第117話 告白
私は英雄になりたかった。
英雄になって、ポルネシア王国全ての人達を認められたかった。帝国の脅威を退け、ポルネシア王国に繁栄と安寧をもたらしたかった。
自分にはそれが出来る。きっと出来る。幼い僕はそんな希望を本気で信じていた。自分は何でも出来ると。
「お父様! 納得出来ないわ!」
そう言って私はお父様に詰め寄った。自分の婚約者が「神の
変わり者と噂の同年代の少年。莫大なMPを上げるスキルを持ちながら、一つの魔法才能も得られなかった者。
例えば火魔法の才能を持つものが、魔法強化系のスキルを持って生まれる時、非常に高い確率で火魔法の強化スキルになる。
生まれ持った才能は尊く、神に与えられたもの。
逆に生まれながらに使い道のない能力を授けられた者……それはつまり神に見放された者。
それ故に、彼らは「神の
「そう言うな。アリアン。魔法やスキルの才能は残念だったが、代わりにその知能はオリオン家始まって以来の秀才だそうだ。そうでなければ子どもとはいえ、オリオン公がレインを次期当主に決めたりせん」
たしかにレインについて聞こえてくる噂は信じられない者だった。
曰く、言葉を話すより先に本を読んだ。
曰く、歯が生えると同時に喋り出した。
曰く、どの本にも載っていないはずの未知の知識で領地の改革を行った。
どうせ嘘に決まってる。私との婚約を破棄したくなくて、公爵が嘘を流したのだわ。
「あり得ませんわそんなの! 婚約破棄してください!」
「ならん! レインとお前の婚約はお前が生まれる前から決まっていたのだ。王族が約束を違えることはならんのだ」
「むー!」
むくれた私は一ついいことを考えた。近々貴族の集まりで王都にやってくるレインを試してみようと。
そこでたまに使う抜け道を使い、人攫い役を雇い、レインを試してみた。
だけど二回目に試してみた時、私は雇った人攫い、いや盗賊に騙され、本当に捕まってしまった。
その時初めて、自分の無力さを知った。自分はなんでもできるわけではない。周りより少し出来るだけの凡人であったのだと。
けれど、そんな私を彼は助けにきてくれた。
巨大なファイアーボールを前に勇敢に立ち塞がった姿は今でも忘れない。
そこで私は彼を少し意識するようになった。同年代の子ども達と比べても明らかに優秀で異質な彼に興味が湧いた。
別に好きになったわけではない。だけど、以前のように噂だけで人を判断するのはやめようと思っただけ。
それから度々彼とは会うけれど、その度に風格が増していった。
魔力全吸収によって魔力は漏れていないはずなのに、会う度に高まる圧。大きくなっていく背中。
その理由を知ったのは彼と出会ってから4年後。
私がガルレアン帝国の秘密部隊に拐われ時。
盗賊まがいの集団とは違い、国によって鍛えられた彼等は、底知れぬ冷たさと目的のためなら死も厭わないと思えるほどの狂気に満ちていた。
震える私の元に現れたのは半年ぶりに会った一回りも二回りも大きくなったレインだった。
たった一人で現れたレインは、魔力全吸収を持ち、普段一切明かさなかったその力を、一気に解放した。
無詠唱による超高速の多重魔法と、自身の魔力を空中に分散し即座に魔法に変換させることで空間そのものを意のままに操る究極の魔法技術。
その衝撃はあまりに強く、あまりにも鮮明に私の心に刻まれた。
これが天才、これが英雄と呼ばれる者なのだ。
その光はあまりに眩しくて……その日から、私の夢はこの人のお嫁さんになることだった。
ーー。
「レイン、貴方はやっぱり“英雄”ね」
そう言うアリアに俺は困った顔をする。
「困ったお姫様ですね。アリアは」
「ふふふ」
可愛らしく、それでいて上品に笑うアリアに俺も微笑を浮かべる。
「では、レイン、アリア、良いな?」
「「はい、陛下」」
陛下に促され、俺はアリアに膝をつく。それを確認した陛下は声を張り上げ民衆に聞かせるように叫ぶ。
「ではこれより救国の英雄レイン・グランデュク・ド・オリオンの願いを叶え、我が娘、アリアンロッド・アンプルール・ポルネシアへの誓いの儀を執り行う!」
次の瞬間、民衆から爆発したかのような歓声と女性陣の甲高い声が王都中から響いてくる。
若き英雄と救国の姫との誓い。
まさに物語の中の話を現実で観れるとは思わなかったのだろう。
今や俺達は王都中の人達に注目されている。
そんな全国民大注目の中心で、俺はアリアへの誓いの言葉を述べる。
「アリア姫。私との馴れ初めを覚えていらっしゃるでしょうか?」
アリアは潤んだ瞳で何も答えないが、俺は微笑みながら話を続ける。
「貴女は昔からお転婆で、周りの方に迷惑ばかりかけてました。でも、どんな時でも笑顔で、周りを照らす輝きを放っておりました。私が落ち込んでいた時、自信をなくし前に進めなくなった時……そんな貴女を見て、私がどれだけ勇気付けられたことか」
迷いの森で仲良く話し笑い合った部下を何人も死なせてしまった。自分の指示の失敗で数十人以上の人間の命があっさり消えた。
見えていた魔物を軽視して、不意を突かれて身近な誰かを亡くした。
そんな場所に身を置く覚悟が、迷いの森を攻略した当時の自分には出来ていなかった。
自分の不甲斐なさ、無能さに呆れ果て、悩み、鬱状態となり動けなくなっていた俺の背を押したのはアリアやプリムといった身近な女性だった。
「アリア……私は公爵家の長男ではなく、一人の男として、貴女のことを愛しております。私と結婚してください」
「レイン様!」
そう言って飛び込んできたアリアを優しく受け止める。
「私も貴方を愛してます!」
そして口付けをする。
民衆からは城が揺れるほどの歓声と祝福の言葉が飛び交う。
「我が前にて、確かに二人の誓いは結ばれた! 二人の愛を未来永劫祖霊達が見守るであろう!」
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