第6話(番外編) 美乳と微乳の間には(R15) 1/2
番外編については、主人公以外を多く出演させるため、三人称で書かせていただきます。
1
ネクが追放される一年前。
フィリス・ウェインが戦争に行くことになってから、数日が経過した頃。
彼女は、父であるセオドア・ウェインと共に、アンダーウッド家を訪ねていた。
表向きは、フィリスが戦争に行くことになったため、その挨拶をしに来たことになっている。
今行われている戦争では、アンダーウッド家は目覚ましい活躍を見せていた。
今でこそ領地にとどまっているが、戦場において、死霊術の使い手――そして、死してなお戦う戦士たちは重宝された。
ゆえに、偉大な先人に対して挨拶に来たのだ。
表向きは、そういうことになっている。
その真の目的については、フィリス自身も知らなかった。
ただ、言われるがまま、挨拶に来ただけだった。
そのため、着ている服もドレスなどではなく、軍服だった。
厚手のものであり、今後これを着て戦地に行くことになる。
だが、そんな服を着ていてもなお、彼女の美貌は失われることはなかった。
むしろ、武骨な服であるからこそ、そこから出ている顔の美しさが際立っている。
そんな彼女の姿を、イヴは同じ貴賓室で見ていた。
見つめていた。
熱い視線を送っていた。
そして、一通りの挨拶が終わってから、イヴはフィリスに声をかけた。
「フィリス・ウェイン様。お久しぶりです」
「イヴちゃん?」
「はい。イヴ・アンダーウッドです。この度は、態々こんな辺境までいらしていただき、ありがとうございます」
「いえ、そんなことはないわ。デレク・アンダーウッドさんは、戦争の英雄よ。会ってもらえただけでも、光栄だわ」
「それは何よりです。ところで、今日は泊っていかれるのだとか」
「ええ、その予定だけど――」
フィリスは表情を曇らせる。
この家には、ネクがいるはずなのだ。
これまで、フィリスはネクに対して色々と酷いことをしてきた。
会って気まずい思いをしたくはない。
「あの、ネクはどうしている?」
「お兄様でしたら、えっと、特訓のために、留守にしています」
「特訓……」
「フィリスお姉さまはお気になさらず。それよりも、一緒にお風呂に入りませんか? 旅の途中、汗もかかれたでしょう」
「それはありがたいけど……」
フィリスは父親であるセオドアを見る。
表向きは仲良くしているが、ウェイン家はアンダーウッド家をよく思っていない。
裏では、常にアンダーウッド家を陥れようと画策していた。
だから、仲良くすることは許されないのではないか。
そう思っていたのだが――。
「折角のご厚意だ。行ってきなさい」
意外なことに、セオドアは首肯しながらそう言った。
その反応に驚きつつも、フィリスはイヴについて行った。
2
浴室に到着したフィリスは、自分の目を疑った。
彼女にとっての浴室とは、白く明るい外壁に包まれた空間だった。
この世界で唯一気を休めることが出来る場所。
だが、連れてこられた場所は、それとは正反対のものだった。
壁は真っ黒で、そこに白色の魔方陣がいくつも描かれている。
採光と換気のための窓はついているが、何故か塞がれてしまっている。
「ここは……」
「私専用の浴槽です。色々と調合した入浴剤も入っています」
「そ、そうなんだ。あの、暗くない?」
「それならご心配なく。ランプに火をつけますので。浴槽に身を浮かべながら、暗い部屋の中でランプを見る。結構、癒されますよ」
「へー」
「物は試しです。ぜひ入ってみてください」
促されて、フィリスは浴槽の側に行く。
その中には、緑色の液体が入っていた。
これが、イヴが調合した入浴剤なのだろうか。
触れてみると、少しヌルヌルしていた。
――これ、入りたくないなぁ。
そう考えながらイヴのほうに目をやる。
イヴは、蝋燭に火をともしていた。
それも一つではない。
いくつもの蝋燭に、次々と火をつけていく。
「あの、その蝋燭は……」
「リラックスするためのアロマキャンドルです」
「へ、へぇ。そうなんだ。何かの儀式で使うのかと思ったわ」
「ご安心ください。このアロマは、リラックス用ですから」
イヴは愛想のよい笑顔を浮かべた。
フィリスには、その笑顔が不気味なものに思えてしまった。
それを誤魔化すかのように、フィリスは言葉を続ける。
「それにしても、いつも、豪華なお風呂に入っているんだね」
「いえ、いつもはもっと適当ですよ。今日は、フィリスお姉さまがいらっしゃるということで、特別に用意してみました。お湯加減はいかがでしたか?」
「……丁度いいわ」
「それはよかったです」
そういうと、イヴはマッチを机の上に置く。
部屋にあるすべての蝋燭に火がついていた。
「さて、これで準備は整いました。お風呂に入ってしまいましょうか。脱いだ服はこちらの籠に入れておいてください。使用人が洗濯した後、明日の朝までに綺麗にしておきます」
「え、ええ。そうね」
フィリスは、服を脱ぐためにシャツに手をやる。
だが、その手は中々動こうとはしなかった。
何かが違うのだ。
目の前にいるのは、十二歳の子供。そして同性である。
その目の前で裸になることは、さほど恥ずかしいことではない。
以前、女性軍人用施設で訓練を受けたときは、もっと大勢の前で服を脱いだ。
あの時は、特になんとも思わなかった。
だが、今は違う。
服を脱ぎたくないと思わせるような何かをイヴから感じる。
それはきっと羞恥心ではない。
強いていうのであれば――恐怖だ。
この子の前で服を脱いだたら、取り返しのつかない何かをされてしまう。
そんな気がして仕方がないのだ。
でも――。
「おや、フィリスさん。どうされました?」
イヴは先に服を脱いでしまっていた。
子供らしい、ごくありふれた動作で服を脱ぎ去っていた。
その裸体は、年相応――あるいは、それよりも幼いもののように見えた。
だが、それ以上に、その美しさに目を奪われた。
魔法使いでありながら、傷一つない綺麗な肌をしている。
顔のパーツのつくりや配置は、まさに神が与えた芸術品。
まるで一流の職人が作り上げた人形のよう。
否――人形をも超越した、神秘的な不気味さを醸し出している。
それでいて、奇妙な色気も出ている。
少しだけ膨らんだ胸や小さな尻。
薄暗い中、ランプと蝋燭によって、その身体が照らされている。
フィリスには、それらが、何故か自分の身体以上に色めいたものに見えた。
「フィリスさん? フィリスさん? どうされました?」
「え、ああ、何でもないわ」
まさか、イヴの裸に見とれていたとは言えなかった。
適当にごまかしながら、フィリスはどうするべきか考える。
イヴはすでに服を脱いでいる。
こうなってしまえば、フィリスだけ服を着たままでいることは出来ない。
仮病を使うというのも考えたが、それは不誠実で躊躇われた。
それでも躊躇っていると――。
「ああ、そうだ。着替えのことでしたら、ご心配なく。私の服はサイズが合わないでしょうから、普段ネクお兄様が着ているものを寝巻として用意させていただきました」
「今、脱ぐわ」
とある事情から、フィリスはあっさりと陥落した。
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