第12集 イベントトッピング
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会社帰り、我が家の玄関を開けると棍棒を持った赤い鬼がいた。無言で締め、我が家のHome AIに問う。「何これ?」『節分イベントです』玄関の扉の両サイドに柊と鰯の頭が飾られている。娘にせがまれ『イベントトッピンング』をお試ししたのは昨年のクリスマス。年末年始は妻の実家で契約継続に気が付かなかった。「キャンセルは?」『イベント実行中のため、取り消しできません』手元の端末で家族の所在を確認。『鬼が軟禁の中(在宅)』となっている。「どうしたら終了できる?」『豆の購入は別料金となっています』。マジか。
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炒り豆、国産(一掴み)300円 を購入する。手のひらに豆がダウンロードされる。端末で『イベントトッピング 攻略法』を検索(予測欄の1番は『イベントトッピング ウザい』でひどく共感)した結果、『鬼にひと豆でも当てれば終了』当てそびれると『鬼に軟禁』されて、家のシステムが0時まで使えない…ってこれでは風呂にも入れない。扉を隔て鬼めがけて一瞬の勝負にでる。玄関を開け、鬼に豆を投げつけ……暗転する。
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「ごめんパパ。鬼モードにしちゃった」娘が笑う。くそ、だから目にも止まらぬ速さの棍棒に負けたのか。ダイニングテーブルには恵方巻きが並ぶ。その前の椅子に娘と妻が縄で縛り付けられている。「なんで勝手に」「だって料亭監修海鮮恵方巻きが食べたかった……もぐもぐ」青鬼が妻の口に恵方巻きを入れ会話を遮る。赤鬼が俺の後ろ手を椅子に括り付け、箸で厚焼き卵の恵方巻きを口元へ運ぶ。箸で口元へ運ぶなんて、極楽式か。「海鮮を食いたい」と抗議するが鬼が首を振る。好きな物から食わせてくれないなんて、やっぱり地獄だな。
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「なあ俺、野球が見たいんだけど……と言うか玄関に柊と鰯があったのに何で家の中に鬼がいるんだ?」強制的な食事の後(結局海鮮巻きにはありつけず)リビングのソファーに妻娘俺は座らされている。テレビの横で赤鬼と青鬼が阿吽の姿で睨んでいる。画面に流れているのは『節分の由来』。「エモ。明日学校で見せようっ」「インタスに上げよ」女達はTVを挟んだ鬼を端末で撮影し、俺は終了方法を検索していると赤鬼が俺の端末を取り上げる。「おい!何すんだよ」抗議すると縄で縛られた。マジでこのイベントトッピング、ウザい。
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鬼達がキッチンでお茶を入れている間、俺はひっそりと視覚野と感覚野を切断する。ワンルームの部屋にある卓上端末を立ち上げ、『イベントトッピンング 節分 終了 裏技』を見つけた後、再度接続を開始する。『前回、正常に終了されなかったため、接続に時間がかかります』の表示後、我が家に戻る。目の前には「福茶」が用意されている。ちゃんと縄は解かれず赤鬼が福茶を飲ませる。ずずずと啜り、茶に沈んだ豆を口に含むと、赤鬼に目掛けてプッと放つ。見事ヒット。鬼が消える「パパ汚っ!」「何してるの!」妻と娘に抗議されるが構わない。『我が家』で風呂に入り、野球が見るのだ。娘の湯呑みをつかみ、中身を青鬼目がけて投げると鬼に茶の豆が当たり、消える。うっしゃ! 俺は両手でガッツポーズする。妻と娘が叫ぶ。『パパの鬼っ!』
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