第111話 最後の日
ポルネシア西部軍にてーー。
「来たか」
ポルネシア西部軍の本陣、その中央で堅く守られている天幕にて西部大将軍、ロンドは呟く。
時同じくして元リュミオン軍からの連絡が来たのだ。
その知らせを聞いたロンドは即座に軍略会議を開き、そこにいた全ての者達に伝える。
「皆の者、時は来た! 北より援軍の報せだ! 防御陣を解き、全軍攻撃陣形に切り替える!」
「「「「はっ!!!」」」」
「オリオンの本領は攻撃にこそ現れる! 蹂躙するぞ!」
「「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」
ロンドの言葉にその場に集まった貴族達が一斉に敬礼し解散した。
そんな中、一人の真っ白な獣人の少女だけが天幕に残っていた。
「アイナ。情報工作の方はどうなった?」
「はっ。予定通り」
「ほぉ。そうか」
ロンドはその言葉にニヤリと笑う。
「それと、レインとスクナが抜けているが問題ないな?」
「スクナの穴は元リュミオン軍魔導団長のセイロが務めます」
「ぬかりないであろうな?」
「彼もレベル7の火魔法使いです。例の魔法の使用には何ら問題ないかと」
「よかろう。では、お前も配置につけ」
「はっ」
そう言うとロンドは一つ瞬きをする。次に瞼を開いた時には、すでにアイナは消えていた。
(私のレベルで影すら追えんとはな。全く、常識が覆される)
そう呆れたものの、一呼吸空けた時にはもう西部大将軍の顔つきになり、天幕を抜ける。
見渡す限りのポルネシア兵が鶴翼陣形を敷きながらロンドの号令を待っている。
対する帝国軍の陣形は騎兵を前面に出した横陣。
だが、長年帝国軍と戦をし、彼らを研究してきたオリオン家の当主、ロンドにはその陣形が歪であることがすぐにわかる。
陣形の所々に穴があり、攻めやすい箇所が多々あり、それらの弱点を他の部隊がカバー出来るような陣形になっていない。
あの陣形ではオリオンが率いるポルネシア軍の突撃には勝てない。
しかし帝国軍の将軍も歴戦の将。そんな単純な失敗はしない。
ならば他に狙いがあると言うことだ。
「フンッ」
そう一つ鼻を鳴らすと、ロンドは自分の定位置に移動した。
そして、両軍の陣形が整い、戦が始まろうとした時だった。
「伝令! 物見から報告! 帝国軍六魔将が動いたとの報告が入りました!」
慌てた様子で一人の男がロンドの元に物見からの報告をしてきた。
「ほう、六魔将が動いたか」
しかし、ロンドは慌てることなくその報告を聞く。
「大将軍!」
「分かっておる」
周りの参謀や貴族達がロンドに進言しようと声をかけるが、それを制し「十万軍」にて指示を出す。
鶴翼陣から一転、ポルネシア軍は各千人将毎に距離を空け大きく広げる対英雄級魔法陣形になる。
距離を空ける事で犠牲を最小限に抑える陣形であり、現代の地球及びこの世界でもオリオン家以外では使われることのない陣形である。
何故なら、部隊を細かく分けては大軍の突撃には耐えられず、情報や指揮系統の混乱から各個撃破されかねないからだ。
しかし、ポルネシアにはオリオンの「十万軍」がある。大陸最強と言われる指揮スキルによりどの軍隊よりも柔軟な対応が可能なのだ。
故に、このような通常であれば下策となる様な陣形も上策となる。
両軍共に陣形を組み終わりいざ戦争が始まろうとした瞬間、自陣の物見から報告が入る。
「帝国軍六魔将土のバスター、火のキャンティスが詠唱開始確認!」
「ロンド大将軍! 使用MP、おおよそ30000! こ、これは……」
魔力眼を持つ貴族の側近が信じられないものを見たと言う表情で報告してくる。
スキルレベル4・魔力眼とは、味方や敵が使ったMPがオーラのようなもので測る事ができるスキルだ。
「分かった」
そう言うとロンドは「十万軍」を使い、自陣の一部に指示を出す。
すると、ポルネシア軍前面に配置された戦車隊が左右に分かれる。そして、ポルネシア軍の魔法部隊が魔法詠唱を開始する。
数秒後、魔力詠唱の終えたポルネシア魔法部隊が魔法を放つ。
一瞬にしてポルネシア全軍の姿が霧によって覆われ、帝国軍から見えなくなってしまった。
レベル1水魔法「
水魔法の才能がある者なら例外を除いて誰でも唱えられる簡単な補助魔法。軍略においても重宝する事が多い魔法なので、ポルネシア王国の水魔法が使える者は覚えることを必修としている。
レベル1の魔法なので詠唱も一瞬だ。
ポルネシア軍全体が霧で覆われたことを確認したロンドは、ポルネシア軍最大戦力の六人に指示を出す。
この日、この時のために温存し続けたのだから。
静かな静寂。だが、魔力眼を持たないロンドですら感じる膨大な魔力の本流が両軍から漏れ出ている。
そんな時だった。ポルネシア軍全体を覆っていた霧が一瞬にして晴れてしまった。
レベル1風魔法「
ロンドが指示したものではないし、ポルネシア軍の誰かが暴走して勝手やった事でもない。
ならば答えは一つ。
ロンドが前を向いた瞬間、空が真っ赤に燃えた。
そのあまりの輝きに目を腕で隠しながら上を見上げたポルネシア・リュミオン連合軍の目に移った物。
それは真っ赤な太陽なような光り輝く球体であった。
そして……絶望が空から降ってきた。
一戸建ての一軒家にも相当するほどの巨大な塊が、無数の隕石となりポルネシア・リュミオン連合軍へと落下を開始する。
あまりの光景に一瞬硬直していたポルネシア・リュミオン連合軍は、次の瞬間には半狂乱となる。
ある者は絶望から少しでも距離を取ろうと持ち場から離れる。
ある者は絶望に生きることを諦め、武器を落とす。
ある者は自分には落ちないようにと神に祈る。
そして、ロンドの側近達は顔面蒼白にしてロンドに逃げるように叫ぶ。
そんな中、ただ一人、ロンドだけは歯を剥き出しにして嗤い吐き捨てるように叫ぶ。
「愚か者どもが!」
と。
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