第4話 スーパー従妹未海

 それから俺たちはゲーセンに向かった。

 チキンな俺は学校の近くのゲーセンに行く勇気はないので、一駅離れたゲーセンに羽村妹と行くことにした。


 その道中――。


「悪いな、遠くのゲーセンを指定して」


「いえいえ、私が誘ったんですし、先輩の好きな場所を選んでください。ふふ、先輩、どういうゲームをするんですか?」


 共通の趣味があるおかげか、話は盛り上がった。こんなに気楽に女子と話すなんて初めてだ……。


「うーん、RPGとかアクションが多いかな。結局はどんなジャンルでもやるけど」


「へぇ~~いいですね! 私も同じです! 最近は銃を撃つFPSにハマってます! ネット対戦の!」


 FPSは一人称視点のゲームで、最近だと100人が同じフィールド降りて、最後の1人になるまで戦うゲームが流行っている。


「うふふふ」


 何故か、羽村妹の目が怪しく光る。

 あっ……こいつドSだ。


「私に死体撃ちしてきた相手のゲームIDを覚えて……次に会った時に八つ裂きにする遊びにハマってます。うふふ……」


「…………執念深すぎだろ。気持ちはわかるけど」


 死体撃ちとは倒した相手を死んでいるにも関わらず攻撃する、まあ、煽り行為でマナー違反にあたる。


 俺も何度かやられたことがあるからわかるが……あれはうざい。


「うふふ、冗談ですよ? 日本球界のピッチャーの平均打率よりは……」


「8割ぐらい本気じゃねぇか……普通に恐い」


「あれれ? 先輩私程度にビビってていいんですかぁ……? お姉ちゃんはもっと恐いですよ? いろいろ意味で……本当に……心から」


「羽村が……?」


 あいつ……今日1日で俺の中でだいぶ印象変わったからな……正直どういう人間なのか測り損ねている。


「はい、普段は優等生なんですけど……敵と見定めた相手には容赦しませんから……えっと……」


 ここで今まで笑顔だった羽村妹の表情に気まずさが混じった。どこか遠慮がちに俺の方を見てきて、焦ったように口を開く。


「先輩、お姉ちゃん、好きなことになると夢中になって周りが見えなくなって暴走しますけど……そ、それは誰にもじゃなくて、私以外だと先輩が初めてで……だからその……なんといいますか、あんまり嫌わないで欲しいかなっと……今日も迷惑かけたですよね? お姉ちゃん、プロのヤンデレだから……」


「…………」


 ああ、羽村妹は俺が従姉を毛嫌いすると思っているのか……もしかして、こいつ従姉の誤解を解くために来たのか? それはなんとも……いいやつだな。


 まあ、俺、実際ストーカーされてるし、心配になるのもわかる……ふっ、甘いな。甘すぎる。


「おい、俺にヤンデレは効果はない。どんな理由で好かれてるかは凄まじく意味不明だけど、羽村ほどの美少女なら大歓迎だ……あれ? 俺好かれてるんだよな? そこは未だに謎だけど……」


「…………へっ?」


 俺の言葉が予想外だったのか? 羽村妹は可愛らしく小首をかしげて俺のことをまじまじと見てくる。


「大方、愛想笑いで流されるとか思ってたんだろ? 俺はその辺の顔に甘えたイケメン共とは違う。ヤンデレ美少女にストーカーされるとかただのご褒美」


「…………先輩って」


 羽村妹は( ゜д゜)ポカーンとしている。

 ふっ、俺の人間力の深さに驚いたか……まあ、ただの陰キャボッチなんだけど。


「……すっごく馬鹿ですね。うわぁ……」


「おい、普通に悪口じゃねぇか。傷つくぞ、泣くぞ」


「うふふ……本当に馬鹿」


「羽村妹、それは否定させ――」


 羽村はぷくっと頬を膨らませて俺の口元に人差し指を突き付けてくる。ぷにっととした感触が唇に伝わってきてドキッとする。


「なっ……」


「もう、何ですか、その羽村妹っていう呼び方は……確かに私はお姉ちゃんの妹みたいなものですけど……私のことは未海って呼んでください」


「えっ……名前呼びだと……それは陰キャボッチにはハードルがエベレスト級であり、そもそも陰キャは陰キャなりのプライドを持っていて……」


「ごちゃごちゃうるさいです。ほら、いい子ですから、未海って呼んでください」


「……未海」


「うふふ、よくできました。えらいえらいです」


「…………中学生が生意気な」


「ああ! 先輩! 私は中学生じゃなくて、高校1年生ですよ! 先輩の1つ下です……」


「えっ……? そ、そうなの? とてもそうは見え――」


「せ、ん、ぱ、い? どこ見てるんですかぁ? おっぱいですかぁ? おっぱい見てますよね? 私は他の女子の5倍ぐらいはおっぱいへの視線に敏感ですよ? すみませんね、薄くて。私、そのこと気にしてますので、はっきり言われると……ヤンデレのヤンの部分が本気出しちゃいますよ? うふふふ」


「…………あ、ああ、えっと……あ、そうだ! お前に聞きたいことがあるんだ!」


「話題を変えましたか。賢明な判断です……はぁぁぁぁ、おっぱいが欲しい」


 ……この話題は闇が深そうだ


「それで……何で羽村は俺のことを気にいってるんだ? まったく心当たりないんだけど……というか好かれてるの?」


「あ、ああ……それは……ま、まあ、私が言うことじゃないです! ほ、ほら、先輩! 早く行きますよ! 私、容姿のせいで18時以降はゲーセンの店員や警察から職務質問祭りなんですからっ!!」


「お、おい、ちょっと、待て! 引っ張るなって!」


(それ余計気になるんだけど……!!!)


 そうして俺たちはゲーセン急いだ。

 疑問は尽きないが、未海はころころ表情が変わり、見ていてなんだか元気が貰えているような気がした。

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