第17話 魔王の魔力 あるいは おっぱい 4/5
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「さて、それでは妾の魔力――即ち、魔王の魔力について説明しよう。妾の魔力の特徴は、『膨大』『改変』『スキル付与』の三つじゃ。それでは、順に説明していこう」
魔王改めセクシー教師ソフィーは、ノリノリで説明を始めた。
その際、教卓の上に足を組んで座っているのが素晴らしい。
これもマベルの指導の賜物なのだろう。
「まず『膨大』についてじゃが――これについては説明不要じゃろう。膨大な量の魔力であるから、数十人が合同で発動させるような魔法を一人で使うことが出来るようになる」
「【ボファイ】が大火事を起こしそうになったのがそれか」
「そうじゃな。本来は弱い火をつけるものだったのじゃろうが、大量の魔力が注ぎ込まれたことであのような規模のものとなった。お主、自前の魔力はほとんど持っておらんのじゃろう? これまでの感覚で魔法を使うと、大変なことになるから注意することじゃ」
確かに、大変なことになるだろう。
大量の魔力を持っていたとしても、制御が出来ずに暴走させてはマイナスにしかならない。
どこか練習できる場所が必要だ。
その辺りは魔法学院に行ったら考えよう。
「ところでネクよ。この魔力量に関連して、お主に聞きたいことがある。お主、自分の魔力運用効率が極めていいということに気付いておるか? というか、そもそも魔力運用効率というものを知っておるか?」
ソフィーは真剣な顔で聞いてきた。
魔力運用効率――そんな基礎中の基礎を知らない魔法使いはいないだろう。
「魔法を使うときに、いかに体内魔力の消費量を少なく出来るかってことだろ? 魔法を使う場合、一定量の魔力を消費することになる。だけど、それ以上の魔力が使用者の身体からは供出され、使用されなかった魔力が空気中に放出されることになる」
「そうじゃ。使われずに放出される魔力は少ないほうがいい。魔力効率が悪いと、ちょっとした魔法を使うにも多くの体内魔力を失うことになるからのう。して、お主に関してはその魔力効率が非常に高いのじゃ。これは、お主の才能といえよう」
ソフィーは素直に称賛を送った。
だが、それは俺にしてみれば、当然のことだった。魔力をほとんど持たない人間が魔法を使うためには、少しの魔力も無駄には出来ない。魔力が全回復しても、その量は精々第一階梯魔法一回分。出来る限り効率よく魔法を使えるようにする必要があった。失敗したら、無駄に魔力を失うだけだ。
「それでじゃ。お主は今、強大な魔力を手に入れた。つまり、この先、順調に経験を積んでいけば、世界最強の魔術師となることも夢ではない!」
「世界……最強」
「どうじゃ、やる気が出てきたであろう? 微弱な魔力しか持たず、周りに馬鹿にされ続けていたお主が、一転最強の座へと躍り出る! 燃える展開ではないか! さぁ、ネクよ! 最強への座を目指そうではないか!」
最強。
その言葉は、俺の胸を打った。
だから、その返事は勿論――。
「断る!」
「よくぞ決心した! じゃが、最強への道のりは平たんなものではない。まず、魔王の魔力を用いた魔法は制御が難しい。実戦で使えるようになるためにはたゆまぬ努力が必要じゃ。また、妾の魂がお主の体に入ったことで、魔王のスキルをお主は使えるようになった。そちらも使いこなせるようにする必要がある。じゃが、案ずることはない。妾が必ずお主を最強の座まで導いて――って、断るんかい!?」
ソフィーはツッコミと同時に地面をたたく。
すると、重低音が響き渡るとともに、地面が大きく揺れた。
すさまじく長く重いノリツッコミだった。
俺の魂、大丈夫か?
「随分と長いうえに規模の大きなノリ突っ込みだったな」
「いや、冷静になるでない! 最強じゃよ? 男の子なら誰もが憧れるものじゃろう?」
「やる気がわかない」
「何故じゃ!?」
「何故って言われても。そもそも、俺は最強とかいうものに興味はないし。最強になったところで嬉しくはないだろうし。面倒ごとが増えるだけだろうし。お前を倒した勇者だって、今は色々な面倒ごとに巻き込まれているんじゃないか?」
「お主には『志』というものがないのか?」
「そんなものはない!」
「断言しおった!? このダメ人間、迷うことなく断言しおったわ!」
ソフィーはしゃがみ込み、頭を抱えた。
とんでもない人間の体の中に入ってしまったと思っているのだろう。
だが、嫌なら出て行ってもらうだけだ。
「それよりも、説明を続けてくれ。確か『改変』だったか?」
「ああ、そうじゃな。それでは説明してやろう。じゃが、忘れるでないぞ。妾の説明を最後まで聞いたとき、お主は自ずと世界最強を目指すことに――」
「そういうのいいから」
「最後まで言わせろ!」
ソフィーは地団駄を踏む。
スーツ姿の美女には似合わない仕草だった。
「まぁ、よい。『改変』じゃったな。ネクよ、そもそも魔法とは何なのか説明できるか?」
「『この世界に登録された超常現象を魔力を用いて引き起こすこと』だろ?」
「その通りじゃ。故に誰が使おうと【ボファイ】と呪文を唱えれば、火が付く魔法が発動する。じゃが、その魔法は全く同じというわけではない。使用者ごとに、微細な差は現れる」
「ああ、そうだな」
基礎魔法では、ほとんど差が出ることはない。
だが、大規模な魔法では、使用者によって見た目や効果などにある程度のばらつきが出ることがあるのだ。
「それで、魔王の魔力を使って発動させた場合、その差が非常に大きくなるのじゃ。それこそ元の魔法と別物なのではないかと思えるほどに」
「【コンフ】を使ったら、盗賊がエロいことになったのも?」
「『改変』の影響じゃな。あれは感覚を狂わせる魔法じゃ。たまたま性的快楽に関連する感覚が過敏になってしまったのじゃろう」
俺は納得するとともに、思い悩んだ。
これは厄介な性質だ。
下手をすれば「想定外の効果」が「大規模」に起きることになる。
それは魔法の暴走そのもの。
魔法使いにとって、あってはならない事態だ。
だが――。
それよりも、今は気になることがあった。
「ソフィー」
「何じゃ?」
「説明の内容は理解した。だけど、一つだけ腑に落ちないことがある」
「何じゃ?」
「それって『改変』って言うのか? 別物と思えるほどって言ったところで、その魔法の範囲内なんだろ? だったら『改変』っていう表現は――」
「細かいことを気にするでない! どうしてお主はそんなことばかり気にするのじゃ!?」
「細かいところが気になる性分でね。これが俺の悪い癖(笑)」
「なんか、言い方がムカつくのう……」
ソフィーはむずむずとした表情を浮かべていた。
「まぁ、よい。説明を続ける。魔王の魔力の特性――その三つめは『スキル付与』じゃ。魔王の魔力を継承する際、一緒に歴代魔王たちが使用してきたスキルが付与されることになる。すでに、三つのスキルが解除されているはずじゃ。【第一階梯魔法】と【説得力付与】【ディープアナライズ】はお主も使えることが分かった。他のスキルについては未だ使えぬままじゃが、いずれ何らかの切欠で使えるようになるじゃろう」
「それは何よりだ」
癖のある能力だが、かなり有効であることに間違いはない。
特に【説得力付与】は、今後面白おかしく使えるような気がする。
「さてと――」
ソフィーは言葉とともに、足を組み替える。
この仕草、マベルの仕込みによるものなのだろうか。
「ここまで説明して分かった通り、お主は強力な力を手に入れた。それも、他の者がどうあがいても手に入らないほどのものじゃ。故に――そろそろ世界最強に興味が出てきたじゃろう?」
「いいや、全く」
「そうじゃろう、そうじゃろう。お主自身の素質と妾の魔力が合わされば、世界最強は約束されたも同然じゃ。さぁ、いざ覇道を目指さん――って、全く興味ないんかい!?」
ノリ突っ込み、二回目。
お笑い用語でいうところの『天どん』というやつだ。
それをマスターしているとは。
正直、この女が魔王だったというのが疑わしく思えてきた。
「お、おい、ネクよ。お主のやる気のなさはよく分かった。じゃが、そんなお主も、身を守るだけの技術くらいは欲しいじゃろ? さもなくば、この先が学院生活で命を落としかねんからのう」
「まぁ、欲しい、かも?」
「もう少しでいいからやる気を出せ!」
そんなことを言われても、興味がないことにやる気は出せない。
偉大な成果を残してちやほやされたりはしたい。
だが、その為の努力はしたくないのだ。
だって、人間だもの!
「いや、もはや口で言っても仕方がない。超ハードな方法で、無理やり特訓を受けさせてやることにしよう」
ソフィーは凄惨な笑みを浮かべた。
対する俺も、調子に乗った笑い声をあげる。
「愚かな! この空間の中で俺に勝てるとでも思っているのか? ここでは俺がすべてを支配するのだ! 脆弱なる者よ、我が怠慢を畏れるがよい! ふはははははは!」
「そういう魔王っぽいセリフを言うのは妾の役目じゃ! これ以上、妾のアイデンティティーを奪いに来るでない!」
「ならば、力づくで奪い返すがいい!」
俺はそう言って、ハンマーを手に取った。
どんな攻撃が来ようと、このハンマーで叩き潰してやる。
そう思っていたのだが、ソフィーは腕を組みながら動かずにいた。
「その前に、交渉じゃ」
「交渉?」
「お主には、この空間での改変能力を封じたうえで特訓を受けてもらう。特訓内容は単純じゃ。妾が全力でお主を攻撃するから、お主はひたすらそれに立ち向かうのじゃ」
「それ、俺に何のメリットがあるんだよ?」
「そうじゃな。それでは、お主がやる気を出る条件を付けてやろう。一撃でも攻撃を当てることが出来れば、お主の勝ちじゃ。それすら出来ないのであれば、妾の勝ち。妾が勝った場合は、今後お主は妾の要求通りに動くのじゃ」
「俺が勝った場合は?」
「ふむ、そうじゃな。お主が勝った場合は――」
ソフィーは尊大な態度で告げる。
「おっぱいを触らせてやろう」
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