第12話『共星』
「なんだ……これは……」
デッドエンドはソレを知らない。
星持ちの存在自体は彼も知っているし、戦った事もある。
しかし、こんなものは見たことが無いのだ。
『ほぅ……
デッドエンドの宿す星であるアギトが少し感心したようにそんな事を漏らす。
「アギト、あれが何か知ってるのか?」
『あれは共星。星が願う想いと宿主の想いが完全に一つとなった時に現出する力だ。そして我らの今の状態は
デッドエンドは相手から目を離さぬままアギトの言う共星に耳を傾ける。
そうしていると、ピンクの輝きを展開したエルハザードがクンと指先を動かした。
それが何を意味するか。デッドエンドは分からずそのまま警戒を続けるが――
『――――言うなれば共星は宿星の先にある力だ』
――ドガッ
――瞬間、デッドエンドは吹き飛ばされていた。
「がっ……なんっだぁっ――」
警戒は怠っていなかったはずだ。
いや、それ以前に今もエルハザードは動いていない。エルハザードの傍らに控えているエイズも同じくだ。
何かを飛ばされた? いや、エルハザードは指先を動かしていたが。明らかにあれはそんな動きではなかった。
では一体?
デッドエンドは吹き飛ばされながらも体勢を整えようとして――そこで気づいた。
「なんだ……これは……左腕が……動かない?」
デッドエンドはいつものように体を動かそうとして、しかし自身の左腕が己の意志に反して動かない事に気付く。
別に左腕が全く動かなくなる程の傷を負っている訳でもない。
そもそも、腕が動かなくなるような異常事態が体に発生しているのなら実際に動かすまでもなく気づいているはずなのだ。
しかし、デッドエンドは左腕を動かそうとして初めて、自身の左腕が動かない事に気付いた。
そうして再び、エルハザードの指先が動く。
すると――デッドエンドの左腕は加減も遠慮もなくデッドエンド自身へと拳を放ってきた。
「んなっ――ちぃっ。そう言う事かよクソがっ!!」
それらを見てデッドエンドは理解する。
これが共星。
エルハザード・レイヴェンとその星であるエスネアが望む世界の在り方。
即ち――支配。
その星の力により、デッドエンドは自身の左腕の制御権が自身から離れ、エルハザードへと移ってしまった事を悟る。
己の身体の一部が敵と回ってしまったのだ。
つまり、絶体絶命というやつだ。
どれだけの強者であっても、自身の体の一部の制御権が敵に移った状態で勝つのは困難だろう。
無論、両者に隔絶した実力差があれば話は別だろうが、エルハザードの傍らには部下としてエイズが控えている。
そのエイズという壁をハンデを負った状態で超えられるわけがない。
ゆえに、もはやデッドエンドに勝ち目などあるわけもなく――
「――まだだっ!!」
デッドエンドは自身へと迫る左腕を強引に右腕で掴む。
そして――
――ボキッ
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デッドエンドは何の躊躇もなく己の左腕を折った。
自身の思い通りに動かない左腕。
そればかりか敵の思うがままに動き、自身へと敵対する左腕。
デッドエンドはそんな自身の左腕を、何の躊躇もなく切り捨てたのだ。
結果、デッドエンドの左腕はもう動かない。
正確には動こうともがいているのだが、うまくいっていない感じだ。
「まだだ。まだ終わらねえ! こんなんで勝ち誇ってんじゃねぇぞクソ野郎共がぁっ! むしろ俺に狙いをつけてくれて感謝したい気分だ。自分の身体ならどれだけ傷つこうが構いやしねぇからなぁっ!!」
先ほどのように住民達を盾にせず、自分を直接狙ってくれて感謝する。
そうデッドエンドは心から思い、しかし――
「――そうかい。ならもっと傷ついてもらおうじゃねぇか」
また自分の体のどこかが操られるのか。そう身構えるデッドエンド。
しかし、そうではなかった。
「それは――」
呆然とエルハザードを見るデッドエンド。
そのエルハザードの周囲には様々な武器が浮かんでいた。
斧、剣、槍、鎖、鎌など様々な武器が空中にて待機していたのだ。
そして、その先端はどれもデッドエンドへと向けられていた。
「――俺を舐めるばかりか、支配すら受け付けない豚が。不愉快だ。ここで死んでろ」
酷くつまらないという様子でエルハザードはその手を振るう。
その刹那。
「……何のつもりだエイズ。お前も操ってやろうか?」
「お言葉ですが主。いかに主と言えどそれは難しいでしょう。それほど多くの武器を支配しながら支配されるほど私の自我は脆くない」
エルハザードの部下であるはずのエイズ。
そのエイズがエルハザードの腕を掴んでいた。
「てめぇの物差しで俺を測るんじゃねぇよエイズっ! 俺がその気になりゃ誰だろうが何だろうが支配できる。そうに決まってんだろうがっ」
「それは失礼しました。しかしながら主よ。どうか怒りを収めてください。あの者をここで殺す事が我らメテオレイゲンにとっての望みではない。それは主も理解しているはずでしょう?」
「…………………………ちっ――」
ゆっくりとエルハザードがその手を降ろす。
すると、同様に彼の周囲に浮かんでいた武器。その一部がエルハザードの懐へと戻り、その他は地面へと突き刺さる。
そしてエルハザードは身を
「――撤収だ。兵隊たちの指揮はエイズ。お前に任せた」
「御意に。後の事は私にお任せください」
「ああ」
そう言ってエルハザードは立ち去ろうとする。
デッドエンドが許せぬと。絶対にここで滅ぼすと決めた悪が去ろうとしているのだ。
だが――
「つっ――」
デッドエンドはその後を追うようなことはしなかった。
そのまま去っていくエルハザードをデッドエンドは見つめる。
そして――
『――懸命な判断だ。ここが潮時だろう』
デッドエンドの抱く星であるアギトがそう呟くと同時に、デッドエンドを覆っていた赤の輝きが霧散する。
「うおっとっ――」
突如、デッドエンドを襲うのは果てしない虚脱感。
今まで体に力が漲っていたデッドエンドだったが、それが突如なくなったのだ。
デッドエンドはそれで体から星の力――アギトが抜けたのだとすぐに理解できた。
「まずっ――」
座り込みそうになるデッドエンド。
しかし、休みにはまだ早い。
なにせ脅威であったエルハザードが去ったとはいえ、いまだにエイズがこの場に居るのだ。
アギトが居なくてもやってやると拳を握るデッドエンド。
だったのだが――
「――案ずるな。これ以上ここで何かをするつもりはない。むしろ、主が暴走してしまって申し訳なく思っているとも。初めて星を降ろした者にここまでする気はなかったのだが、主は私と違い感情的でな。やり過ぎてしまったのだろう」
そうやって身構えるデッドエンドに、エイズはもう戦闘の意志はないと伝える。
とはいえ、敵の言葉だ。それを「はいそうですか」と言って信じるなど愚かにも程がある。
「――そうかよ」
それでも、デッドエンドは拳を降ろした。
その時だった。
「エイズ様」
エイズの下に彼の部下の一人が現れた。
「ああ、すまないな。すぐに行くとも」
「いえ、そうではなく。共生国軍の一隊がこちらに近づいているのですがどう致しますか?」
「ほぅ……。もう軍が介入してくるとは。共生国の軍も馬鹿に出来たわけではないという事か? 何番隊だ?」
「先頭で指揮を執っているのがルクス・ガーランド。この国の騎士団長であったので、1番隊の者達だと思われます。ただ……それにしては荒っぽい連中も混じっていたので何かの混成部隊かもしれません」
エイズに対して報告する彼の部下。
その報告を聞いて、デッドエンドは笑みを浮かべてしまっていた。
「あいつら……隊長である俺の許しもなく独断行動とは。帰ったら絶対に虐めてやる」
エイズの部下が言っていた荒っぽい連中。
そんな者が1番隊に居る訳がない。
そもそも、そんな者達で構成された部隊などデッドエンドの知る限り共生国には一つしかない。
即ち、共生国軍第49部隊。
他ならぬデッドエンドが隊長を務める隊である。
「ルクス・ガーランドか」
「どう致しますか? 幸い、こちらの被害は軽微です。エイズ様さえ宜しければ――」
「いや、良い。想定外ではあったが、既に十分以上の目的は達せられた。これ以上は欲張りすぎと言うものだろう。――退くぞ」
「はっ!」
そうして退くエイズだが、最後にデッドエンドの方を振り返り、
「それではまた会おうデッドエンド。次に相まみえる時は更なる輝きを我らに見せるがいい」
そう言って、エイズとその部下たちは早々と撤収していった。
「つっ――。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
それを見届け、完全に気が抜けたデッドエンドはそのまま仰向けに倒れた。
その体は依然として虚脱感に包まれており、デッドエンドとしてはそのまま寝たい気分であった。
ゆえに、ただ一言だけ。
「上等だよメテオレイゲン。俺が必ず……お前らをぶっ潰してやる」
その為に輝きを見せなければならないと言うのならばいいだろう。そこまでも輝いてやる。
そうデッドエンドは心に決め、そして眠った――
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