第18話 魔法

魔法書を見ることが許された。


(それにしても随分あっさりだったな

何でだ?)


考えてもしかなたさそうなのでとりあえず置いておく。


「では、スクナと一緒に書斎に行きますね」


「いえ、待ちなさい。

今日はいろいろ回って、もう疲れてるでしょうから寝なさい」


「はいわかりました」


(本当はまだなんとかなるが・・・)


逆らっても絶対にいいことがないので、おとなしく聞いておく。


(心変わりでもされると困るからな)


そう言ってベッドに入る。


「スクナは私とともに来なさい」


「えっ!お、お母様!」


「レイン、いくら貴方がこの子の所有者だったとしてもこれだけは譲れないわ。

私はこの子を買った場に居合わせなかったのですから。

わかってちょうだい」


「は、はい・・・わかりました。

スクナ、お母様の言うことをよく聞くように」


「は、はい!わかりました!!」


と、意気込んでいた。

(なぜ、ここで意気込む?

ああ、心配だ。お母様が何かスクナに吹き込まないか・・・)


議論しても仕方ないから取り敢えず目を閉じそのまま眠りにつく。



〜ソフィアの執務室にて〜


夫のところに帰りの挨拶をした後部屋に戻る。


ガチャ


「フウゥ〜〜・・・」


とため息をつきながら部屋に入るなり椅子に腰掛ける。


(まさかあの子がこんな手を仕掛けてくるなんて・・・

油断したわ)

と思って、チラッと所在無さげに立っているスクナをみる。


「スクナさんね、貴女もここに座りなさい」


「は、はい!失礼します」


ソフィアはその様子を一寸の漏れなく確認する。


「では、自己紹介が遅れましたね私の名前はソフィア・デュク・ド・オリオンと申します。

このオリオン公爵家の第1夫人をしておりますわ。

以後お見知り置きを」


と挨拶をするが当のスクナは口を半開きにして、固まったままだ。


「スクナさん、大丈夫?」


と声をかけると突然、小さく酸欠で酸素を求めるような「クハッ」という音がしたあと、信じられない速度でスクナが床に五体投地しだした。


「も、も、ももうしわけございません、奥様!そ、そ、それほど偉い方だったとは思いもよらなかったもので。ど、どうかご無礼をゆるしてください!!」


と、すると今度はソフィアが驚いた様子で、


「い、いいのよ別に。私はそれ程気にしない方ですから。いいわ、可愛いお顔が汚れてしまうわ。顔をあげてください」


「は、はい!!」


と言ってガバッと顔を上げる。


「どうぞ床に座ってないで椅子にお座りください」


「い、い、いいえ、このままで結構です!」


「いえ、私は今から貴女と話し、そしてお願いするの。

お願いする相手を床に座らせたままにするわけにはいかないの。

いいから椅子にお座りなさい」


と、少し強めに言う。


「は、はい。

ありがとうございます」


といい、椅子に座る。


「では、もう一度貴女の口から名前と年齢と出身と家族構成、それと悪いのだけど奴隷になった経緯をおしえてもらえるかしら」


「は、はい!名前はスクナと言います。

今年で6歳になります。

出身はベリリアン公爵様領のマーネ村出身です。

父と母、それとい、妹が2人います。

ど、奴隷になったのは、2年続いて不作だったため食べていくものがなかったので、き、金貨4枚と銀貨8枚で売られてきました」


(金額までは聞いていないのだけれど・・・)


すらすらと淀みなく(噛みはしたが)答えたため多分しろだと思う。


確認を取れば事実か嘘かすぐに分かることだ。

それに彼女が家から連れてきたいつも連れている侍女は鑑定持ちだ。

嘘をついているなら何らかのアクションを起こしていただろうがそれがないということはほぼ事実なのだろう。

理由の方もよくある話だ。

これも調べればすぐわかる。


「いいわ、わかりました。

信用します。

それと、あなたにお願いがあるのです。

この城に住み、あの子の近くにいる以上いずれわかることですから言いますが、あの子には魔法才能が一つもありません。

ですが・・・ですがあの子はどうも魔法に憧れがありそうなのです。

あの子にはまだ魔法才能が一つもないことは伝えていません。


もしもあの子が魔法を唱えようとしたらそれとなく止めて欲しいのです。

どうかお願いできないでしょうか?」


そう言い頭を下げた。


「お、奥様!!頭をお上げください!

私の様に卑しいものに頭を下げるなど!!」


「では、私のお願いを聞いてくださいますか?」


「は、は、はい!!はい!絶対におとめします!おとめしますから!お任せください!」


「そう、ありがとう。

では、長い付き合いになりますが、これからよろしくお願いします」


「こ、こちらこそよ、よろしくお願いします!!」


そう締めくくり、レイン御付きの侍女と一緒にスクナを退出させる。


すると、早速お付きの侍女から話しかけられる。


「奥様、いくらなんでも奴隷に頭を下げるなどやりすぎではないでしょうか」


事前に下げるかもしれないと言われてあったためあの場では何も言わなかった。


「私は子供のために頭を下げられない親になりたくはないのよ」


「は、はあ〜・・・し、しかしですね」


「あの娘はレインが初めて自分で選んで側におくことを決めた人間よ、あの子の今後の行動はレインの人生に大きく左右するわ。

そして、レインに何かあった時必ずあの子は側にいるわ。


その時私たちはきっとあの子の側にはいないわ。

だってあの子は私達を信用してはいないでしょうから・・・」


次の日ーー。


朝目が覚め、起きてからする事をやり(やらされ)、そしてメイドとスクナを伴い書斎に行った。


(待ちにも待った魔法書の解禁日だ!

いや〜、ここまで長かったぜ!!

1しか上がらない経験値でレベルアップを繰り返す日々は今日でたぶん終わりだ)


他の魔法でも1しか上がらない可能性もあるためたぶんを入れる。


そして、意気揚々と書斎まで行き、例の魔法書を手に取る。


一応建前があるため、スクナに見せながら説明する。


「スクナ、これが魔法書と言いまして、魔法レベル1から3までの全ての魔法が載っている魔法書なのです」


「はい!」


「うん、いい返事ですね。スクナにはこの魔法書の火魔法の部分を覚えてもらいたいのですがその前に文字は読めますか?」


「い、いえ読めません・・・」


と答えシュンとしだした。


(まあ、だろうな)


識字率の低いこの世界で、奴隷になる子が文字を読めるわけがなかった。

ただ、奴隷商のところで習っていた可能性にかけたのだ。


(よく考えればまだ来て日が浅いみたいな事言ってたな・・・)


「いえ、別に構いませんよ

では、僕は文字が読めますので、魔法の詠唱を一つお教えします、 一緒に唱えましょう。

それから少しずつ文字を覚えましょう」


「ああ、あ、あ、あの!あの!ま、まずは最初に文字を覚えるべきではないでしょうか?


「?

何故でしょうか?」


「あの、ですから、私は一つの事を集中してやった方が覚えがいいですから!!」


と、すごい息巻いて言っていた。


「は、はあ〜・・・そうですか?そういうものですか。でしたらこの御付きのメイド、じゃなくて侍女に教えてもらってください」


危うくメイドと呼びそうになった。


「はい!!」


(・・・そういうものなのか?人付き合いが高校からほとんどなかったからわからんな)


わからないときは、そういう人もいる、で済ませているため今回もそう考える事にする。


(さて、俺の方は魔法書で勉強するか)


と、魔法書を開く。


(取り敢えずレベル3までの魔法は一通り暗記したいよな、だがどんな魔法が使えるかは秘密にしたいよな・・・

夜中にこっそり唱えよう)


俺は彼らを尊敬してる。すごい人たちだと思う。

だが信用も信頼もしていない。


彼らの行動が俺にはよく分からない。

分かったとしてもたぶんやっぱり俺は彼らを信頼する事はないと思う。

俺の心の傷はそんな生易しいものじゃない。


俺の立ち位置が未だ不明瞭なので、隙を見せるわけにはいかないのだ。


故に奴隷だ。

外に出て、冒険者をやる時、即戦力がほしいのだ。

俺は攻撃魔法が使えない。

剣や槍での戦闘は遠慮させて頂きたい。

俺の運動神経は良い方だと思う。

だが所詮、だと思うレベルなのだ。

剣でガキンガキンなんて打ち合えるわけがない。


だから弓をやろうと思っている。

遠くから攻撃もできる手段だ。


杖ではない理由だが、杖とは基本的に魔法の威力や範囲の増加の為のものだ。


例えば、町で売られていた一番良い杖は、魔法に込められているMPを1.2倍にする。

簡単に言うと、この杖を使えばMP100を使ってMP120分の威力になるのだ。


だが俺にはいらない。

大量の魔力量で、暴力的なまでの支援が行える。

別に何倍とかにするまでもないのだ。

ならば弓だ。


しばらく魔法を使っていて分かったのだが、俺に魔法をかける時ほんの一瞬だけ魔法が掛かるのだ。

およそ0.2、3秒位の短い間だ。

だがそこで、矢を放つ瞬間に魔法を俺にかければ命中精度が良くなるという寸法だ。


この世界の支援魔法はステータスをあげるだけではなく、ステータス外の剣の上手さや弓での精密射撃を補助するのもある。


それを覚えれば素人の俺でも敵に当てられるようになると思う。


だから俺は、弓兼支援魔法職を目指す。


彼女には頑張って貰いたい。

本で読んだのだが、ダンジョンにもよるが冒険者のパーティは最大10人までらしい。

人が増えると争い事も増える為これが限界と書いてあった。


俺としては、俺も含めて6人でダンジョンに行こうと思っている。

俺が行こうとしているダンジョンは1パーティあたりの上限が6人までらしい。

帰還し、そこからやり直す事ができる魔法陣というのがあり、それで移動できる最大数が6なのだそうだ。

勿論俺以外全員奴隷だ。

後は前衛3人位と後衛一人といったところだろう。

俺は奴隷を買うことへの忌避感はある。

確かにあるが無理やり無視している。


何故なら、"この世界"で頑張って納得した人生を送ると決めているからだ。


俺は対人恐怖症だ。私はこれだけ役に立ちますよ〜、だなんて売り込みは絶対出来ない。

そもそも何の縛りもない第3者なんて絶対信用しない。

いざという時俺を置いて逃げるのではないかと疑ってしまう。


それではダメだという事は俺ですら分かる。

最低限度の信頼が必要になる。

ならば奴隷が一番だ。


そして過信しているわけではないが俺がいればかなり安全な探索ができるだろう。


俺は奴隷をこき使うつもりは全くない。

彼らがどうしても嫌だと言うなら無理やり引っ張り出すつもりはないのだ。(というか邪魔だ)

奴隷が生きている限りまともな生活をおくらせると決めている。


奴隷がもしダンジョンで死んだら?

その答えはどうしようもない、だ。


彼らの死に報いる方法なんてない。

俺には分からない。


では、1人で町から町へ移動するか?

自慢じゃないがゴブリン5匹に囲まれたらその時点で人生詰むという自信がある。

そんな死に方では納得できない。

前世よりも納得いかない。

だから、彼らを買い育てる必要がある。


この世界での奴隷の立ち位置は”物“だ。


奴隷に酷いことをしても捕まらない。

だが奴隷は主人にやり返そうと、立ち上がる事は滅多にない。

俺が前世でいじめられていたからわかる。

心が折れていくのだ。

やり返そうという気概が無くなっていくのだ。

やり返したその後を考えると足がすくんでしまう。


刺し違えても殺すだなんてそうそうない。


そんな生活よりは断然良い生活をおくらせると心に決めている。


だから俺は彼らへの忌避感を無視できる。


だが生存率を上げる為にも俺がしっかりサポートしなければならない。


魔法書の内容は幾つか暗記した。

とりあえず全魔法属性の呪文一つずつ+幾つかだ。

(これで後は夜中にこっそり魔法を唱えられれば任務完了〜)


というわけで夜に備えて早めに寝る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る