第20話
「――落ちよ我が星。この身に宿りて地上にて輝きを示せ」
――瞬間。
イリアの身体を薄い黒色の輝きが覆う。
「――イリアは絶対にあの男を……エルハザードを殺す。その為だけにイリアは生きている。他には何も必要ない。だから――アレを倒せるかもしれないデッドエンドには意地でも強くなってもらう。だから……あの女は邪魔。排除する」
『フハハハハハハッ。お前のその手段を選ばねえところは大好きだぜイリアァァァッ。それで? 標的は目の前の兄ちゃん……じゃねぇみたいだな』
「これは壊しちゃダメ。壊すのは……あっち」
『なるほど、あっちの嬢ちゃんか。事情は分からねぇが良いだろう。そんじゃまぁこの兄ちゃんどかしてとっとと殺っちまおうぜぇぇっ!!』
「ハシュマダ……うるさい。けど……異論は……ないっ!」
意地でもナナを殺すとのたまうイリアとその星であるハシュマダ。
「――なるほどな」
イリアの目的をある程度察するデッドエンド。
単純な話、復讐だろう。
何があったのかまでは分からないが、メテオレイゲンの首領であるエルハザードの事を彼女は大層憎んでいるようだ。
そして、イリアだけの力ではエルハザードを殺す事は叶わないのだろう。
先ほど見せた彼女のエルハザードに対する憎しみ……彼女一人でエルハザードを殺せるのならとっくにエルハザードを殺しに行っているはずだ。
彼女だけではエルハザードに及ばないから。だからこそ彼女は共生国へ……デッドエンドの下へとやってきたのだ。
そして何の因果か、イリアはデッドエンドならばエルハザードを倒せるかもしれないと。少なくともそんな可能性を見たのだ。
だからこそデッドエンドを強くしたい。だからこそ彼を戦わせ、その成長を促したい。
それとナナの命を狙う事には何の関係もないように見えるが――――――おそらく隊舎でのデッドエンド達の会話をイリアは最初から聞いていたのだろう。
それを聞いてイリアは、デッドエンドの身を案じるナナの存在こそがデッドエンドを戦場から遠ざけているのだと考えた。
だからこそ、イリアはナナを殺そうとしているのだ。
――全てはエルハザードという男を殺す為に。
理解は出来る。納得もした。
だが――
「その為にナナを……お前の憎しみとは無関係のナナを殺すだと?」
メテオレイゲンの首領であるエルハザードに届きうるかもしれないデッドエンドという刃を鈍らせない為。
ただそれだけの為によく知りもしない人間を殺すと言うのか。
「――ふざけるな」
ああ、ふざけるな。ふざけるんじゃない。人の命を何だと思っていやがる。
そんな目の前で起ころうとしている不条理を黙って見過ごすデッドエンドである訳がないだろう。
ゆえに――
「――落ちよ我が星。この身に宿りて地上にて輝きを示せ」
デッドエンドも対するイリアに負けじとその輝きを見せる。
その身に灼熱のごとき赤の輝きが
そして――
「てめぇを先へは行かせねえっ!」
『――そうか。譲れぬものがあるか。ならば良いだろう。この力、存分に使うがいい』
ナナを守るため、イリアの前に立ちはだかるデッドエンド。
そして、そんなデッドエンドに力を与える彼の星――アギト。
それらを前にしてイリアは、
「――っ!? 嘘……ありえない……」
デッドエンドに対して身構える訳でも、ナナを追う訳でもない。
アギトという星を降ろしたデッドエンドを前に、イリアはただ呆気に取られていた。
『おいおいどうしたイリアよぉっ! 星持ちくらい今更珍しくもねぇだろうがよぉっ!!』
「――ハシュマダ。星持ちが自分の思うように宿星をするのに一体どれくらいの時間がかかると思う?」
『あぁ?』
「イリアは……衝動で星を降ろして宿星を果たした。でも……思うように宿星できるようになったのは一年くらい特訓してからの事」
『ほぉ、それはまたご苦労なこったなぁ。で? それが一体どうしたってんだよ』
「目の前に居る男……デッドエンド。彼が初めて宿星を果たしたのは……数日前の事。それなのにもう宿星を物にしている。つまり――」
『つまり?』
「――天才」
天才。
そうデッドエンドを評するイリア。
だが、そんな評価などデッドエンドにとってはどうでもいい事だ。
「どうした? やめんのか? やめるならやめるで俺はいいんだぜ? 正直、オレにはお前を止める理由はあってもぶちのめす理由はねえからな」
幸いと言うべきか、イリアはナナを殺そうと動きはしたものの、それは未遂に終わっている。
その理由も理解できるものではあるし、何より星持ちであるイリアを相手するには今のデッドエンドは傷つきすぎている。
ゆえに、デッドエンドとしてはここで終わらせても構わない所なのだが――
「――気が変わった。もう星持ちとして戦えるなら……話は別。あの女には……手を出さない。イリアも本心では一般人に危害……加えたくないから」
ナナを狙う事はもうないと言うイリア。
しかし、彼女の纏った星の輝きは消えていない。戦う意志も健在なままだ。
「でも……これは良い機会。その星の力……イリアに示してみて。手加減は……うん…………その………………頑張ってする」
『あ゛あ゛? ふざけてんのかイリアァァ? んなナヨった戦いする気はこちとら微塵もねぇぞゴラァッ!!』
「じゃあ手加減しない。それで死ぬようなら………………どっちにしろエルハザードは殺せない」
イリアの手加減抜きの本気に殺されるようならどっちにしろメテオレイゲンの首領であるエルハザードは殺せない。
そんな滅茶苦茶な理屈を振りかざすイリア。
ゆえに、デッドエンドは、
「ハッ――」
文句を言う事もなく、ただ豪快な笑みを浮かべた。
「ああ。ああ上等だよっ! 流石は帝国の元第五将様だ。そういう理由なら仕方ねえ。存分に相手してやらぁっ!!」
流石は元帝国軍人。帝国内で五番目に強いとされた者なだけはある。
つまるところ、イリアはこう言いたいのだ。
殺すつもりはない。
だが、殺すつもりで行くぞと。
この程度の試練、乗り越えられないようならどちらにせよ我らの敵には歯が立たないぞと。つまりはそう言う事だ。
その考え方はまさに帝国流。
軍人たるもの死にたくなければ強さを示せと。そうイリアはデッドエンドに語り掛けているだけなのだ。
ならば、軍人としてそれに答えるほかないだろう。
むしろ、がぜんやる気が出たというものだ。
先ほどまでの戦う理由である『ナナを守らなければならないから』よりも『自身の強さを示す為』の方がデッドエンドとしてもやりやすい。燃えると言うものだ。
だから――
「――さて、ちょいと戦う理由が変わっちまったが……それでも力を貸してくれっか? アギト」
『問われるまでもない。言っただろう? 私は勝手にお前の力となるだけだ。その力をどうするもお前次第。好きに使え』
「そうかい。――それじゃ遠慮なくやらせてもらうぜぇぇぇっ!」
「――来て」
そして。
元帝国軍人。その九番目に強いとされていた男と、五番目に強いとされていた少女の戦いの幕が今、切って落とされたのだった――
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