Precious〜異能を隠して生きるのはもうやめます〜

ヘルニア

第1部 第1話

「いーらっしゃいませー!」

少しずつ慣れてきたレジ打ちのバイトに励む。そんな俺はA市内の超土(ちょうど)学園に通う高校一年生である。

「いらーっしゃいませー!」

時は4月、通い始めたばかりなのでまだ友人はいない。だが周りの同級生たちはすぐに仲良くなっていた。通い始めたばかり、とは言ったものの、正直出遅れたわけだ。

「いらっしゃーいませー!」

バイトも始めたてだが、早くも少しずつ居心地の悪さを感じている。俺は昔からそうだ。人付き合いが苦手な方で、小中学校の旅行などの際のグループ割ではいつも最後まで決まらず、人数が比較的少ない班に自動的に割り振られる。

「いらっしゃいーませー!」

そんな俺は対人スキルにおいて劣等感を抱いていた。どうしてそんなにすぐに打ち解けるんだ?まず会話の糸口を掴むことができない。それに反してあいつは凄いよな。あんなに大声の挨拶を何の躊躇いもなしにできるなんて。

「いいぃぃらっしゃいませええぇぇ!」

それに加え、コミュニケーション能力も高く、同期とは思えないほど周囲と馴染んでいる。


俺はバイトの帰りの支度をしている同期の彼、ガタイの良い筋肉質な星梅半譲(しょうばいはんじょう)に、思い切って対人時のコツを聞いてみた。

「な、なあ星梅半譲!どうやったらお前みたいにすぐに周りと打ち解けるようになるんだ?」

俺のその言葉に彼は眉をひそめる。

「ん?俺はただ自然体でいるだけで人が寄ってくるんだ、気にしたことはないな。それよりお前、挨拶が小さかったぞ。もう少し声量を上げてだな、、、」

「あ、ああ、済まない、、、」

「ふむ、お前、NSだな。ずっと1人で学園内にいたよな」

「!何故それを、、、」

「実は俺もお前と同じ超土学園に通っているんだ、お前と同級生だな。てっきりNは友人を作らず1人でいるのが趣味かと思っていたんだが、そうかそうか」

「?星梅?」

一転、眉毛の太い彼はその眉を八の字にする。

「改めて、俺の名前は星梅半譲。苗字が星梅半、名前が譲だ。よろしくな!」

「お、俺はNS。こっちこそよろしく、、、」

「はっはっは!これで名実ともに俺とお前は友達だな!」

「、、、え?」

なんやかんやで俺とジョーの友人関係は構築されるのだった。


その日はジョーと一緒に帰ることになった。

「友人になった者たちには欠かさず伝えているのだが、俺には能力があってな。俺の声を聞いた他人をある程度自分の意思で動かすことが出来るんだ。まあ効果は薄いが、客を呼び寄せることくらいは容易いな」

「へ、へえ、凄いな、ジョーは、、、」

「だろう?もしかしたらSにも何か能力があるかもな!」

、、、どうしよう、自らの能力を何の抵抗もなく教えてくれた彼には伝えておくべきか。実は俺にも能力があることを、、、


その夜、俺はベッドでずっと悩んでいた、、、俺にはとある能力がある。それは、磁力を操作するものだ。だがそれは微力で、せいぜい自販機を1、2台ぶっ壊す程度である。正直、この程度ならジョーにも教えてよかったかも知れない。だが、俺はこの異能を、俺を幼い頃に引き取ってくれた今の家族にすら明かしていない。彼らは良い人だ、だから俺の能力を知って何か厄介ごとに巻き込まれて欲しくない。ジョーも同じだ、俺の力は悪用しようと思えばいくらでも応用が効いてしまう。だが、ジョーは自分のことを明かしてくれた。なら、その信頼に応えるべきなのかも知れない。ずっとそんなことを考え、堂々巡りしながら一夜を明かすのだった。

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