6:初めてのポーション作り
◆◆7◆◆
ドロシアの指導の元、綺麗な水を生成したシャーリーは次なる挑戦をしようとしていた。
次に生み出すもの、それは外傷を治す薬品〈ポーション〉だ。
迷宮探索をするなら数個は持っておきたいアイテムである。だが、ポーションはあまり流通していない薬品であり高価。
例え手に入れたとしても粗悪品であることが多く、高品質なんて手に入れることなんて不可能と言われるほどだ。
そんなとんでもないものをシャーリーが手掛ける。
本当にできるのか、という不安が大きい彼女だが、それと同じぐらいにもしも生み出せたならという期待も胸に抱いていた。
『さて、まずはさっき摘んできてもらった草を細切れにしてもらうわ』
「細切れに? どうして?」
『草の中にある成分を抽出しやすくするためかしらね。あ、ちなみにシャーリーが摘んできた草は〈ポポン草〉っていう名前のものよ。どこでも群生してて、手に入れやすいから覚えていてね』
「はーい」
シャーリーはドロシアの指示を受け、ポポン草をナイフで細切れにし始めた。
まだ新鮮ということもあり、緑色の水分が出てきたがとりあえず気にせず切っていく。
ひとまず摘んできた全てを細切れにし、ドロシアを見る。するとドロシアはこう指示を出した。
『全部やったわね。よし、じゃあそれを全部キレイな布の上において』
「こう?」
『そうそう。そうしたら包んで、中身が出てこないように結んで。それを熱した水が入ってる釜の中に入れて、しばらく様子を見るわ』
煙を吐き出している釜にシャーリーは指示通り布を入れた。
するとどんどんお湯が緑色に染まっていく。どうやらポポン草のエキスが布から染み出ているようだ。
どんどん広がっていく緑色。シャーリーはその光景を見つめていると、お湯の色がさらに変化を起こし始めた。
「あ、黄色になってきてる」
『あら、思ったより早いわね。ちょっと温度が高かったかしら?』
「ねえねえ、何が起きたの?」
『そうねぇ、簡単にいうならこの液体がポーションに変わる材料の一つになり始めているってことかしらね。おそらくそろそろいい頃合いよ』
「え、そうなの?」
シャーリーはもう一度釜の中を覗き込む。
緑色がだんだんと黄色に変わり、なぜだかわからないが輝いているようにも見えた。
そんな不思議な光景を見つめていると、ドロシアが『そろそろ火を止めて』と指示を出す。
言われた通りに釜を熱くしていた薪から火を消し、シャーリーはもう一度釜の中を覗き込んだ。
すると液体は完全に変色しており、月明かりを受けたためか黄金に輝いていた。
「わぁー、キレイー。これ何ぃー?」
『これは〈ホポンエキス〉よ。ポーションを作るために必要な材料の一つね』
「他にも材料を作らないといけない?」
『ううん。あとはあの木から取れる果実の蜜を入れればいいわ』
ドロシアに言われ、シャーリーは中庭に生えている大木を見た。よく見ると枝に丸々とした赤い果実があり、なんだか美味しそうに見える。
しかし、昇って採るには一苦労しそうな位置にあった。
どうしたものか、とシャーリーは考える。
ふと何気なく地面を見ると赤い果実が転がっていた。試しに手に取ってみると、それはまだ新鮮なもの。
これなら使える、と考え彼女は落ちている果実を拾い始めた。
「ふーんふふーんっ」
鼻歌交じりにシャーリーは果実を拾っていく。それを少し離れた場所でドロシア達は優しく見守っていた。
なんやかんなでたくさんの赤い果実を集めたシャーリーは、ドロシアの元へ駆けていく。彼女の頑張りとその成果を見たドロシアは『よく頑張りました』と褒めた。
『それじゃあ、果実を細かく切って。あ、その前に蒸留水を釜に入れてお湯にしておいてね』
「うん、わかった」
『それができたら布の袋に入れて、お湯の中に入れて。そしてらそうね、とろみができてきたらさっき作ったポポンエキスをちょっとずつ入れてかき混ぜてね』
「はーい」
シャーリーは言われた通りの手順で作業をしていく。
キレイな水を釜に入れ、煮立つかどうかぐらいまで熱くする。水が熱くなるまでの時間で赤い果実を細かく切っていき、布の袋へ入れた。
あとはそれを釜の中へ入れ、とろみが出てきたことを確認してからポポンエキスをちょっとずつ注ぎ、かき混ぜていく。
すると液体に変化が起きる。
澄んでいた液体が黄金に変化し、先ほど作ったポポンエキスよりも一層の輝きを放ち始めた。
初めて見るキレイな液体。まるでそれが光を発しているかのような輝きがあり、それを作ったシャーリーはただ目を丸くしていた。
「すごくキレイー」
『あら、思ってたよりもいいものができたわね。あなた才能があるんじゃない?』
「えへへっ。ところで、ちゃんとポーションできたかな?』
『もちろんよ。これでポーションの完成よ』
「やったぁー!」
シャーリーは感嘆の声を上げた。
様子を見ていたアネット達もまた、あまりの美しさに驚いている様子だ。
「すごい、こんなキレイなポーションは見たことないです。ポーションって緑色で淀んでる液体だから、同じ物とは思えませんよ」
『どんだけの粗悪品を使ってたのよ。それ、腐ってるわよ』
「俺達は腐ってるポーションを使ってたのか。まあ、薬を作れる奴なんざあまりいないからよくわからなかったしなぁー」
『よくわからないで済まさないの。下手したら死んじゃうわよ』
「ところでこれ、効果はどうなんだ?」
『そうねぇ、見た限り高品質。効果はたぶん、スリ傷なら一瞬で治るわ』
「そりゃすごいな。一瞬で治っちまうのか!」
シャーリー、アネット、そしておじさんが感心しながらできたばかりのポーションを見つめていた。
そんな三人を見たドロシアは、ちょっと不思議そうな顔をする。
『そんなに長い間、私は眠ってたのかしら?』
その確認は後にするとして、シャーリーにあることを教えた。それは錬金術は他にもアイテムが生み出せるということだ。
『シャーリー、魔石ってわかる?』
「うん。モンスターを倒すと手に入る素材だね。それがどうしたの?」
『察しが悪いわね。それも錬金術に使えるのよ』
「そうなの?」
『やり方はいろいろあるけど、それは後々かな。とりあえず錬金術の材料として使えるわ。あとはそうね、さっきの目つきが悪い男が置いていった黄鉄鉱といった鉱物、場合によっては他のモンスター素材も使えるわよ』
「そうなんだ! じゃあもっとすごいのも作れるの!?」
『作れるわ。場合によっては伝説上のアイテムもできるわよ。あ、だけどそれは私も作り方わからないから、研究しないといけないけどね』
「すごいすごい! 面白いね、錬金術!」
『でも、今作れるのはポーションが限界ね。あ、ポーションも作り方次第でもっといい品質のものを作れるわ』
「どうやって作るの?」
『教えなーい』
「えー? どうしてぇー?」
『ここからはあなたの課題よ。錬金術の答えはたくさん。だから自分なりに研究して見つけていきなさい。あ、基本的な作り方は教えてあげるから、その時は遠慮なく聞いて』
「むぅー、ドロシアさんのケチぃー」
シャーリーはちょっとむくれた。ドロシアはそれを見て、ちょっと意地悪そうな笑顔を浮かべる。
こうして錬金術と出会ったシャーリーの初日は終わろうとしていた。だが、その前にアネットがあることを訊ねる。それは迷宮探索についてだ。
「あ、ところでシャーリーさん。明日は迷宮に行くのですか?」
「はい、まだ装備はないですけど、安全なところで素材を集めようかなって」
「なら、ギルドの換金所などをご利用ください。あ、錬金術で作ったアイテムも換金できると思いますから、ぜひお持ちくださいね」
「ありがとうございます! じゃあ作れるだけポーションを作って持っていきますね!」
こうしてシャーリーはやる気を出す。しかし、張り切り過ぎて抱えきれないほどのポーションを作ってしまった。
ドロシアに『もったいないことしないでよ、バカ』と怒られつつ、シャーリーはギルドへ向かう。そこで換金し、思っていた以上のお金を手に入れたのだった。
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