第6話『リ・レストル村の戦い-1』


 ――リ・レストル村


「こいつは――」


「なんと惨い」


 速度をさほど落とすことなく、僅か数時間程度でリ・レストル村へと到着したデッドエンドとキーラ。

 足を止めた彼らの目に映るのは、炎上している村の様子だった。


 多くの家屋には火が放たれ、今も燃え続けている。

 既に倒壊している家屋も数えきれないほどだ。

 無論、それだけではない。


 そんな家屋に混じって、人体の一部と思われるものがあちこちに散乱しており、赤黒い液体――即ち血が辺り一帯に撒き散らされていたのだ。


 一体何人の人間がここで死んだのか、考えるのが馬鹿らしくなるほどに大量にぶちまけられた大量の血。

 それを見て、デッドエンドは拳を強く握りしめる。



「許せねぇ……こいつらが……この村の住人が一体何をしたってんだ!? ただ今日という日を必死に生きて。より良い明日になるよう努力してただけじゃねぇのか!? それなのに――」


「デッドエンド様……」


 強く握りしめられたデッドエンドの拳から血が流れる。

 絶対に許せない所業を前に、デッドエンドは既にキレていた。


 そうして――



「イヤァァァァッ!」

「たすけ……助けてくれぇっ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 炎が燃える音に混じって、村に悲鳴が響き渡る。

 それはまだ生き残りがいるという何よりの証左だった。


 デッドエンド達は声のした方向を見る。

 そこでは丁度、屈強な男達が逃げ惑う村人たちへと迫る姿があり――



「クソッ!!」


「デッドエンド様。迂闊な行動は――」


「命令だキーラっ。あいつらの注意は俺が引きつける。その間、お前は伏兵が潜んでいないか探るのと同時に生き残ってる住民達を可能な限り避難させろ」


「――っ。畏まりました。ご武運を」



 短いやり取りを終え、二手に分かれるデッドエンドとキーラ。


 デッドエンドは眼前にて行われようとしている悲劇を止めるべく走る。

 ちょうど、そこでは下卑た笑みを浮かべながら逃げ惑う幼い少女へとその剣を振り下ろそうとしている外道が居た。


 ゆえに、デッドエンドのすべきことは決まっていた。



「何をしてやがるんだてめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ――ドンッ



 デッドエンドの拳が下卑た笑みを浮かべていた外道へと叩きこまれる。

 油断していたというのもあるだろう。デッドエンドの拳を受けたその外道は「ぶへっ――」と間抜けな声を漏らしながら吹き飛び、崩れた民家の壁へと叩きつけられた。



「あ、あなたは……」



 そんなデッドエンドを見上げるは先ほどまで追われていた少女。

 そしてデッドエンドを見る者はその少女だけに留まらない。

 幸か不幸か、男達の残虐の手は止まり、その視線は全て乱入者であるデッドエンドへと注がれていた。


 それを確認し、デッドエンドは声を張り上げる。



「あぁ!? んなのいいからさっさと逃げなっ!! 大丈夫、ここはオレに任せておけ。だからお前はお前自身と、そしてお前が守りたいと思う誰かの事を第一に考えろ」



 それは何も自身を見上げる少女だけに向けたものではなかった。

 視界に映るこの村の住民と思われる者たちに向けて。


 ――否。

 視界に映る者達に向けてだけではない。

 それは声が届く範囲に居るであろう住民達に向けたデッドエンドの願いだった。


 お前らはどうか自身と、そして自身が大切に思う『誰か』の為に行動してくれ。

 そんな願いを込めてデッドエンドは声を張り上げたのだ。


 同時に、それは敵に対する警告でもあった。

 敵手よ。お前らの敵はここに居る。お前らにとっての『脅威』が現れたぞ。

 殺戮つまらないことに手を割く暇があるならまずはこの俺を討ち取って見せろ。



「は、はいっ。ありがとうございますっ!」



 そんなデッドエンドの意を汲み取ったのか、彼を見上げていた少女はまっすぐどこかに向かっていく。

 向かうのは倒れた家屋群。おそらくはそこにまだ少女の守るべき『誰か』が居るのだろう。


 少女一人だけでは不安だ。そうデッドエンドは思う。


 しかし、今のデッドエンドは少女一人の為だけに動くわけにはいかない。

 なにせ敵手は依然デッドエンドへと注意を払ったままなのだ。

 ここで隙など見せようものならいくら自分といえどもタダでは済むまいと分かっているからこそ、デッドエンドは去りゆく少女の事を意識から外す。


 そうして油断なく、敵対する数人の敵手をどうやって排除しようか算段を立てていると――



「――見事だ」


 突然送られる賛辞の言葉。

 声のした方をデッドエンドが見やると、そこには白銀の髪の青年が居た。

 銀髪銀眼の青年。

 何かこだわりでもあるのか、青年が身に纏う鎧も同じく白銀のものだった。



「その声、先ほどの通信でこちらの行いに憤っていた男だろう? 素晴らしい。ものの数時間でこの場に駆け付け、無垢な少女を救出する振る舞い。物語でいうところの勇者たるべきものだ。貴公こそが我らが求めし輝く者なのかもしれないな」


 そこでデッドエンドは気付いた。

 自身に賛辞の言葉をかける白銀の男。その声に聞き覚えがある事に。


「てめぇは……さっきの――」


 そう、それは通信先の男の声だった。

 この村、リ・レストル村にて虐殺を行うと言い放った憎き男の声。

 白銀の男はふっと笑い。


「エイズ・ピリドマン。それが私の名前だ。さて――私にも貴公の名を聞かせてくれないだろうか? 栄えある勇者の名乗りだ。心震えるものを願いたい」


 白銀の男――エイズ・ピリドマンはキザな態度を崩さないままデッドエンドの名を尋ねる。

 ああ、勇敢なる勇者よ。どうか物語の幕開けに相応しい名乗りを。

 

 そうとでも言わんばかりのエイズ・ピリドマンの態度に、デッドエンドはそのこめかみに怒りマークを浮かび上がらせる。

 



「はっ! 勇者だぁ? そんな大層なもんじゃねぇよボケが」



 そう。

 デッドエンドは自身の事を勇者などとはこれっぽっちも思っていない。

 勇者とはもっと輝かしい何かだ。


 生憎、デッドエンドはそんな輝きと自身は無縁だと思っている。

 デッドエンドが得意とするのは『暴力』だ。


 暴力はどこまで行っても暴力。そこに誇れるものなどある訳がない。

 そんな不器用な自分が勇者? 笑わせる。そんな訳がないだろう。


 だからこそ、デッドエンドは誇らしげにその名を高らかに名乗る。

 


「オレは共生国軍第49部隊隊長デッドエンドォッ! オレの大切な宝(無辜の民)に手を出すてめぇらみたいな馬鹿に終わりを与える民衆の矛だ」



 自分は勇者のような民衆を照らす光にはなれない。

 なればこそだ。

 自分は民衆に降りかかる悪意を片っ端から払う『暴力』で居よう。


 だからこその『デッドエンド』。

 オレの宝たる無辜の民を傷つける者よ。目にも見よ。

 オレこそがお前らの終わりだ。


 ゆえに――



「覚悟はできてんだよなぁ侵略者共ぉっ! 俺の大切な宝に手を出しやがって。今すぐそのクソな人生終わらせてやっから覚悟しろやぁ!!」



 目の前に蔓延はびこる侵略者共にかける慈悲などある訳がない。

 デッドエンドの名に懸け、民を傷つける者に出会った以上殺す以外の選択肢などあるはずがない。

 そうしてデッドエンドは現れた総大将らしきエイズを片づけるべく、その拳を振りかぶった。

 それに対するエイズは――



「お相手しよう。それこそが我らの望みなれば――」



 エイズは近くに居た部下に指示を出し、その部下の持つ通常の騎士剣を受け取る。

 その騎士剣を構え、彼は迫るエイズへと相対する。



 かくして、正体不明の一団である『メテオレイゲン』の将エイズと、軍人デッドエンドはぶつかり合った――


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