミを放り投げるように思いっきり振り回して胸ぐらから手を離す。

 無碍に扱われ、俺は渋々寮を出た。

 ったく何なんだよ、いくら御曹司とはいえ偉そうなやつ。

 せっかく仲良くなれそうだと思ったのに。


 ま、ランニングのついでだし、行ってやるか。

 と、思ったが。


「この近くに100均無くね」


 もしこの林の近くに100均があるなら、誰か教えてください。

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