第9話 守りたいもの

「も、もう。ロイド様も、ギルマスをからかうのやめて下さい」


 一緒に暮らしていても、手すら握られたことないのだ。まるっきり相手にされていないことは分かっている。それなのに、


「俺は嘘は付かない。結婚しよう。お前、なんかほっとけねぇから。嫌か?」


「え?」


「返事ははいかイエスだろ?」


「い、い、イエス!」


「そっちかよ」


 ふっと笑ってキスするロイドに思わず目を回して倒れるアニーシャ。


「お前、めっちゃ嫌がられてない?」


「失礼な。嬉しすぎて目を回しただけです」


 ヒョイっと抱えられてアニーシャはますますパニックになる。


「と言うわけで今日は休みを貰います。朝までこいつを口説き落とす予定なので」


「え、え、ええー……」


「覚悟しろよ?」


 生き生きとドアを蹴破って出ていく二人を呆然と見送るトム。


「なんだ。あいつもガッツリ惚れてんじゃん」


 幸い数ヵ月に渡った今年のモンスターパレードは心強い助っ人のお陰で事なきを得た。例年にない被害の少なさだ。アニーシャの回復魔法はもちろん、ロイドの強さも鬼気迫るものがあった。勇者の名を持ちながら、魔王の異名を付けられるほどに。


「あいつもようやく、守りたいもんが見付かったのか」


 圧倒的な強さを持ちながら、いつもどこかやる気がなくて、物足りなさを感じていたロイド。満たされない気持ちは果たしてなんだったのか。迷いの無くなった剣はただただ強かった。


「勇者と聖女のハッピーエンドなら、悪くねぇよな」

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