第8話 冒険者としての日常

その後王都では、「伝説の聖女の再来」と言われるほど頼もしい新人冒険者の噂が駆け巡った。だが、伝説の聖女もかくや!と言わんばかりのその美貌に数多の冒険者や貴族、王族まで求婚に訪れたが、ことごとく撃沈したと言う。


 何しろ彼女は、魔王の異名を持つ勇者様に首ったけだったので。


「おいアニーシャ、こいつ手当てしてやってくれ」


「はい!ロイド様」


「あ、こいつ呪われてるから解呪してやって」


「はい!ロイド様!」


 今日もロイドにこき使われながら、文句も言わず嬉しそうに働くアニーシャを、トムは可哀想な子を見る目で見つめている。


「おいロイド、ちったぁアニーシャちゃんを労ってやれよ。アニーシャちゃん、ロイドがいやんなったらいつでも俺の所にきていいんだぜ?」


「ほう。奥さまに殺されたいようですね。ロリコンが。しっかり報告しておきますから」


「馬鹿野郎!俺たちの娘として引き取るって言ってんだよっ!」


「却下です。あんたんところむさ苦しい面した息子が五人もいるでしょうが」


「娘は一人もいねぇからいいんだよっ!可愛い娘が欲しいんだよっ!」


 ロイドとトムの言い合いをにこにこ見守るアニーシャ。


(ロイド様のおそばでお役に立てて幸せ)


「それに、こいつは俺のものなんで。他の奴に渡す気ありませんから」


 しれっと放ったロイドの言葉に呆気に取られるトム。


「は?お前まさか、アニーシャちゃんに良からぬことを……」


「あんたと一緒にしないで下さい」


「人聞きの悪いこと言うなっ!俺はかみさん一筋なんだよっ!」


「はいはい、愛妻家愛妻家。と言う名の恐妻家」


「よし、わかった。今日こそ決着をつけよう。表に出ろやこらぁっ!」


「ほう?この俺に勝てるとでも?」


 なぜか喧嘩に発展しそうな二人を慌てて止める。


「だ、ダメです!喧嘩しないで下さいっ!」


「止めるなアニーシャちゃん!」


「いいぞアニーシャ、そのまま押さえてろ」


 新しい生活は毎日がとても賑やかだ。でも、アニーシャの恋はちっとも進展していない。


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