16:シャーリーに頼みたいこと
◆◆19◆◆
ドロシアが復活し、シャーリーの探索が再開する。
パイプについていたハンドルを回し、噴水を止めると途端に迷宮内には光が溢れた。
闇に包まれ、見えなかった場所も見えるようになる。だが、全てが解消された訳ではない。
一部だけまだ闇に覆われている場所があり、そこはなかなかに広い範囲だ。シャーリーはそれを確認してどうしたものか、と考えているとドロシアがこんなアドバイスを送った。
『シャーリー、困ったら杖よ。叩けば光が集まるわ』
「あ、そっか。杖を使えば明るくできるね。でも三十秒しか明るくできないよ?」
『通り抜けるだけなら三十秒あれば余裕よ』
ドロシアの言葉を聞き、彼女は「確かに」と納得した。
シャーリーは闇に覆われている部分は探索せず、そのまま通り抜けることにする。ひとまず泉に戻り、噴水にはめ込まれている七色ダイヤを叩いた。直後、光は杖の先端に集まり、強く美しい七色の輝きが解き放たれる。
急いでシャーリーは走り、闇に覆われているところを通り抜けていく。そんな彼女の後ろを白いモコモコが追いかけ、一緒に光が溢れる空間へ入ったのだった。
「わぁー!」
闇夜に覆われている空。点々と輝いている星があるが、その明かりが霞むほど美しい輝きがその空間に広がっていた。
七色ダイヤがはめ込まれた灯台があちこちに置いてある。そのおかげでどこもかしこも光が届いており、見えない場所はほどんどない。
七色の光が世界のあちこちを照らす中、シャーリーは不思議そうに周りを見渡していた。
ふと、近くに真っ黒なダイヤがはめ込まれた灯台がある。シャーリーが何気なく触れようとした瞬間、白いモコモコがローブの裾を引っ張った。思わず振り返ると何やら必死に止めようとしている姿がある。
シャーリーはひとまず触ることをやめ、白いモコモコを抱き上げた。
「ダメなの?」
「にゃー」
「うーん、よくわからないけどわかった。触るのやめとくね」
シャーリーはそのまま奥へと足を踏み入れる。ゆっくり見渡しながら進むと、様々なガラクタが転がっている光景が目に入った。
それが何を示しているのかシャーリーにはわからない。
だが、どれも何かに引き裂かれたような姿をしており、激しい戦いがあったことが推測できた。
そんな通路を進んでいると、白いモコモコがシャーリーの腕から飛び降りる。少し進んだ後、白いモコモコは「にゃー」と鳴き、シャーリーを待っていた。
「また何かあるのかな?」
『かもね。行ってみるわよ』
シャーリー達は白いモコモコの元へ向かう。追いかけてくる二人を確認した白いモコモコは、再び走り出した。
まるで案内でもするかのように前を走っていく。そしてそれは一番奥にある灯台に立ち、大きな声で鳴いた。
直後、大きな揺れが起きる。
灯台にはめ込まれていた七色ダイヤがより一層の輝きを放ち、弾けるように光が閃いた。その光にシャーリー達は飲み込まれる。思わず目を閉じるとそのまま飲み込まれていく。
何が起きたのか。シャーリーはそれを確認するために目を開くと、そこには見慣れない光景が広がっていた。
「え?」
青い青い空が広がっている。何気なく視線を落とすと、空を映す鏡のような水面があった。
闇は一切ない。だが代わりに、見通しが良すぎる光景だ。
シャーリーはそんな世界を目にして戸惑う。そんなシャーリーに誰かが声をかけた。
「驚きましたか? 迷宮探索者さん」
思わず声がした方向に振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。青みがかかった白い髪に、青いスーツ。青いネクタイを締め、どこか爽やかさを感じさせる。
優しい笑顔を浮かべているそんな彼を見て、シャーリーは目をパチパチとさせていた。
「誰?」
「あ、そっか。この姿を見せるのは初めてだったね。そうですね、僕はさっきまで君の傍にいた白いモコモコですよ」
「……何を言ってるの? 白いモコモコがあなたみたいな男の子の訳ないじゃない。お姉さんは騙されないんだから!」
「あはは……まあ、信じてもらえないですよね」
どこか困り顔の少年に、シャーリーはジトッとした目を向ける。
信じられていないことを感じ取り、彼は頭を抱えていた。
しかし、シャーリーの代わりに違う者が声を放つ。それはかつて賢者と呼ばれていた少女だ。
「なるほどね、あなた従使者だったの」
聞き慣れた声が耳に入る。シャーリーは振り返ると、そこにはこれまた見慣れない少女が立っていた。
燃え上がるように美しい赤い髪を二つにまとめ、眉は細く勝ち気があふれる目で少年を見つめている。スレンダーで背が高く、赤いドレスに黒いカーディガンに身を包んだ姿の彼女にシャーリーは息を飲んだ。
今まで見てきた人の中で感じたことがない美しさだ。とても力強く、言葉をかけることを忘れるほど目が奪われる。
目を外せない。そんな状態のシャーリーに気づき、少女は声をかけた。
「どうしたのよ、シャーリー? そんなにジッと見つめちゃって」
「も、もしかしてドロシアさんですか?」
「何言っているのよ、あなたは。どこからどう見ても私でしょ?」
「ホントにすっごい綺麗なんですね! 感心しました!」
「ハァ?」
興奮しているシャーリーを見て、ドロシアは怪訝そうな顔を浮かべる。気になったので視線を落とすと、なかったはずの手足があることに気づいた。
慌てて鏡面になっている地面を見る。
そして自分が元の姿に戻っていることに、ドロシアは気づいた。
「何、何が起きたの? 私、さっきまで本だったのに――」
「ああ、一時的に全ての付与と呪いが消えているんですよ」
「どういうこと?」
「そうですね、この空間は神域。だから許可なく力の行使すること、継続することはできないんですよ。おそらくあなたにかけられていた封印も一時的にですが解かれたかと」
「封印って、どういうこと。私は誰かに封印されていたの?」
「僕に聞かれても。ただ強力な封印が施されているみたいですよ」
ドロシアは考え始める。
傍にいたシャーリーはというと、理解ができていないのか茫然と二人を見つめていた。
そんな彼女を見て、少年が声をかける。そしてこんな頼みごとをした。
「シャーリーさん、でしたね。僕はウィニスと申します。実はあなたに頼みたいことがあるんですよ」
「私に頼みたいこと?」
「おそらくですが、目的は一緒です。だからお願いをしたいんですよ」
「もしかして、メドゥサ・ルーサのこと?」
「はい、その通り。あれは元々この迷宮にいる一概のモンスターでした。ですが突如、力をつけて迷宮から飛び出してしまいました。追いかけてどうにかしたいんですが、僕はここから出られない。だからあなたに倒してもらいたいんです」
シャーリーは考える。目的は一緒のためこのまま引き受けてもいい。だが、どうしてこうなったのかもう少し聞きたい。
だからシャーリーは突っ込んだ質問をした。
「何が原因で力をつけたのかわかるの?」
「残念ながら具体的には。ただ仲間がこんなことを言ってました。妙な紙切れを手にした瞬間、姿が変わったと。もしかしたらその紙切れを取り除けば奴の暴走を止めることができるかもしれません」
妙な紙切れ。それが何を意味しているかわからないが、原因であることに間違いなさそうだった。
シャーリーは話を聞き、「わかった」と返事する。それを聞いたウィニスは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。では早速ですがやっていただきたいことがあります」
「やってほしいこと? なになに?」
「この迷宮は元々、僕と仲間が管理をしていました。だけど力をつけたメドゥサ・ルーサの子分によって力尽くでその権限を奪われてしまいました。だからまず、その子分を倒して欲しいんですよ」
「えー! 私にできるかな?」
「できますよ。それに僕と仲間が支援します!」
ウィニスはシャーリーを鼓舞する。彼女はそれにちょっと困りつつも、照れ笑いを浮かべていた。
ドロシアはそんなシャーリーを見てやれやれと頭を振る。
危なっかしい戦いだったが確かに一人でオークをシャーリーは倒した。それにウィニスと仲間の支援があればどうにかなるだろう。
だが、ドロシアには少し気になることがあった。それはこの迷宮を支配した存在についてだ。
「ねぇ、ウィニス。あなたが管理してた迷宮を奪ったのってどんなモンスターなの?」
「……僕の仲間です。いえ、正確には違うんですが」
ウィニスは暗い顔をした。
ドロシアはそんな表情を見て、複雑な事情があると感じ取る。
そのうち突っ込んで聞かないといけないこと。しかし、今はその時ではない。
そう考え、ドロシアはこう切り出した。
「そう、わかったわ。じゃあ頑張ってそいつを懲らしめようか」
深くは聞かず、まずは目的達成を優先する。
そんな姿勢のドロシアに、ウィニスは安心したような表情を浮かべた。
「すみません。あ、もしよろしければこれを受け取ってください」
ウィニスはシャーリーにあるものを手渡す。受け取り、よく見てみるとガラスでできた透明な何かだった。
思わず頭を傾げていると、ウィニスはこう告げた。
「それはガラスの種です。もしあなたに資格があれば、美しい花が咲き誇るでしょう」
ガラスの種、と言われシャーリーはギルドマスターの探しものを思い出す。もしかしたら特別報酬がもらえるかも、と考えるがすぐにそれは消えた。
それをもらうにしても何にしても、今起きている事件を解決しなければ意味がない。
だからシャーリーはウェストバックにガラスの種をしまった。
「ありがとっ、ウィニスくん!」
こうして重要なアイテムを手に入れたシャーリーは、ウィニスを仲間にし動き始める。
迷宮の平和を取り戻すためにも、支配権を奪った敵との戦いに挑む。
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